初宴
恐れる様子もなく、ズンズンと森に分け入って行くアヅマ。
やはり不思議と恐怖を感じる事もなく、その巨体を追って行く俺、虎須大吉。
やがて何か獣臭い気がした途端、アヅマが足を止めた。
「何か、いるな」
「ああ」
アヅマの言葉に頷く。
もう少し慎重に進むと、木の根を掘り返すイノシシの姿が目に入ってきた。が、その身体は子牛程もある。デカいなんてものじゃない。
「まず、魔法を頭にぶち込むぞ。突っ込むのは、それからな」
「うっす」
そう言いながら、飛び出したがっているのがバレバレなアヅマ。こいつは、本当に戦うのが好きなんだな。
俺が狙いを付けようとするとイノシシがこちらに気付き、いきなり突進して来た。
速いと言うより、重そうだ。細い木の枝がバキバキと折れ飛んで行く。
若干慌てながら、俺は中級魔法のファイヤージャベリンを放った。1メートル近い炎の槍が、狙いあやまたずに巨大イノシシの頭部に突き刺さる。
が、その突進は止まない。
「げっ!」
とっさにアヅマが前に出る。その身体が、また薄く発光している。
ガシッと巨体の突進を受け止める。
ズザザッと地面を滑るアヅマ。が、1メートルも滑った所でどっしり腰を下ろし、その突進を完全に止めてしまう。
まさに怪獣大決戦!
更にイノシシの牙を掴んで、「ふん!」とその巨体をすっ転ばすアヅマ。
ドーンという音を立てて横倒しになったイノシシは、すでに事切れていた。最初のファイヤージャベリンで頭を撃ち抜かれ、即死していたのだ。
それでも突進を止めないとは、なんというアグレッシブさ。これが魔獣というものか。
「こりゃ、1人じゃヤバかったわ。ありがとな」
「いやいや。正直、俺も舐めてたわ。怖いな、こいつら」
「ああ」
とりあえず肉の量は充分に確保出来たので、拠点に戻る事にする。
驚いた事に、子牛サイズのイノシシは、アヅマが1人で抱え上げた。パワー系の特殊能力があるのだろう。元々の身体が身体だけに、倍数強化をしていたらエラい事になっているだろう。
ついでに、戦闘中に薄く発光していたのはシールドの類だろうから、人間要塞と言っても過言じゃない存在だ。今後も仲良くしておこう。
拠点に戻ると、また高校生たちが騒いでいた。
今度は仲間がいないと騒いでいる様だ。確かに、旅客機に乗っていた全員がここにいるとしては、人数が少なすぎる。他の連中は、この惑星に来なかったのか。それとも、別の場所に振り分けられているのか。
が、騒がれるのは鬱陶しい。
委員長ぽい真面目そうな生徒とCAさんたちが宥めているが、イキった一団が森の中に入ろうとしている。
そこに立ち塞がったのが、人間要塞アヅマだ。
無言で、高校生たちの前に巨大イノシシを落とし置く。
ズシィン!という地響きに、その場の全員が動きを止める。
「森に入るんなら、ついでに食い物を採って来てくれよ。こんなのがウヨウヨしてるからさ」
ニヤリと笑うアヅマ。
怯む高校生たち。
イノシシに怯んだのか、アヅマに怯んだのか……。
そこに駆け寄ったのは、榊原。料理人だ。
「おぉ、すごいイノシシだな。血抜きとか手伝ってくれ」
料理人の血が騒ぐのか、テンションが上がりまくっている。
アヅマが高校生たちを使って、血抜きをやる様だ。
「榊原、魔石が出たら、アヅマに渡してくれよ」
俺がお願いすると、榊原が親指を立てて頷いた。ゴブリンからぶん取った短剣を渡した。
俺がテントに戻ると、痩せた男が1人で寛いでいた。榊原がテントに招いたらしい。
「間久部です」
「虎須大吉。よろしくな」
ちょっとひねくれた、暗めな雰囲気の男だが、頭はキレそうだ。アヅマや榊原に比べるとクセが強そうだが、味方になってくれそうな匂いがする。分からんけど。
テントの奥に腰を下ろすと、俺は魔石の交換システムを試す事にした。
「これか……」
左腕にハメられていた銀色の腕輪。これが銀河通販のデバイスだと、いつの間にか刷り込まれていた俺の記憶が言っている。魔石を対価に、銀河文明の様々な物品を買えるのだ。
ポケットからゴブリンの魔石を取り出す。計12個。
デバイスに近づけると、魔石は吸収される様に消えてしまった。
「むむ?」
デバイスからホログラム状の画面が出て、その中のポイントとという所が120になっていた。どうやら、ゴブリンサイズだと、魔石1個で10ポイントらしい。
「120ポイントで何が買えますか?」
気づくと、横から間久部がのぞき込んでいた。
「うーむ、ロクなのが買えないな。簡易食料や使い捨ての食器や水とか?」
「こっちのは、吸収出来ないのですか?」
俺が持ち込んだゴブリンの槍やこん棒を手にする間久部。
「魔石だけって言ってたけどな。それ、試していいぜ」
俺が許可すると、間久部が自分の腕輪に槍やこん棒を押し当て始める。
「ダメですね。反応する気配なし、です」
「そうか。じゃ、そこらは自分たちで使うだけだな」
そこにアヅマが入って来た。
「おう。榊原から魔石はもらったか?」
「ああ、これか」
アヅマの手には、ゴブリンのビー玉サイズより一回り大きな茶色い魔石があった。
「それ、自分の腕輪に吸収させて、何ポイントになるか見てくれないか?」
「うん?こうか?……あー、100ポイントだそうだ」
「なるほど。ゴブリンで10ポイント、イノシシで100ポイントか。渋いな」
「渋いのか?」
「渋い。それぐらいじゃ、ロクな物が買えん」
「まあ、しばらくはイノシシ食ってれば……」
「飽きるだろ」
「湖もあるし、魚も捕れるんじゃないですかね」
「なるほど。釣り竿か網を買うか?」
「まあ、俺たちだけじゃないしな。自然と役割が分かれてくれるんじゃないか」
アヅマは楽観的だ。
そこに高校生の1人が、食事の準備が出来たと迎えに来た。
テントを出ると、石組みのカマドがいくつか作られ、盛大にイノシシ肉が焼かれているのが目に入る。
「これは、紙皿や割り箸がいるな」
「水もな。塩ぐらいもあれば……」
アヅマと合計220ポイントの割り振りを考え、結局、紙皿と紙コップ、割り箸、水を買った。塩までは買えなかった。とにかく水の量が多かった。
それらを榊原に提供しようとすると、CA軍団が横からかっさらって、皆に配り始めた。
最初の騒ぎの時に俺を睨んでいた美人CAさんは、なぜか得意気な笑みをこちらに向けている。意味不明だ。
肉は榊原かゴブリン短剣で切り分け、皆に配った。ちなみに短剣は、鍛冶スキルを持つ者が綺麗にしたらしい。
「これは、美味い!」
イノシシ肉はロクに下処理もしてないというのに、ひどく美味かった。
何と言うか、身体が喜んでいるのが分かる味だ。塩さえ使ってないというのに、信じられない。
俺とアヅマは、肉を頬張りながら「明日も狩るぞ」とアイコンタクトをかわす。
この味の前には、高校生たちも静かにならざるを得ない様だった。少なくとも、今晩一晩ぐらいは大人しくしているだろう。
俺たちがイノシシ肉の余韻に浸っていると、CAさんが2人やって来た。1人は、あの怖い美人さんだ。
「貴方たちとも情報交換してた方が良いと思って」
もう1人のCAさん、清水さんが話し出す。俺より少し若いぐらいだが、姿勢の良い理知的な人である。
「この拠点にいるのは、37人。うち、高校生が22人。CA5人。他の人たちは不明です。それと、テント以外に持ち込めた物品は、各人が身に着けた物、実質的には服だけですね」
「親切なんだか不親切なんだか」
「不親切でしょう」
美人さんが怒っている。
「これから、どうしたら良いと思います?」
「しばらくは、ここで力を付けるべきかな?」
俺が言うと、美人さんが「街を目指そうとは?」と突っ込んで来た。
「いずれ街は目指すべきだと思うけど、移動の為にもここで装備等をそろえた方が良いと思う。森は深そうだったし、けっこう凶暴な手合いがいたしね」
言ってアヅマを向くと、アヅマも大きく頷いてくれた。
「そうなの?アヅマさんがいれば大丈夫と思うのは、甘い?」
「人数が少なければともかく、37人もいちゃあ、アヅマ1人じゃどうにも出来ないだろ。まあ、他の連中も戦える能力はある筈だから、慣れる為にもしばらくはここでやるのが賢いと思うぞ」
「なるほどね」
途端、オオカミっぽい鳴き声が遠くから聞こえた。遠吠えってヤツだ。
会話が止まる。
ファンタジー惑星、最初の夜が始まろうとしていた。
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