魔物の卵と新しい魔法
数日後、タグマンに行っていた間久部たちが拠点に戻って来た。
皆、元気そうである。良いリフレッシュになった様だ。
ただ、ノウンの存在と風呂ができた事を知った時は、やけに悔しがっていたが……。
それはそうと、間久部たちは大量の手土産を持ち込んでくれた。食器や手鏡がかなり高く売れたらしい。
それらの売却額で様々な衣類や食材、玩具、書籍等を買い込んで来たという。
しかし、一番の目玉は、なんと魔物の卵であった。しかも、二つ。
食材としてではない。
魔物をテイムする為である。
ここで登場するのが、高校生の中野姉妹である。中野悠理と茉理の双子の姉妹。二人ともが大の動物好きでテイム能力を持っている。5体のウルフも、彼女たちがテイムしたものだ。
「え、私たちがもらって良いんですか?」
「むしろ君たちにしか扱えないからね。ウルフたちはここの番犬代わりとして役に立ってるし、この子たちも頼むよ」
間久部が二枚目ボイスで頼むと、なぜか姉妹そろって赤くなっている。
「ありがとうございます。立派に育てます!」
間久部の卵じゃないからな、それ!
「どれぐらいで孵化するんだ?」
「マスターが魔力を流し込んだら、2〜3日で孵化するって言ってましたよ」
「イレーズさんも、面白い物を押し付けて来たな」
「現金ばかり持ち帰るのも問題ありそうでしたんで、こんな物まで買っちゃいましたが、駄目でしたか?」
「いやいや、面白そうだし、役に立つと思うし、俺は良いと思うぞ」
「だったら良かったですが」
勝手に高い買い物をしたのを気にしていたのか、間久部がホッとした表情になる。
「あ、あと、浜部さんたちにも会って来たんですが」
「まだカネは続いてたか?」
「ええ、まだ大丈夫そうでした。それが、馴染みの上客たちと付き合いを始めた様で」
「へえ〜」
「今は何とも言えませんが、将来的に役に立つかも知れないので、いくつか魔石を渡しておきました」
「ほほぅ。俺じゃ、そうはいかなかったかもな。良いんじゃないか。あの爺さんはともかく、間久部の目は信じるよ」
「ありがとうございます」
不良営業マンだった俺と違い、間久部は敏腕営業マンだったに決まっているのだ。
「それと、これは提案なんですけど」
「ん?」
「タグマンに屋敷を買うか借りるかしませんか?あちらに常駐の人間を置いても良いと思うんです」
「ああ、いずれはと思ってたけど、そんなに街に住みたがっている者がいたのか?」
「そこまではっきり聞いた訳じゃないですけどね、明らかに向こうの方が生き生きとしている子が何人かいましてね」
「なるほどな。高校生やCAさんたちは、そうかも知れんなぁ。分かった。次回は不動産も見て回ろう」
「今回もちょっと見て回ったんですけどね、なかなかの物件がありましたよ。……風呂はついてませんでしたけど」
「風呂は、広くて良いのを作ってもらおう。間久部も、そろそろ入って来たらどうだ?詳しい事は、また後で聞くし」
「待ってました!じゃあ、ちょっと入って来ます!」
俺と間久部が話してる間に、手土産はほとんどさばけてしまっていた。
何冊か書籍が残っているぐらいだ。
「あれ、人気のない本もあるんだな」
「文字が読めないんですよ」
高校生の一人が本を渡してくれた。
確かに、他の本とは違う文字が書かれている。……が、7か国語能力を持つ俺には、読めちゃうんだな、これが。
「なになに、人工精霊創造の魔法?」
なんか興味深いタイトルに惹かれてページをめくると───。
膨大な情報が頭に流れ込んで来た。
目が文字を追うのを止められない。
手がページをめくるのを止められない。
脳に新しい知識が刻まれるのを止める事が出来ない。
目の前が真っ白になり、光の中を真っ黒な文字列が踊る。
踊り踊って、一文字ずつが俺の頭の中に収まって行く。
なるほど、そうか!
それだけの事か!
俺の頭脳の一部に、人工精霊創造の魔法が刻み込まれた。
目を開けると、目の前にノウンがいた。
可愛らしい顔で、俺の目をのぞき込んでいる。
「魔導書を読んだな?」
「ああ、そうみたいだ」
「ちょっとした魔力の爆発があったんで来てみれば……。気をつけよ。こういう本の中には、危ない物もある。それこそ、二度と帰って来れなくなってしまう様な物がな」
「ええっ!?そんなの見分けがつかないよ」
「見分けよ。そうせねば、生きていけんぞ」
「無茶を言うなぁ」
「一冊を読んだお主には、次に出会った本が、危ない物かそうでないかは自ずと分かる筈じゃ」
「だったら良いけどな」
「で、何の魔法を覚えたのじゃ?」
「ん。これ」
手に持った本を見せようとしたが、ただの白紙の本に変わっていた。
「魔導書は一度使うと、そうなる」
「そうか。俺が覚えたのは、人工精霊創造の魔法だ」
「ほぉ。人工の精霊とな。また面白そうな魔法を」
ノウンは湖の方に向かって歩きながら、俺を手招きした。
「ちょっとこちらで見せてみよ」
俺はノウンについて、湖まで歩いた。
「作れる精霊に属性はあるか?」
俺は自分の頭の中をのぞき込む。
「ふむ。火と水が作れるみたいだ」
「お主の持っている属性と同じじゃな。では、水の精霊を作ってみよ」
俺は頭の中に刻み込まれた文字列を、言葉にしてなぞった。
と。
俺の胸の前にきらきらとした水が集まっていく。
水は固まって粒となり、ゴルフボールぐらいの大きさになり、ソフトボールぐらいの大きさになり、やがてバレーボールぐらいの大きさで成長を止めた。
見た目は、水でできたスライム。うねうねと表面が波立っている。
「なるほど。それが人工精霊か。レベルが上がれば、また形が変わるやも知れぬな」
俺は指先で水スライムをつついてみた。
ポワンポワンとした手応え。
「魔法は使えそうか?」
「あー、中級魔法まで使えるみたいだ」
「それもお主と同じという訳か」
「そうだな」
「ウォータージャベリン」
俺が呟くと、水スライムから水の槍が発射され、湖面の上を飛んで行った。
「これでお主は手数が2倍になるの」
「それは、助かるな」
「ただ、どこまで便利かは分からぬぞ。此奴を呼べる時間が決まってるやも知れぬし、お主からどれだけ離れられるかも分からぬ」
「なるほど。少しずつ検証していくよ」
「そうじゃな。では、まず精霊を自在に消せるかじゃな」
「ふむ」
これは魔法を解除すると思えば、簡単に消す事が出来た。集まっていた水が、パシャッと湖に落ちる。
「では、すぐに創造し直せるか」
もう一度呪文を詠唱すると、また人工精霊が現れた。
「お。意外と便利ではないか」
「きゃあ。何、その可愛いの?」
不意に声が聞こえたと思ったら、竜ヶ原さんだった。
「ああ、水の精霊なんだ」
「え、いつの間に、そんなのが喚べる様に……って、後でいいわ、そんな事。それ、触っていい?」
「いいよ」
最初は俺みたいに指先でツンツンしてた竜ヶ原さんも、水スライムが潰れないのを確認するや、そーっと抱きしめた。
「ポワンポワンしてて、気持ちいい〜!皆に見せて来るね」
「あ……」
妙にはしゃいで、水スライムを持って行ってしまう竜ヶ原さん。
「さて、どれぐらい離れられるのかのぉ?」
パシャッ!
地面に水が落ちる音と、竜ヶ原さんの悲鳴が聞こえたのは、20メートルぐらい離れた地点だった。
この後、びしょ濡れになった竜ヶ原さんにお小言を食らう事になる。
解せん……。
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