邂逅
その日、俺はCAさんたちと一緒に狩りに出ていた。
今回のリーダーは、竜ヶ原さんである。清水さんは拠点に残って、何かやってるらしい。
竜ヶ原さんは雷魔法の使い手だが、今回は風魔法の使い手、雲井さんも同行しており、攻撃的な布陣だった。もう1人いるという索敵使いも、清水さんと拠点に残っている。
索敵使いがいないなら間久部が同行するべきのところだが、間久部まで拠点で清水さんに使われているのであった。
おかげで、今回は皆が神経を張り巡らし、良い経験になりつつあった。
狩りは順調で、全長1メートルぐらいのトカゲを3体狩って、魔石を手に入れている。肉については、不味そうという意見が多く、捨ててしまった。なんとも、舌のこえた漂流者たちである。俺も、ちょっと臭そうだったので、無理に食べる気にはなれなかった。
「イノシシさんは、いないかな〜?」
食欲旺盛なのを隠そうともしないのは、治癒魔法使いの宮島さんだ。
今のところ、彼女の出番はない。良い事だ。
俺は、列の一番後ろにいる。
なぜか、隣には当然の様な顔で竜ヶ原さんがいる。彼女、俺のお目付け役か?どうにも監視されている感じで、やりにくい。彼女はにこにこしているが。
「あ、牛よ」
防御魔法の多摩さんが緊張した声を上げる。
見れば、こんな森の中だというのに、巨大な牛が悠々と木の枝を齧っていた。
「でかっ……!」
牛は3メートルぐらいの全長があった。湾曲した角も、かなり立派だ。
「牛肉!」
宮島さんの目の色が変わる。
俺は、持って帰る苦労を想像してゾッとする。
「まず皆に魔法強化バフをかけてから、あいつにデバフをかけるわね」
バッファーの坂下さんが、慣れた様子で宣言する。
「了解!」
しかしそのタイミングで、巨大牛の足元の地面から土の槍が何本も伸びて、牛に突き刺さった。
「え!?」
まだ、誰も魔法など撃っていない。そもそも土魔法使いがメンバーにいない。
「ぶもぉぉおおおっ!!」
牛が巨体を揺すると、土の槍がボキボキと折れる。
「やばっ!多摩さん、シールド!!」
「はいっ!」
一行の前に防御魔法が展開される。
が、巨大牛が睨んでいるのは、別の方向だ。
だん!!と地面を蹴ると、睨んだ方向に突進して行く巨大牛。走るだけで凄い地響きがする。
「うわっ!」という男の悲鳴が聞こえた様な気がした。
巨大牛はその巨体で立ち木を削りながら走り去って行った。
「あぁ~、牛肉が〜」
宮島さんの悲痛な声。
しかし、俺はホッとしていた。あんなの、簡単に狩れないぞ。
「でも、誰の土魔法?高校生にも、土魔法使いなんていなかったんじゃないかしら?」
竜ヶ原さんがつぶやく。なんと、高校生たちの能力も把握してるのか。
俺たちがなんとなく巨大牛が走り去った方向に歩いて行くと、突然地面が割れて、男が2人出て来た。
「うはぁー、死んだかと思った!」
「バカヤロー、だから無理だと言っただろ!」
若い2人だ。見覚えがある。浜部グループにいた筈。
「芦屋さんと青山さんね!」
竜ヶ原さんが声をかける。
「あ、CAさん!」
「どういう事?大丈夫?」
「いやぁ、お恥ずかしい。牛を狩り損なって、土の中に潜ってやり過ごしました」
「なるほど。芦屋さんが土魔法使いだったわね」
「あ、もしかして、狩りの邪魔しちゃいました?」
「ううん、それはいいの。あなたたち、怪我はない?」
「大丈夫です。土の中に逃げるのは、大得意なんで」
「そ、そう……」
「でも、2人だけで狩りをやってるのか?」
俺も、横から口を出す。
「浜部さんたちは何をやってる?」
「あの人は、もうトシだから、出て来ませんよ」
「浜部さんのグループには、もう1人いただろ?」
「ああ、橋元さん。……あの人は浜部さんの腰巾着で、やっぱり出て来ません」
「おいおい、それで君らが2人だけで狩りをやってるのか?」
「仕方ないですよ。俺たち若い2人が皆の見本にならないと」
「見本?そりゃ立派な話だけど、浜部さんにそう吹き込まれたのか?」
「吹き込まれたって言うか、俺たちも納得しちゃったんで……」
そういう芦屋くんの目の下には、はっきりと隈が浮き出ている。
「むーう、洗脳っぽい話だな」
「いやいや。俺たちは地球じゃ遊んでばかりの大学生だったんで、ここが正念場なんですよ。良い男になれるかどうかの」
「それも、浜部さんの……」
「いいんですよ、心配してくれなくて」
力なく笑う2人。
「そうか?でも、2人だけで狩りは上手くやれてるのか?なんなら、今日だけでも一緒にやるか?」
「え?それは嬉しいかも」
そういう訳で、イレギュラーな2人が狩りに参加する事になった。
「芦屋です。21才。土魔法が使えます」
「青山です。同じく21才。魔法反射を持ってます」
「魔法反射?また、マニアックなのに手を出したな」
「もっと魔法戦を想像してたんだけど、動物相手の狩りばかりじゃ無能扱いで……。今日も魔石を持って帰らないと、何を言われるか」
「いやいや、これからきっと重宝される様になるさ」
オオカミ獣人みたいな化け物がいたのだ。魔法を使う魔物が現れても不思議はない。だいたい、あのオオカミ獣人にしたって、俺たちの魔法を見ても不思議そうにはしていなかった。という事は、魔法というものを知ってる訳だ。
そこから俺たちは、暗黙の了解のまま巨大牛の追跡を始める。
宮島さんではないが、牛肉の魅力には抗えないのだ。肉の運び手も2人増えた事だし。
「そう言えば、皆さんは街は探してないんですか?」
「街か。いずれ探す気ではいるが、今のところは準備を整えてる感じだな」
「そうですか……」
「街を探してるのか?」
「街を探せって言ってるのは、浜部さんなんですけどね。俺たちも地球以外の街には興味あるし」
「そうだな。どんな人たちが住んでるのか、興味はあるな。でも、こちらの生活基盤が固まらないうちには、まだ接触したくはないかな」
「そうね。対等に話が出来る程度の力は欲しいわね」と、竜ヶ原さん。
「それは、武力を強めるって事ですか?」
「武力も否定しないけど、例えば取り引きに使える物質をそろえるとかね」
外国人と接する機会の多いCAさんだけあって、竜ヶ原さんは現実的な考え方をする人の様だ。
「でも、何が使えるか、接触しないと分からないんじゃ?」
「そうね。出来れば、先に情報が欲しいわね」
という話をしていると。
「牛肉、発見!」
宮島さんが小さく声を上げた。
「先の手順で行くわよ!」
坂下さんが魔法強化のバフをかける。力が漲る。
「デバフ!」
巨大牛に紫の光が吸い込まれる。
その途端、巨大牛がこちらを振り向いた。
「シールド!」
再び多摩さんの防御魔法が展開する。
「魔法攻撃!遠慮なく撃て!」
俺のファイヤージャベリンを皮切りに、雲井さんのエアーハンマー、竜ヶ原さんのサンダーストライク、芦屋くんの槍衾が放たれ、さしもの巨大牛も二、三歩進んだところで、辺りの立ち木を巻き込み、腹に響く音を立てて倒れ込んだ。
しばらく様子を見るが、動き出す様子はない。
「やった……!」
芦屋くんとグータッチを交わす。
「さて、むしろ本番はここからだな」
俺たちは榊原に指導された方法で、不器用に解体を始めた。血抜きをするのに、こんな巨体は持ち上げられないので、俺の中級水魔法で出来るだけ抜いておいた。
CAさんたちも血に汚れながら、巨体をバラしていく。良い女たちだ。俺の私見だけどね。
と言っても、まだまだ慣れない作業だ。ナイフは滑るし、厚い皮は切れないし、重い四肢を持ち上げるだけでも大騒ぎだ。精肉店の方には、敬意を表したい。
と……。
「へえ、デカい森林牛じゃねぇか」
不意に知らない声が聞こえた。
しまった。巨大牛を狩って、浮かれていたらしい。索敵役もいないのに、油断し過ぎた。
薄汚れた革鎧を着て、腰に剣を吊った男たちが俺たちを見ていた。
5人。見える範囲には、それだけの人数がいた。もちろん、まだいるかも知れない。
はっきり言って、相当に柄が悪そうに見える。
さて、どうする?
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