知らない惑星の夜
その夜は、不寝番を置く事となった。
いや、恐らくは毎日置く事になるだろう。
焚き火は二つ。俺たちは、そのうちの一つを4人で受け持つ。もう一つの方も、4人で受け持つらしい。その辺の調整は、CAさんたちが行った。
俺たちは、しばらくの間は2人ずつで二交代制で朝を迎える事にした。
先にアヅマと榊原、後半を俺と間久部である。
夜半、榊原に起こされて焚き火に向かうと、なぜか高校生が1人混ざっていた。
「澤村隆史です。高校生からも3時間に1人ずつ参加します」
真面目なスポーツ少年という雰囲気だ。軟式テニスでもやっていそう。勝手な想像だが。
「虎須と間久部だ。よろしく頼む」
こういう時はコーヒーでも淹れたくなるが、生憎何もない。食事時に出した水の残りを啜るだけだ。味気ない。まあ、全員が日常生活レベルの水魔法は覚えている筈だから、脱水症状を起こす事はないだろう。
「虎須さんも狩りに行ったんですよね?怖くなかったですか?」
「不思議と怖さは少なかったな。もしかしたら、その辺もコントロールされてるのかも知れん」
「コントロールって、僕らをここに送り込んだ存在にですか?」
「そう。異星人にな」
「やっぱり、神様とかじゃなくて異星人ですか……」
「そりゃ、こんな超文明的な腕輪とか付けられてたらな。それより、狩りに行きたいのか?」
「はい。魔石を集めないと、何も買えないですからね」
「だな。今日の紙皿や水だけで、もうスカンピンだ」
「そんなに交換レートは低いんですか?」
「その辺りは、これから要検証ですね」
こういう話は得意なのか、間久部が入って来る。
俺としては、足りないなら足りるまで狩ってやろうという気分だ。アヅマもそうだろう。ここでレートがどうのってやっていても、生活が改善される訳がないのだ。
「ちょっと見回ってくる」
俺は1人で焚き火を離れた。
空からは地球とは比べ物にならないぐらいに密集した星の光が届いていて、地上も微かに明るい。それに俺は感覚強化も7倍されているので、行動は妨げられない。
で、拠点を囲む様に並んだテントの裏側に回ると、森の中にいくつも蠢く気配があるのに気が付いた。
思わず魔法を起動しそうになるが、同時に拠点と森の境に薄い膜みたいな物があるのにも気が付く。
「結界?誰かの能力?それとも、異星人の親切か?」
しばらく眺めていたが大丈夫そうなので、焚き火の所に戻る。完全に信用は置けないし、不寝番も必要だろうが、あまり神経質にならずに済みそうなのは、ありがたい。
焚き火に戻ると、澤村くんが女の子になっていた。
「工藤みつきです。不寝番、代わりました」
「ああ、澤村くんが女装したのかと思った。驚いた」
「……」
「あ、すまん。虎須だ。悪い悪い」
「工藤さんは、委員長らしいですよ。発言は気を付けて下さい」
「む、すまん」
いかにも優等生な女子高生からジト目で見られて、喜ぶ趣味はないのである。本当だ。
結局、朝まで微妙な空気のまま時間が過ぎてしまった。
間久部は、腕時計を見ながら、夜の長さと昼の長さがどうのこうのと言っている。
俺は女子高生からの圧力に疲れ果てたので、早々にテントに引っ込んだ。少しだけ寝てから、狩りに行く事にしよう。
アヅマに起こされて狩りに向かおうとすると、工藤みつき率いる高校生軍団が同行を申し出て来た。
が、人数が10人以上もいる。はっきり言って、無理だ。
「2人、せめて3人だな。それ以上は面倒見れん」
俺の言葉に、工藤はすかさず2人の人間を選んだ。もう1人は自分らしい。昨夜の不寝番の件といい、どうも1人で背負い込むタイプの様である。要注意。
「悪いけど、後の人は待っていて」
残りのメンツは、不満そうに散って行った。
「どうする?まずは、ゴブリンとかか?」
「だな」
俺とアヅマは簡単に打ち合わせを済ますと、森の中に入って行った。俺だけ、ゴブリンからぶん取った槍を持っている。アヅマは、きっと武器なんか必要ないからな。
高校生たちには、新たにゴブリンからいただけば良いだろう。
森を進みながら話を聞くと、工藤さんは氷魔法を使うらしい。残りの2人は男子で、1人は上級剣術、もう1人は神速という能力。いかにも、ラノベからヒントを得ましたって能力だ。
やがて、またゴブリンの集団に行き当たった。
この森には、どれだけゴブリンが棲息してるんだ?それに、どいつもこいつも集団で何をやってるんだ?
俺は神速持ちに槍を渡すと、工藤さんに魔法を促した。
アイスジャベリンとファイヤージャベリンが2体のゴブリンを貫くや、アヅマが嵐の様に踊り込んだ。
たちまち数体のゴブリンを吹っ飛ばすと、奪い取った剣を放って来た。俺はそれを受け取ると上級剣術持ちに渡し、2人にGOを出す。
弾かれた様に飛び出す神速持ち。ゆらりと動き出す上級剣術持ち。
2人の動きは対称的だった。超スピードで動き回り、チクチクと槍で刺す神速持ち。片や上級剣術持ちはどっしりと構え、ゴブリンにカウンターを喰らわせている。
しかし、その間もアヅマが嵐の様に暴れまくり、あっと言う間に十数体のゴブリンを屠ってしまった。
「魔石は取れるか?」
俺の言葉に、3人は躊躇なくゴブリンの胸を切り開く。やはり、多少の精神コントロールは受けてそうだ。
「魔石は、お前らで分けろよ」
「え?本当に?」
「ああ、紙皿しか買えんけどな」
昼休憩に拠点に戻ると、高校生が数人、工藤の所に走り寄った。
「どうした?」
「すみません。何人か、勝手に狩りに出たみたいで……」
「むう、仕方ねぇな」
なんで、こんな引率の先生みたいな事やってるんだと思いながら、俺とアヅマはまた森の中に踵を返す。
「どうもな、俺自身が落ちこぼれだったんで、こういう跳ねっ返りが放っておけなくてな」
「そんなの、俺も同じさ」
アヅマと苦笑を交わす。
「さて、見つかると良いけど……」
と思っていたら、すぐにこちらに走って来る気配に気が付いた。3人か。
「た、助けて……!」
3人とも血塗れだ。そして、その後ろから大きな影が3体、追いかけて来る。アヅマ並みの巨体だ。
「オークか!お前らは、そのまま拠点まで走れ!」
俺はファイヤージャベリンを起動。あー、武器を持ってない。
一発目のジャベリンがオークの胸を貫く。が、よろめいただけ。倒れはしない。
そこにアヅマが殴りかかった。いつもより、身体に纏う光が強い。
アヅマの右拳がオークのイノシシ顔を叩く。叩く。叩く。
牙が折れ、眼球が真っ赤に染まる。が、オークは倒れない。
残りの2体が、俺の方にのしのし近づいて来る。
ファイヤージャベリン。ファイヤージャベリン。ファイヤージャベリン。
怒涛の三連撃で、1体のオークが膝をつく。
ぐはっ!今ので息が切れた。
掴みかかって来たオークの両手を、思わず両手で受け止めてしまう。プロレスやってる場合じゃないのに。
握力が強い!こちらの手が握り潰されそうだ。肉体強化7倍、仕事しろ!!
睨み合ったまま、顔面にファイヤージャベリンを発射。
額に命中。炎の爆発が俺の頭までを激しく揺さぶる。
「ぶっ!!」
思わずオークの手を離し、倒れ込む。
慌てて頭を上げると、顔面が炎に染まったオークが両腕を振り上げたところだ。
必死に横に転がる。
そこへ飛んで来た氷の槍。ぐっさりとオークの胸に突き刺さった。
アイスジャベリンか。助かった。
真下からファイヤージャベリンを起動。オークの下顎を貫く。
崩れ落ちるオーク。
が、まだ意識は手放せない。アヅマが……。
「おりゃあ〜~~っ!!」
俺が見たのは、オークに綺麗にドロップキックを決める2メートル近い巨体。
オークは吹っ飛ばされ、動かなくなった。
アヅマも血塗れで、その場に崩れ落ちた。
拠点に逃げ込んだ3人の高校生は、見かけより怪我も大した事なく無事だった。
彼らの報告で工藤さんたちが出て来て、結果的に俺は助けられたらしい。
アヅマはオークと正面から殴り合い、シールドも破られて血塗れになったらしい。ただ、それだけで、夜にはケロッとしていた。
俺は両手が腫れ上がったが、高校生の治癒魔法使いに治してもらった。
が、今回は俺たちが出た時には既に犠牲者が出ていた。
2人の男子高校生。1人は、不寝番で一緒だった澤村くんだった。
肉体硬化という能力を得ていた澤村くんは、仲間たちを逃す為に最後までオークを引き止めようとしたらしい。
もう1人の男子も、澤村くんを助けようとして犠牲になったという。
「怖くなかったですか?」と言った澤村くんの声が、耳に残っている。
俺は、この気持ちの持って行き場が分からないでいた。
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