オオカミ獣人との死闘
俺がファイヤージャベリンを起動させようとしていると、志堂くんも「俺もライトジャベリン使いますよ!」と言って来た。
「いや、それより目眩まし系の技はないのか?」
「ありますよ!」
「え、あるの?」
「フラッシュといって……」
「あ、名前でだいたい分かった。……アヅマ、フラッシュ撃つから、目ぇやられるなよ!」
アヅマには、それで通じたと信じるしかない。
志堂くんに頷くと、志堂くんは大袈裟に両手を振り回してポーズを取ると、「フラーッシュ!!」と叫んだ。
呆気に取られそうになりながら、慌てて目を閉じる俺。
『ぐわっ!!』
オオカミ獣人らしい悲鳴が聞こえた。今だ!
「ダッシュだ!!」
先に立って、目を押さえたオオカミ獣人の横を走り抜ける。
俺、志堂くんと走り抜けたところで、オオカミ獣人が足音だけを目当てに拳を振る。
しかしそれは、アヅマの蹴りがガツンと跳ね飛ばした。
『ちぃっ!小賢しい!!』
オオカミ獣人が吐き捨てる。って、しゃべった!?
しゃべったのも気になるが、今は生きのびる事が先だ。俺とアヅマは志堂くんたちを追い立てながら、拠点に走り込んだ。
「はぁはぁ……!」
大きく息を吐きながら結界の向こうを見やるが、獣人の巨体が現れる様子はなかった。とりあえず逃げられたらしい。
俺たちは会議に入った。
会議なんぞ会社員時代でも好きでなかった俺だが、こんな事態が起こっては仕方がなかった。皆の知恵と意見が必要だ。
「……と言う訳で、何か有効な方法を思いついたら、言って欲しい」
俺、アヅマ、榊原、間久部、鈴木さんや竜ヶ原さんたちCAさん、浜部たちもう一つの大人組、そこに工藤さんや志堂くんも顔を並べている。
なんで俺が音頭を取ってるんだとぼんやり思いながら、皆の顔を見回す。
「大吉さん、オークの魔石で何か武器を買えませんか?」
間久部が言う。なるほど。騒ぎにかまけて、オークの魔石を放ったままにしていた。間久部は、こういう事によく気がつく。
俺がオークの魔石3個を左腕の腕輪に吸収させると、6000ポイントになった。1個2000ポイントか。ゴブリンと大違いだ。
「6000ポイントか。何が買えるかな?」
全員が腕輪を起動させて、買える物を調べ始める。
「銃は無理か、さすがに」
「いや、銃買うぐらいなら、魔法で良いだろ」
「聖銀だ、聖銀。聖銀が弱点だ」
「高校生の鑑定だろ、それ。信用出来るのか?」
「いっそ、皆さんの能力を明かし合った方が良くないですか?」
皆がごちゃごちゃ言ってるところへ、まともな意見を放り込んだのは、志堂くんだった。
「なるほど。それは言えるな。浜部さんたちは、どんな能力があるんだ?」
「なぜ、我々から明かさねばならない?君たちから明かしたまえ」
「俺とアヅマの能力は、さっきの話から分かってるでしょ。そっちも明かしてもらえませんかね?」
「あー、あー、俺たちから明かしますよ!」
志堂くんたちが割って入って来るのを、俺は制した。
「高校生とCAさんたちは、いい。やるなら、俺たち大人組だけだ」
「そうだ。高校生はじっとしていたまえ」
浜部も偉そうに、そう言う。
「だから、あんたたちの能力は?」
「誰か役に立つ能力があるか?」
浜部が自分の配下に訊く様に問いかけるが、誰も何も言わない。
「悪いが、ワシたちには役に立てる能力はなさそうだ」
「ああん?」
険悪な雰囲気になる俺たちと浜部グループ。そこで工藤さんと志堂くんたちがコソコソ離れて行ったが、俺はそれで良いと思った。工藤さんの目が何かを訴えている様に見えたけど、この件に高校生を巻き込む気はなかったからだ。
結局、会議からは浜部グループも抜けて行った。
榊原は調理に役立つ能力ばかりだし、間久部も感知系ばかりだ。俺とアヅマでやるしかない。CAさんたちも協力させろとうるさかったが、俺は強硬に却下した。これは同じくオオカミ獣人と戦ったアヅマも賛同してくれた。
「買えるとすれば、聖銀ナイフがギリギリだな。だとすると、どうしてもアヅマの運動能力頼りになっちまうが……」
「構わんぞ、俺は」
「じゃ、買うぞ」
俺がポチると、あっさり聖銀ナイフが届いて来た。
簡素な革の鞘に入っているが、青みがかかった美しい両刃のナイフだった。柄を持つと、何かピリピリする。これが、聖銀のエネルギーか?
「アヅマ、すまん。頼む」
アヅマにナイフを渡す。
「おう」
俺たちがゾロゾロと結界の所まで移動すると、間久部が「この先に待ち構えてるぞ」と言い出した。
「奇襲でも仕掛けて来る気か?」
「いや、道の真ん中に腕を組んで立ちはだかってる」
「ちっ、ヤツらしい」
そう言えば、言葉を話す様なヤツだったなと思い出す。どうやら、ヤツの言葉は7か国語を話す俺にしか理解出来なかった様だが。7か国語の中に獣人語が入っていた訳だ。
「じゃ、行ってくる」
アヅマと2人だけで歩き出すと、すぐにヤツの姿が見えて来た。相変わらずデカくて、強そうだ。
じっと立っているだけで、殺気がビリビリと伝わって来る。うわー、逃げてぇ。
『グルルル……』
唸るオオカミ獣人が、ひどく嬉しそうに見える。
「じゃ、行くぞ」
ファイヤージャベリン、5連発!
ドカドカと命中する炎の槍を、避けようともしないバカ獣人。少しは、堪えろ!
しかし、本命はアヅマだ。ファイヤージャベリンの爆発が晴れた時、もうアヅマはオオカミ獣人の目の前にいた。
聖銀ナイフを鋭く振り降ろす。
ナイフは音もなく獣人の左肩口に突き刺さった。
『ぐわっ!』
獣人が振り回す手がアヅマを吹き飛ばす。
ナイフは刺さったままだ。何かシュウシュウと煙を上げている。
獣人はナイフを抜こうとするが、柄を掴もうとすると、何かの力に拒まれる様だ。
『せ、聖銀か、くそっ!』
やはり聖銀は弱点だった様だ。が、これではヤツは倒せない。
どうする?俺が飛び出して、ナイフを心臓に刺し直すか?
ええい、とりあえず、ファイヤージャベリンだ。あれ、3発しか出ない。魔力切れか。
オオカミ獣人が初めて腕をクロスさせて、炎の槍をガードした。
これで手打ちだ。急に俺の視界が一段暗くなった。
まずい。当然、肉体の動きも鈍くなっている。膝が笑う。身体が重い。
アヅマは、どうした?
その途端、声が聞こえた。
「今よ!」
工藤さんの声だ。
「磔刑!」「バインド!」「アイスチェーン!」
いくつもの声と同時に、いくつもの能力がオオカミ獣人の動きを止めた。
『なっ!?』
「次!聖別の槍!!」
ギュン!と音を立てて投げられたのは、ゴブリンの槍か?なぜか穂先が青白く発光している。
槍はオオカミ獣人の腹にぐっさりと突き刺さった。
『げはっ!』
「最後よ!聖属性攻撃!!」
「ホーリーライトニング!」「ホーリージャベリン!」
中級魔法、聖属性のジャベリン。
上級魔法、聖属性の雷攻撃。
二つの魔法がオオカミ獣人の巨体を貫き、焼き尽くした。
「おおっ!」
俺には驚く事しか出来なかった。
端っから戦力外扱いしていた高校生たちが、力を合わせてこれだけの事をしてくれるとは。
「今の槍は?」
「槍の穂先だけ聖別しました!」
「ほほう、なるほど。……アヅマを頼む!」
そう言うと、俺はオオカミ獣人に近づいた。
真っ黒になってはいるが、元々真っ黒だったので、本当に死んだのかどうか確信が持てない。
『おーい、死んだか?』
『ほう、お前、獣人語が話せるのか?』
やけにイケボな返事が返って来てしまった。
『ちっ、まだ生きてるのか』
『心配するな。俺はもう帰る。お前たちの戦い方には、十分満足した』
『それ、何しに来たんだよ?俺たちを試しに来たのか?』
『そんな大した話ではない。ただの俺の興味だ』
『じゃ、最初から俺たちを殺す気はなかったと?』
『いや、くだらない連中なら、皆殺しにしていたさ』
『うへぇ』
『それより、帰るから、このナイフだけ抜いてくれないか?自分じゃ柄も持てないんだ』
『へいへい。襲うなよ』
俺はオオカミ獣人の肩口から聖銀ナイフを抜いた。
『痛っ!今、グリグリっとしたろ!』
『ちょっとだけだよっ!槍は抜かなくて良いのか?』
『こっちは、触れないのは穂先だけだ。問題ない』
オオカミ獣人は自分で槍を抜くと、一挙動で立ち上がった。
ギョッとする雰囲気が辺りを包む。
そりゃ、倒したと思った相手がピンピンとしてたら、そうなるだろう。
『俺は、ガムイ。お前は?』
『大吉』
『ダイキチか。覚えておく』
そう言うと、ザッという音を残して、オオカミ獣人は姿を消した。
とんでもない運動能力だ。本気で来られたら、俺のジャベリンは当たらなかったろうし、アヅマも瞬殺されていたろう。
「大吉さん、あいつは!?」
「うん、帰った」
「帰ったって、大丈夫なんですか?」
「ああ、満足したらしい。ただ、俺たちがくだらない真似をしてたら、また来るってさ」
「え、えー!?」
「それはそうと、アヅマは?」
「ああ、すまん。簡単にやられた」
「あ。大丈夫そうだな。じゃ、良かった」
「とりあえず帰ろうぜ。一応、説明するわー」
俺たちは連れ立って拠点に戻るのだった。
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