気持ちだけではダメなんだ
澤村くんたちの遺体を回収して拠点に戻って来ると、生き残った少年たちがひどく叱責されていた。
少年たちを地面に正座させ、へんに慣れた調子で説教しているのは、見慣れない初老の男だ。
「誰、あれ?」
CAさんに訊くと、「ああ、浜部っていうどこかの教頭のおっさんよ」という返事だった。教頭といっても少年たちの高校とは関係ないらしい。ないらしいが……。
「今頃出て来て、偉そうにすんなよな」
それが、俺が思った事だった。
俺は浜部たちに近づくと、ぱんぱんと手を叩いた。
「はいはい。そんなもんで良いでしょう。解散、解散」
「なんだね、君は!?まだ話は終わっとらんぞ!」
「澤村くんたちを連れて帰って来たんでね、こんな事してる場合じゃないでしょう?……さあ、お前ら、澤村くんたちをちゃんと弔ってやれよ」
「いや、まだだ!彼らには自分たちの行動がどれほど愚かだったか、骨身に染みて理解させる必要がある!」
「仲間2人が死んでて、骨身に染みてない訳がないでしょう!さあ、お前ら行って良いぞ!」
「は、はい!」
正座で痺れた足で、ふらふらと駆けて行く3人。
「ちっ……!」
舌打ちして、浜部も去って行く。
最後にすごく睨まれた。
「態度悪ぃな」
浜部の禿げた後ろ姿を見送ると、俺はテントに戻った。
高校生たちのテントの方から泣き声が聞こえたが、俺は足を止めなかった。澤村くんとのお別れは、高校生たちだけでやるのが良いだろう。俺は引率の教師じゃないし。
昨日の肉の残りと、拠点の近場で採ったという果物を堪能していると、またしてもCAさんたちがやって来た。美人さんが訪ねてくれるのは嬉しいが、色っぽい目的であって欲しいというのが本音だ。
「高校生たちの事が心配で……」
リーダー格の清水さんが、予想通りの事を言い出す。
「放っておけば、いいんじゃない?」
俺が軽口を叩くと、いつも俺を睨む美人さんが「高校生たちは、あなたみたいな鉄の心臓持ってないんですからね!」と怒り出す。
「俺だって、鉄の心臓なんか持ってねぇわ!」
「だったら、もっと子どもたちに優しくしてあげて下さい!」
「俺たちが優しくしてやりゃ良いってもんじゃないと思うけどね」
それに異星人の精神コントロールがかかっているから、これで潰れたりはしないだろう。これは、口にしなかったが。
「あなたとアヅマさんが高校生たちに一番慕われてるんですから、声ぐらいかけてやって下さい!」
「俺も?アヅマだけの間違いだろ?」
「あなたもです、本当にどうしてか」
「おいおい。本音がダダ漏れだろ」
「とにかく、お願いします。一言で良いですから」
最後は、やけに神妙な態度で頼んで来た。調子が狂う。
「あんた、名前は?」
「私?竜ヶ原です。竜ヶ原咲子」
「俺は虎須大吉だ」
そう言って、俺はテントを後にした。
基本、美人のお願いは無碍に出来ないタイプなのである。
後ろを、アヅマが当たり前の様に付いて来る。
高校生たちの所に行くと、当然の様にモメていた。面倒くさい。
生き残り3人組と工藤さんたちが何かを言い合っている。
「おーい、どうした、どうした?」
「あ、大吉さん、志堂くんたちがまた……!」
3人組のリーダー格が志堂くんらしい。
「お前ら、澤村くんはちゃんと葬ってやったのか?」
「え、あ、いや……」
「おいぃ……!澤村くんは、お前たちを生かす為に犠牲になったんだろうが!」
「だから!だからこそ、俺たちは澤村に報いる為にも、少しでも早く強くならないといけないんだ!」
「そうだ!俺たちがあいつの代わりに、みんなを守れるぐらいにならないと!」
勢いだけはある少年たち。
本気は本気なのだろう。
良い事を言ってるつもりなのだろうが、半分は自分に酔っているセリフだ。
しかし、その目は赤い。残りの半分は、焦りか?
「気持ちだけで先走ったって死ぬだけだぞ」
「だからって、じっとしてられないよ!」
「ふーむ。面倒くせぇなぁ。じゃあ、俺とアヅマの狩りに一回付いて来い。ただし、付いて来るだけで、手は出すなよ」
「そ、それでも……!」
「よし。約束だぞ」
アヅマを見ると、俺が勝手に決めた事なのに気を悪くする様子もなく、黙って頷いた。
「大吉さん、良いんですか?」
納得してないのは、工藤さんの方だ。
「ああ、押さえつけたって、いつかは勝手に飛び出すだろうし、だったらちゃんと生き残る術を教えてやってた方が良いだろ?」
「そうですけど……」
「悪いが、俺たちが取れる方法なんて、これぐらいだ。もっとちゃんとした大人なら、違う方法も思いつくのかも知れんがね」
俺はヘラヘラしながら、工藤さんに手を振った。
俺って、ここまでヘラヘラしてたかなぁ?
で、そのまま森に向かう。
どうせ、今晩の肉は取って来ないといけなかったし、志堂くんたちから目を離すのもイヤだったので。
あー、ゴブリンの武器、返してもらってないや。まあ、いいか。今から調達出来るだろうし。
拠点から結界を越え、森に入る。
途端に空気の匂いが変わる。
いつもと違う。はっきり言って、イヤな予感しかしない。
「アヅマ……なんか、変じゃないか?」
「ああ、空気が重い。セメントやる時の空気だ」
「セメントって、本気で潰し合う時だろ?ヤバいな。撤退しよう」
「悪い!お前ら、撤退……」言いながら後ろを振り向いた俺の腰が抜けそうになった。
高校生たちの更に後ろに、アヅマに匹敵する巨漢が立っていたのだ。
ただし、普通の人間ではない。全身を覆う黒色剛毛。顔は、どう見てもオオカミ。鋭い牙、鋭い爪。言わば、オオカミ獣人!
そんな化け物が、ニヤニヤした笑いを浮かべながら、俺たちの後を付いて来ていたのだ。
俺は反射的にファイヤージャベリンを叩き込んでいた。
が、肩口に当たった炎の槍は剛毛に弾かれて、方向を変えただけだ。
アヅマが前蹴りをかます。
どん!という重低音の響き。しかし、オオカミ獣人の立ち姿は小揺るぎもしない。
「お前らは後ろに!」言いながら、腰を抜かした3人をポイポイ後方に投げる。
しかし、拠点に通じる道を塞がれてるのが痛い。
俺たちが逃げるのはもちろん、先に高校生たちを逃す訳にもいかない。
それに、拠点の周りにこんな強敵が出て来る事なんて、予想もしていなかった自分を殴ってやりたい。どこかゲームに毒されて、強敵の周りにはゴブリンやオークぐらいしか出ないと、知らず知らずのうちに決めつけていたのだ。
「しゃっ!」
鋭い呼気とともにオオカミ獣人が手を振ると、アヅマの巨体があっさりと吹っ飛んだ。同時に、アヅマの身体を包む光が砕け散った。
「アヅマ!!」
叫びながら、ファイヤージャベリンの連発に挑戦。これまでは、3発が最高。今回は、5発のファイヤージャベリンがオオカミ獣人の胸に命中!!
今度は弾かれなかった。ちゃんと命中した。命中したのに……。
オオカミ獣人は二、三歩よろめいただけだった。
胸に開いた穴が、すぐさまシュウシュウと煙を上げて塞がっていく。
「げろげろ……。高校生、何か大技持ってるか?」
「えー、手出さないでいいって……」
「状況は変わるのだよ」
「ふん!」
アヅマがまた光を纏って復活。
しかし、またやられるのは目に見えている。
「お、俺、光魔法が中級まで……」
「中級か」
ジャベリンクラスじゃ、どうにも出来ないのは分かっている。火が光に変わろうと、違いはないだろう。それとも、属性が変われば、効くのか?
「光、初級のをぶつけてみろ」
「初級で良いの?」
「相性が見たい」
「わ、分かった。……ライトブリット!」
パシンという音を立てて、光の弾丸は獣人の剛毛に弾かれた。
「うわ、ダメかー」
この間、オオカミ獣人はアヅマと睨み合っているだけだ。
俺たちには注意も割いていない。
「くそっ、どういう気だ。遊んでるのか」
「大吉さん……!」
「もう2人の能力は何だ!?」
「アイテムボックス」
「鑑定」
「……。で、鑑定結果は?」
「ワーウルフ、聖銀が弱点とだけ……」
「よし、ありがと!」
俺は仕方なく、またファイヤージャベリンを起動した。
倒せる公算もないのに、中途半端にダメージを出す様な魔法を、高校生に撃たせる訳にはいかない。ライトジャベリンは封印だ。
さて、どうしよう?
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