229 迫る大飢饉(八)
……これは、もしかして医務室?
見たこともない機械が並んでいるけど、雰囲気からすると病院の処置室とか手術室だと思う。
あれが全て魔術具だとしたら、高度文明紀の医術って、魔術具でケガや病気を治していたってこと? はあ? 本当に……?
凄い物を発見したっていう気持ちと、検証するには医学部の教授や看護師が必要になるなぁって、直ぐに人員確保を考えてしまう。
流民のことを考えると、医師や看護師は必要だから、この魔術具や高度文明紀の医療を研究してみないか? って誘えば、きっと来てくれる。いや、絶対に来る!
特に王立能力学園付属病院の医者は、医療の限界を常に嘆いていたから、学園を休職してでもやってくるだろう。
「サンタさん、どうしたの? 何かあった?」
そう言いながら心配そうに駆けつけてきたアレス君が、部屋の中を見て私同様に絶句した。
「これって、たぶん病院だよね?」
「うん、そう思うよアレス君。でも、この数の魔術具を起動させても、医者じゃなきゃ検証ができない」
部屋の中に少し入って、診察ベッドをそっと触ってみる。布とは違う材質のようでツルツルしているから、水をはじくんじゃないかな?
「ということは、医学部にもお誘いを掛けるってこと? まあ確かに、神聖領ガイアスラーには医者が居ないから、チャンスではあるね、サンタさん」
「うんうん、患者を診察する見返りに、いや、うちの領民を診察してくれたら、大陸で一番最初に高度文明紀の医療を自分の目で見れるよと言えばいいかな」
頭の中に、医者と魔術具の関係者が、一緒に検証してる光景が浮かんできた。
「戦争も終わったから、医療の進歩のためという名目と、他国に先駆けて医療魔術具の研究ができるという抑えきれない好奇心で、きっと大勢がやってくるだろうね」
確かに医学部だけじゃなく、発明学科や鑑定士学部も、じっと待ってなんていられないだろうな。
間もなく七月だし、夏季休暇にも入る。
……よしよし、貴重な人員確保のチャンスだ。ここは、発明学科のミルーメ教授あたりに自慢話と一緒にお誘いいただくのがいいだろう。フッフッフ、ハッハッハー。
こんな重要な部屋は一般公開できない。最速で開閉禁止の魔法を掛けておく必要がある。
「サーク爺、扉開閉禁止の具体的な方法を、私とアレス君に教えて」
私は医務室の扉を閉めて、サーク爺にお願いする。
『了解じゃ。基本はこの前作った魔核に魔力を充填しないと開くことができない扉と同じじゃが、開くことを禁止する魔法なら簡単じゃ。ただし、開く時は解除魔法を使わねばならんから、中級以上の魔法使いが必要じゃぞ』
「うん、大丈夫。それでいいよ。アレス君、これからサーク爺が、扉を開くことを禁止する魔法を教えてくれるから、一緒にやってみよう」
私はアレス君と一緒に、禁止魔法を練習する。
そうこうしているうちに、仲間のハンターたちが開いた他の扉にも、重要な施設がたくさんあることが判明した。
もちろん、それらの扉全てに禁止魔法を掛けたよ。
重要な部屋は、医務室、錬金室、鉱石倉庫、武器庫、魔術具部屋、研究室らしき部屋が七部屋の、全部で十二部屋に禁止魔法を施し、シリスの前足で手形を五つ付けた。
これからシリスの手形は、開閉禁止部屋には五つ刻印し、有資格者のみが開ける部屋には四つ刻印し、管理人または教会関係者の立ち合いが必要な部屋には三つの刻印をつけると決めた。
二つが販売目的の扉で、一つが研究者や関係者の宿舎の扉って感じでいいだろう。印がない扉の部屋を、流民の住居にする。
シリスが喜んで手形を押してくれるので、大助かりだ。
アレス君と二人でシリスに抱き着き、感謝のワシャワシャをして、おやつの干し肉を進呈した。
かと言って、全ての部屋に手形は付けられないから、住居と宿舎以外は基本的に禁止魔法を掛けることになるだろう。
「どうやら第一扉の手前は、このロードの重要施設が集中しているようだな」
【最速踏破者】のリーダーが、第一扉の前の休憩所でお茶を飲みながら意見を言う。
「そうだな、あれは一般人には見せられない代物だ。特に一般ハンターたちには、価値も用途も分からないだろうから、いじって壊しでもしたら大変だ」
【ロードの悪魔】のドットルさんも、あれ程の数の魔術具なんて生まれて初めて見たと、ちょっと興奮しながら言う。
他のメンバーも、見たこともない魔術具や品物が凄すぎて、扉の中に入る時に体が震えたなんて真顔で言っている。
第一扉の近くは一般住居ではなく、ロードの公共機関だったと思って間違いないだろう。
翌朝、第一扉に魔力を流して扉を開き、倉庫群のある区画へと入った。
流民のために、どうかトカゲさん出てきてねと、鼻歌を歌いながら進んでいく。
そういえば、第二扉に向かう途中に側道があったなって思い出した。
「アレス君、第二扉の手前に側道があったよね。もしも大トカゲが居なかったら、そっちに行ってみよう」
「確かにあったね。今回探索出来たらいいね。暫く流民の受け入れで忙しくて、こっちには来れないかもしれないしね」
アレス君と会話しながら、側道のことをハンター仲間にも伝える。
第一扉から第二扉までの距離は、およそ四キロくらいだと分かっているので、ゆっくりと歩きながら、時々閉まっている扉も開けて、この区間の簡単なマップを描いていく。
前回の調査では、殆ど扉を開けていないので、開けるのが楽しみでもあるけど、この区間には地底生物が居るから用心が必要だ。
二キロ進んだ所で、以前開きっぱなしになっていた扉の中から、何やら音が聞こえてきた。
「何か居るぞ、サンタさん」
「了解、リーダー。全員警戒態勢に入って!」
私の声を聞き、皆が空間拡張ポーチから武器を取り出し構えをとる。
昨夜、私とアレス君は大人の掌大のポーチを縫って作り、空間魔力を流して空間拡張ポーチを八つ完成させ、仲間にプレゼントしていた。
このポーチは、二センチの魔核嵌め込み型で、魔力を流せば誰でも使用することができる。収納量は一・五メートル四方だ。
……全員、小躍りしながら喜んでたよ。
「シリス、お願い」
「ガウ」
……シリスがあまり警戒していないから、危険度は低い気がするんだけど。
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