女たちも普通に強い
「そういう訳で、私たちもちゃんと戦えるって、分かってもらえましたよね?」
工藤さんの可愛い顔が、ずいずいと迫って来る。
俺とアヅマは、たじたじするばかり。
「だいたい、特殊能力の運用とか組み合わせとか、私たち高校生の方が得意な話に決まってるじゃないですか!」
「ごもっともで」
40過ぎのおっさんでも、好きな人は好きなんだが、どうにも抗弁出来る雰囲気ではなかった。
「元々、大吉さんたちが全部決めてた方がおかしいんです!それとも、異星人の人にリーダーに任命されたんですか!?」
「いえ、そんな事ありません」
「そうですよね!だったら、私たちも自由に狩りに出ていいですよね!?」
「え!?いや、それはちょっと待て」
「まだ言いますか、この人は!?」
段々と素が出てきた工藤さんを、必死で説き伏せる俺とアヅマ。
可愛い子が怒ると、なぜか怖いんだよ。
しかしさすがに、まだ高校生たちだけで狩りに出させる訳にはいかなかった。
「俺たちの気持ちも分かってくれよ!」
という訳で、なんとか大人を1〜2人同行させる事だけ了承させた。手強い相手だった。
しかし、戦いはまだ終わっていなかった。
「じゃあ、私たちの狩りにも、誰か付いて来てくれるのね?」
そう言い出したのは、CAの清水さんだ。その後ろには、ニコニコ顔の竜ヶ原さんが控えている。
「えー、CAさんたちも狩りに出るの?」
「当然でしょ。私たちにずっと待ってろって言うの?そんなの、あなたたちがある日帰って来なくなったら、私たちも終わっちゃうじゃないの!」
「えー」
しれっとした表情で物騒な事を言ってくれる清水さん。つまり、ある日俺たちが、狩りに行って返り討ちに合う可能性を言ってる訳だ。まあ、オオカミ獣人みたいな化け物がいたんだから、ないとは言えない話ではあるが……。
「簡単に殺してくれるなよ」
「まだ信用し切れないのよ」
「……そうですか」
結局、高校生たちにはアヅマと感知系能力を持つ間久部が同行し、CAさんたちには俺と榊原が同行する事になった。
アヅマと間久部の方は、大丈夫だろう。間久部がいれば不意打ちを食らう危険性も少ないし、不意打ちさえ食らわなかったらアヅマの敵は早々いない筈だ。
問題は、俺たちの側である。俺の能力は、身体と感知の強化が7倍。火と水魔法が中級という中途半端さ。榊原に至っては、料理関係の能力しか持っていないという。大丈夫か?
「じゃ、行くわよ!」
急にアネゴ肌になる清水さん。サバサバ美人は、カッコいい。
「おー!」とか言いながら、後に続くCAさんたち。全員で5人。竜ヶ原さんも、当然入っている。
しかし、CAさんの制服のまま森の中で狩りをするとは、本人たちも思っていなかっただろう。スカートだし半袖だし、虫刺されとかしないかな?変な心配をしてしまう。昔の様にカカトの高い靴を履いてないだけ良かった。
「じゃ、皆の能力の説明、しておくわね。私、清水紀子は索敵がメイン。他にも能力はあるけど、それはナイショ」
「う。はい」
「2番、竜ヶ原咲子、28才。蠍座。身長168センチ。体重はナイショ」
なぜか俺の目を見て自己紹介する竜ヶ原さん。あ、清水さんに殴られた。
「能力だけ言えっての!」
「……はい。雷魔法が上級までいけます」
「3番、宮島かおり、25才、スリーサイズは……」
「殴るわよ?」
再び清水さんのツッコミが入る。
「えーと、治癒魔法が得意です」
「4番、坂下真理子、バフとデバフが使えます」
「バフ?デバフ?」
榊原が不思議そうに質問する。どうやら、こういう話題は苦手分野らしい。
「バフっていうのは、味方の能力を上げる力で、デバフは敵の能力を下げる力です」
坂下さんは、こういうのが得意分野なのだろう。やけに簡潔に答えてくれた。
「了解した。便利そうな能力だな」
榊原が言うと、坂下さんがちょっと照れた。あら、可愛い。
「次、5番、多摩千里。防御魔法が張れます」
「それは、バリアーみたいな?」
「そうです。物理と魔法、両方に効きます」
「凄いな。良いチームになってる」
「そういう人選で来ましたからね」
「なるほど……」
俺とアヅマなんて、そんな事何も考えずに戦ってた。そりゃ、高校生たちやCAさんたちに偉そうな事言えないわな。
「止まって。前方に何かいるわ。多分、ゴブリンね。10体以上」
清水さんが不意に言う。
皆、ピタリと足を止めた。
「竜ヶ原、いける?」
「オッケー」
「坂下、竜ヶ原にバフを」
「はい。魔法アップのバフをかけます」
淡々と準備が整っていく。
「誘き出すわよ」
清水さんが何か両手で「印」みたいなものを結ぶと、空中から巨大なカエルがまろび出た。40〜50センチはあろうかという大きなカエルだ。気持ち悪い。他のCAさんたちも、明らかに引いた表情をしている。
カエルはビョーンと跳んで前に出ると、ゲロゲロと鳴いた。
ええっ、清水さん、わざわざこんな能力もらったの?
俺と榊原が清水さんを見つめると、「そういう忍者マンガがあったでしょ!?それに、この子も索敵出来るのよ」と、返事が返って来た。
なるほど。意外とオタクさんだったか。
それはそうと、突然鳴き出したカエルに釣られ、ゴブリンたちがわらわらと姿を現す。
「いきます!サンダーシャワー!!」
上空から無数の雷が降り注ぐ。
「ぎゃっ!!」
一瞬で灼き尽くされるゴブリンたち。
うはー、上級魔法、恐ろしい。
雷の雨が止んだ時、もう立っているゴブリンはいなかった。
それでもヒクヒク動いていたゴブリンは、カエルが踏み潰していく。エグい!
案の定、CAさんたちもゴブリンを殺す事に、何の痛痒も感じていない様だ。魔石も全員で手分けして、ゴブリンの胸を開いて集めていく。もちろん、さっきまでゴブリンが持っていた武器を使ってだ。異星人さん、そこまで精神的に逞しくしなくても……。ちゃんと「自分」てものが残されているのか、不安になっちまうじゃないか。
次に現れたのは、イノシシだ。
アヅマと一緒に倒した個体程ではないが、やはりデカい。
「いけるか?」
「任せて!」
自信満々な清水さん。
今度はカエルを出す必要もなく、もう相手には気取られている。
「デバフ。イノシシの筋力を弱体化」
坂下さんの言葉と同時に、イノシシが何かイヤそうに頭を振った。そこから突進して来るが、どこか迫力がない。
「障壁!」
多摩さんが叫ぶと、目の前に半透明なシールドが立ち上がる。
ガキン!
イノシシが激しくぶつかるも、シールドは小揺るぎもしなかった。
「サンダーストライク!!」
そこへ上空から落ちる雷の塊。
激しい稲光。そして、轟音。
イノシシは雷に打ちのめされ、ドゥと地面に倒れた。一撃でおしまいだ。恐ろしい。竜ヶ原さんは、あまり怒らせない様にしよう。
「す、すげぇ……」
他に言葉がなかった。
俺とアヅマで倒したイノシシの方が大きかったのは確かだが、こんな鮮やかには倒せなかった。
「どう?私たちの腕前は?」
「素直に感服しました」
「でしょ、でしょ」
皆が良い笑顔を向けて来る。
「で、それ、どうやって持って帰る?」
「え?……」
固まるCAさんたち。
「いや、今日は榊原がバラしてくれるから良いけどさ。運搬系の能力持ちは、いないの?」
「うぅっ、いなかったかも……」
「じゃあ、あんたたちの狩りには、榊原が必須って事で」
「くっ、こんな落とし穴があるなんて……」
やっぱり、CAさんたちは自分たちだけで狩りをする気だったらしい。が、なんとか男を同行させる理由が出来た。危なかった。
「じゃ、榊原、他の魔獣が出る前にチャッチャとバラしてくれるか?」
「いえ、もう遅いわ。何か来た」
清水さんの警告とともに現れたのは……。
「き、きゃあ〜〜〜っ!!」
全長2メートル超の大ムカデだった。キモい!
キモいが、その前にCAさんたちがパニックになっているのがマズい。
俺はファイヤージャベリンを大ムカデにぶつけた。が、黒光りする甲殻が、あっさりと炎の槍を弾いてしまう。
「おい!正気に戻れ!お前たちなら、あっさり勝てるだろ!!」
叫ぶが、CAさんたちのパニックは治まらない。
「榊原!清水さんを引っ叩け!」
そう言って俺は手近にいた竜ヶ原さんを……絶対怒らせたくないと思った竜ヶ原さんの……。お尻を引っ叩いた。
パァン!
小気味良い音とともに竜ヶ原さんの目が正気に戻り……。
「あんた!何触ってんのよ!?」
「いいから、サンダーストライク打てや!」
視界の端で、榊原も清水さんに殴られてるのが見えた。すまん。清水さんを引っ叩く必要はなかったようだ。
俺の襟元を掴みながら、竜ヶ原さんがサンダーストライクを放つ。
気のせいか先程より強烈な光と轟音が、大ムカデをバラバラに吹き飛ばした。
こ、こわっ……。
竜ヶ原さんは俺の襟元を掴んだままうっすらと笑うと、妙に静かな口調で言った。
「今回は、お礼を言っておくわ。でも、次はもっと優しい方法にしてよね」
「は、はいぃ……」
高校生たちの方は、はしゃぎ過ぎてガス欠を起こした者が出たらしい。
結局、高校生たちもCAさんたちも、狩りの時は俺たちの誰かが同行する事になった。
それはそうと、浜部グループ、お前たちはちゃんと狩りに行けよ。
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