魔物は、みんな卵から?
2日後の朝、中野姉妹に預けていた卵が孵った。
生まれたのは、2体ともツインテール・フォックスと呼ばれる、ふさふさの尻尾が2本あるキツネだ。いや、仔ギツネだ。
まだ四肢の短いコロコロした体型で、ふわふわした毛並み、つぶらな瞳のフォックスたちは、文句なしに可愛かった。ノウンもスーパー可愛いが、この2体の可愛さは筆舌に尽くし難かった。
当のノウンが、2体の可愛さに参ってしまったぐらいだ。
「可愛いものだのぉ」とか言いながら、目を細めている。
純白の天使猫獣人が、赤毛の毛玉みたいなフォックスたちを抱いている姿は、一幅の宗教画みたいに見えた。
「名前は、どうするのじゃ?」
「それは、シラヌイとカガリに決めました」
「ほぉ。火魔法を持ってる此奴らにはお似合いの名前じゃな」
「え?この子たちは、火魔法持ちですか?」
「あと、簡単な幻を見せる能力があるな」
「へー、さすがノウン、魔物の能力が判るんだな」
「それに、成長するに連れ、尻尾の数が増える様じゃ」
「じゃあ、何を食べさせたら良いか判りますか?」
本当に動物が好きなのだろう。中野姉妹がメモを取りながら、ノウンに質問をする。
「肉でも魚でも、普通にやって大丈夫じゃぞ。卵から生まれるという事は、ミルクが必要な期間は卵の中で終えてるという事じゃからな」
「じゃあ……」
と、榊原が小魚を2匹取り出すと、シラヌイとカガリが目を輝かせて、パクリと食いついた。
「お。いい食いっぷり!」
小魚と言っても、自分の身体の三分の一ぐらいありそうな大きさだ。それを2体───いや、2匹でいいか───2匹は、「ウニャウニャ」言いながら、ムシャムシャと齧っている。
「くぅ、可愛い〜」
「俺、魚釣って来る」
俺は腕輪の通販システムで釣り竿を買うと、湖に向かって走り出した。
気がつくと、後ろからシラヌイとカガリが短い足で走って来る。その後ろから、中野姉妹が必死に追いかけて来る。
「お、おい、釣るのは、今から……」
と、2匹は俺を追い越して、そのまま湖に飛び込んで行った。
「シラヌイちゃん!」
「カガリちゃん!」
中野姉妹の悲鳴が響く。
が、2匹は短い足でパシャパシャと泳いで行く。
そして、適当な所で湖に潜ると、魚を追いかけ始めた。
「産まれ立てのクセに器用な」
さすがに一回では獲れなかったみたいだが、何回か潜っているうちに見事に魚を捕まえた様だ。
「えーと、俺の釣りの意味は……」
「だ、大吉さん、期待してますから……」
中野姉妹に慰められ、俺は湖に釣り糸を垂らした。
そして、1時間。
「釣れましたか〜?」
竜ヶ原さんがのぞきに来た。
なぜかワンピースの水着姿でサングラスをかけ、丸めたマットを持っている。ちょっと、ドッキリする。
「釣れないよ、全然。つか、そこで日光浴をする気かよ」
「大吉さんも、1人じゃヒマでしょ?」
「そうだけどさ」
「釣り竿、わざわざ新しいの買ったんですか?浜部さんのがあったのに」
「なんかイヤじゃん、あの人のお下がりは」
「まあ、分かるけど。でも、あの人、釣りは上手かったですよ?」
「いいんだよ!どうせ、ただの趣味なんだから!」
「負けず嫌いなんだから」
「うるせー」
「地球じゃ釣りはしてなかったの?」
「釣りなんかする余裕はなかったなぁ」
「じゃあ、趣味とかなかった訳?」
「読書ぐらいかな」
「本が好きだったんだ。どんなの?」
「小説から専門書からマンガから、何でも読んでたなー」
「意外。そんなタイプに見えないのに」
「どんなタイプに見えるんだよ?」
「ちょいワル中年?」
「不良会社員ではあったけど、ワルくはなかったぞ?」
「モテた?」
「モテない。彼女なんか、何年もいなかった」
「本当に?」
「本当に。……そちらこそ、モテてたろう?」
「私?そんな事ないよぉ」
「モテそうに見えるけどな」
「お世辞はいいわよ」
「いや、お世辞抜きで良い女だと思うもの」
「あら……」
「どうした?褒められ慣れてないとも思えんが」
「褒められたら良いってものじゃないのよ!」
「んん?お気に召さなかったか?でも、お世辞抜きで良い女と思ったのは本当だからな」
「もう!いいから!恥ずかしくなる!」
竜ヶ原さんは、両手で顔を覆ってしまった。
変な風に焼けなきゃいいけどね。
しかし、釣れない。何が悪いのか分からないが、全く釣れない。
俺は、人工精霊───水スライムを創造した。
「あ、また変な事しようとしてる」
「うるさいやい」
俺は水スライムを湖に放つと、「魚を獲ってこ〜い」と送り出した。
竜ヶ原さんも立ち上がって来た。
そんな格好で、隣に立たないで下さい。あなた、グラドルみたいな体型なんですから。心臓に悪いから。
しばらくすると、水スライムが水中から浮かび上がって来た。
バレーボールぐらいの大きさのその身体の中には、小魚が2匹閉じ込められている。
「本当に獲って来たよ」
「何それ、そんな事出来るの?」
水スライムは湖から出ると、ペッ!と小魚を2匹吐き出した。
地面に落ちた小魚は、ピチピチと跳ねている。
「これは、釣り竿いらないな……」
「そうね……」
と、水スライムが魚を獲ったのを見ていたのか、シラヌイとカガリが走って来た。
「キュン」と鳴いて、こちらを見る。
「食べていいぞ」と言うと、躊躇いなく齧りつく。
パタパタと振る尻尾の先に、小さな炎が浮かんでいる。
喜ぶと、炎が勝手に出るのか?危なくない?ここは、湖のそばだから良いけど。
2匹は小魚を食べると、またパタパタと走って行った。
可愛すぎる。
2匹が走り回っているだけで、拠点の雰囲気が明るくなりそうだ。
「大吉さんも、身体焼かない?」
「俺は良いけど、いいのか、おっさんと二人で?」
「いいのよ、おっさんとで」
俺は安いマットとサングラスだけを購入すると、上半身だけ裸になって、竜ヶ原さんの隣に身を横たえた。
彼女でもない女性と並んで身体を焼くなんて、妙にドキドキしてしまう。本当に俺はモテるタイプじゃなかったのだ。こういう機会は、四十数年で数える程しかない。それも、若い頃の記憶ばかりだ。
このトシになって、一回りも違う美女と一緒に、肌を焼く事になるとは思わなかった。
「竜ヶ原さんは、ここと街だったら、どっちで暮らしたい?」
「え……。そうね。街も良いけど、意外とこちらも自由で良いかな」
「そうなんだよな。街じゃ、あんまり通販の品物を使えないかも知れないんだよなー」
「私は、大吉さんがいたら、どちらでも良いかなー」
「え?」
「え?」
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