228 迫る大飢饉(七)
早く巨大トカゲを討伐しに行きたいところだけど、予想通り感動し過ぎて全く収拾がつかなくなったエイバル王国の皆さんを、落ち着かせるために扉を一つだけ開けることにした。
本日皆を案内するのは、大神官様と私担当の上位神官様、そして、どうしても手伝いたいと手を挙げた黒ヒョウのオルスバーンさんだ。
今回は、これまで開けた扉以外は開けないと断言してある。
もしも、一人でも自分勝手に扉を開けるような愚かな行いをしたら、次の調査から全員の参加を断る。
また、国に帰る時に渡す予定の素晴らしいお土産も、全員に渡せなくなるぞと、今から開く扉の前に集合した全員に、厳しく言い渡した。
「大丈夫ですよ大賢者様。この【サンアンシスロード】の半分の権利は、ガリア教会にあるのですから、敬虔なガリア神の信者であり、エイバル王国の代表として参加された皆さんが、そんな愚行をするはずがありませんから」
黒く……いや、神々しく微笑まれた大神官様の話を聞き、はしゃいでいた皆さんが、引き攣った顔で「勿論です」と返事する。
私は気軽に大神官様と話をしているけれど、本来大神官様は、国王や高位貴族くらいとしか面談されることがない、凄く偉い人なんだよね。
国王さえ礼を尽くす存在だから、大神官様や教会から睨まれたりしたら、家族の冠婚葬祭など教会で行う式典に、大きな影響が出てしまうのだ。
全く別の話だけど、私とアレス君がエイバル王国を出ていく要因の一つでもあった、戦時中に私の危篤の知らせを握り潰した、父方のバコード子爵家の伯父と、母方のファイト子爵家の伯父について、大司教様は国王が下した処罰を不服とし、この二人の伯父を近く破門する予定らしい。
国王が下した処罰は、この二人には子爵家を継がせないという内容だったけど、伯父の子が継ぐことは禁止されていない。
もしも教会が本当に決定を下すと、二人の伯父は、全ての教会行事や家族の冠婚葬祭に参列することさえできなくなる。
教会を破門されるっていうことは、ある意味、爵位を落とされる処罰よりも、世間体が悪いのだ。
教会の決定を回避するには、国王が処罰内容を変えるか、私が許すと言わない限り、覆ることはないと大神官様が言っていた。
私は、血の繋がった八歳の姪を故意に殺そうとした二人を、許す気なんてないし、可哀そうだとも思えない。
……だって、絶対に反省なんかしていないと思うもん。
さて、話を戻して、これから開く扉には目印がしてある。
こんなこともあろうかと、これまで開いた扉には、目印として光猫シリスの手形を押してある。
シリスには魔力があり、ちょいと力を入れると物体を少しへこませ、手形や足形をくっきりと残せるのだ。
可愛いシリスの手形がポンポンポンと並んでいる扉は、すご~く和む。
明日はサーク爺の指導で、扉の開閉を禁じる魔法を施す予定だけど、全長二十キロもある居住区の全ての扉に施すなんて無理だ。
居住区は北区・中央区・南区の三つに分かれていて、各居住区を区切る扉があるので、今回の調査が終わったら、中央区に入る扉を完全封鎖するつもりだ。
千人の流民が暮らすには、北区だけでも全長十三キロもあるから、全く問題ない。寧ろ、北区の半分を仕切りたいくらいだ。
流民を犯罪者にはしたくないから、罪を犯さないよう扉の管理は厳重にしなければならない。
問題は流民の管理をする者だけど、あまりに人手不足で心当たりさえない。
まあ、これから短くても二か月間は、エイバル王国の王立能力学園の教授たちや、教会大学の教授や学生たちが、大挙して押し寄せる可能性が高い。
エイバル王国王立能力学園と教会大学に、【サンアンシスロード】の中に調査拠点を置かせれば、必ず十人以上は地下生活をするだろう。
年齢的に五十歳代以上が多いから、毎日地上との往復をするより、きっと地下生活を選ぶと思う。
正式な監視役として任命するのではなく、相談役的な仕事としてお願いしておけば、研究に没頭したいがために、流民に無駄な時間を取られないよう、率先して尽力してくれる……気がする。してくれるよね?
まあ教会大学の教授たちは、身分を振りかざして流民を虐げるような野蛮な人種を軽蔑しているから、流民に無体なことなどしない。
王立能力学園の皆には、流民に仕事を手伝わせてもいいと言ってある。
どのみち流民の皆さんには、町づくりや畑づくり等の仕事をしてもらう予定だ。
私が目指しているのは、タダでご飯が食べられる教会の救済とは違い、自活を促し生きる術を与える救済だ。
領主が捨てた流民は、ガイアスラー領の領民になることが可能だから、農奴や奴隷ではなく、頑張る者には、領民として生きる道を選ばせたいのだ。
これまで奴隷や農奴として働いていた時は、作った農作物を領主に搾取される側だったけど、私が領主として望むのは、働きに応じて報酬が得られるというものであり、何もしなければ報酬は得られない。
生きるために働くのは当然であり、けが人や妊婦であっても、できることは必ずある。
さすがに産後間もない女性や幼児には、働けとは言わないけどね。
働いても働いても搾取されるなんて、そんな人生じゃあ苦しいだけだ。
働いたらご飯が貰えて、働いたらお金が貰える。苦しいだけの労働じゃなく、喜びのある働き方を覚えて欲しい。
夢かもしれない。ただの理想だと笑われるかもしれない。でも、やってみなければ分からない。
最初に開いた扉は、絨毯屋さんだった店だ。反応は前回の調査の時と然程変わらず、商業連合の皆さんの食いつきが凄かった。
この後は、護衛として【ロードの申し子】の皆さんを同行させ、中央区の扉を開けた地点まで進んでもらい、今夜の宿泊場所とする。
明日は南区の最終地点まで行って、今居る地点まで戻ってもらう。
ここからは完全に別行動である。
私とアレス君とシリスは、【最速踏破者】六人と【ロードの悪魔】の二人を連れ、巨大な第一扉へと向かっていく。
安全を考えて、今夜は扉の前で泊まるけど、今日は扉の周辺の扉を全て開けてみる予定だ。
そして、第一扉まであと三百メートルという地点から、皆で手分けして扉を開けていく。
「なに、ここ……」
開いた扉の中を見て、思わず私は絶句した。
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