戦士たちの休日
「暇だな、おい」
「暇だ……」
俺とアヅマは湖畔に転がり、退屈と戦っていた。
天気が良い。気候も最高だ。
湖の水は恐ろしく透明度が高く、すいすい泳ぐ小さな魚の姿がはっきり見える。ここがファンタジー惑星でなければ、足でも浸けたいところだ。
俺とアヅマは、強制的に休みを取らされているのだった。
狩りには、高校生組と間久部、CAさんたちと榊原が赴いている。おかげで俺たちの身体が空いたのもあるが、この惑星に着いてから俺たち2人は働き過ぎなのだそうだ。
確かに不良会社員だった俺は、地球にいた頃は適当に力を抜いて毎日を送っていた。他人の事なんか、ロクに気にしなかったし、何かに命を賭ける事もなかった。
「今度魔石を取ったら、釣り竿でも買うか」
「異星人も釣りをするのか?」
俺は左腕の腕輪を起動させて「釣り竿」と言ってメニューを出させると、ずらずらと釣り竿の一覧が出てきた。
「ほう、竹竿から謎物質製の全自動釣り竿まであるぞ」
「なんだよ、全自動釣り竿って」
俺たちが非生産的な会話をしていると、清水さんと竜ヶ原さんが近づいて来た。
「あれ?2人は狩りに出なかったの?」
「今日は、一部メンバーを入れ替えたのよ。索敵と攻撃魔法を使える子は、他にもいるからね」
「なるほど。層が厚い」
「高校生たちも少しずつメンバーチェンジしてるわ」
どうやら、本当に俺たちは用済みらしい。
「それはそうと、何してるのよ、こんな所で」
「やる事ないんだよ」
「定年後の親父ね、まるで」
「ぐさっ!」
「こんなとこでゴロゴロしてないで、シャワーでも浴びてスッキリしたらどうなの?」
「シャワー?」
「シャワーよ、シャワー。水が上からザーッて出るやつ」
「いや、シャワーは分かるが、地球じゃあるまいし、シャワーなんか浴びれないだろ」
「は!?何言ってるのよ、テントに付いてるでしょ、シャワー!」
「え、うそっ……」
清水さんと竜ヶ原さんは、ちょっとイヤそうに俺たちから距離を置いた。
「じゃあ、あなたたち、この惑星に来てから身体を洗ってないの?あれだけ汗をかいといて」
「あ、え、う、うん……」
「ひっ!」
抱き合う清水さんと竜ヶ原さん。
「だったら、着替えなんて……」
「着替える物がないじゃないか」
「ひっ!」
そこから説教が始まった。
CAさんたちは、前日の狩りで得た魔石を使い、下着の替えや生理用品等、必要な日常品を買い揃えたらしい。おまけに、腕輪の販売システムにはクリーニングのサービスもあり、着ていた下着なんかは綺麗に洗ってくれるという。
今CAさんたちが目指しているのは、この惑星で動くのに適した高機能ジャージを人数分そろえる事だそうだ。
「文明開化の音が聞こえるぜ」
「完全に出遅れてるな、俺たち……」
へこむ2人のおっさん。
「で、下着ぐらい買わないの?」
「ポイントが全くない。聖銀のナイフなんかで使っちまったからな」
「そうね、あなたたちはみんなの為にポイントを使っちゃったものね」
そこで、清水さんと竜ヶ原さんが嬉しそうに顔を見合わせた。
「そういう訳で、私たちがあなたたちの下着を買ってあげるわ」
「え?いいよ……」
「いいえ!あなたたちにはお世話になってるから、これぐらいはさせてちょうだい!」
「えー……」
そこで清水さんと竜ヶ原さんがキャーキャー言いながら男物のパンツを物色する事、小一時間。
あー、地球を離れても、女の買い物の長いのは変わらないんだと、アヅマと溜め息を吐く。
結局、2人が選んだのは、謎素材の高機能ボクサーパンツ。俺のは、黒一色。プロレスラーのアヅマは迷彩柄。まあ、時間をかけただけあって、センスは悪くない。
「じゃ、シャワーを浴びて着替えてらっしゃい。古いパンツは捨てないで、ポイントが入ったらクリーニングに出すのよ。はい、タオルもサービス」
「はいはい。サンキュ」
テントに戻ると、確かにシャワーが付いていた。
奥に扉があり、その向こうに立派なシャワーが二つ並んでいたのだった。
「寝る目的でしかテントを使ってなかったからな」
「トイレがあるのに気づいてただけマシだと思いたい」
俺たちは汗臭い服を脱ぐと、シャワーを浴びた。
「この水は、どこから取ってるんだ?」
「湖だろうなぁ」
「排水はどこへ?」
「垂れ流しじゃない事を願おう」
そもそもトイレもあるのだ。あの綺麗な湖に垂れ流しだとしたら、重大犯罪だ。
「これは、石鹸やシャンプー、それに髭剃りも要るな」
「うむ。ジャージも欲しいな」
プロレスラーには、やはりジャージが必須らしい。ちなみにアヅマの着ているのは、ポロシャツとジーパンだ。飛行機に乗るのに、ジャージは控えたらしい。
「しかし、何よりパンツだ。パンツを自前で買えるようにならないと!」
「ああ、なんかヒモの気分だ」
シャワーを浴びてさっぱりした俺たちは、謎素材の高機能ボクサーパンツに足を通す。
「おお、なんだこれ、妙にジャストフィットするぞ」
「凄いな、異星人の科学」
「高機能ジャージってのも期待出来るな」
「ホントだ。早く着てみたいぜ」
俺たちがテントを出ると、律儀に清水さんたちが待ってくれていた。
「どう?私たちのパンツは?」
「ぐっ、誤解されそうな言い方するなよ」
「ふふっ、履き心地良いでしょ?」
「ああ、かなり驚いた」
「ちゃんと文明人に戻れそう?」
「石鹸や髭剃りも買うよ」
「よしよし」
すっかり、俺たちは指導される側である。
「高校生たちは、こういうの知ってるのか?」
「当然!工藤ちゃんに聞いたら、当たり前に気が付いてたわよ」
「さすがだね、今時の子供は」
「おっさん臭い事言わないの!」
「へーい」
食べ物は今のところ、狩りや果実の採取でなんとかなる。
そうなると、後は文明的な生活を送れる様にしないとな。
「アヅマ、ちょっと行くか、狩り」
「そうだな。まずはパンツを買おう、パンツを」
「あら、私たちのパンツじゃ不満なの?」
「いやいや、男たるもの、パンツぐらいは自分で買えないとな」
「ぷっ!」
「笑うなよ、男の沽券にかかわる話だぞ」
「それはそうと、あなたたち、今日は休日でしょ」
「いやー、でも、魔石欲しいしー」
「仕方ないわね、じゃあ私たちも付いて行くわ」
「えー」
「何よ、不満?」
「いーえ!」
俺たちは半日だけ狩りに出て、ゴブリンたちを狩りまくって、石鹸やシャンプー、リンス、髭剃り、パンツのクリーニング代を確保したのだった。
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