いい湯だな
結局、地球の事はわざわざ話さないと決めた。
意識コントロールがかかっているというのなら、そのままで良い。真実を知る事だけが正しい訳じゃない。逃げと言われれば、逃げだ。が、俺たちは、元の地球に戻れない悲しみを知る者は、俺たちだけで良いと結論づけた。
ノウンには、腕輪の通販システムで獣人の子ども用の服を買ってやった。
背中の羽根は引っ込められるらしい。外見を俺たちのイメージに合わせて具現化させたと言うだけあって、外見を変える事など自由自在だ。
が、戦闘力はまるでないという。
嘘か本当かは分からない。でもきっと、強力な武器ぐらい仕込んでいるに違いない。
拠点に戻ると、早速テイムされたウルフの出迎えがあった。
シルバーにブラックに……あれ?数が増えてる!?
ウルフは5体になっていた。ブラウンとレッドとグレイが追加されていた。そんな微妙な毛色の違い、分かんねぇよ。
5体のウルフたちは、なぜか千切れんばかりに尻尾を振りながら、ノウンに殺到した。
「ぶはっ、ばかっ、やめるのじゃ」
身体の小さなノウンは転ばされ、ウルフたちに押さえ込まれ、舐め回されている。
「その外見、ウルフにも効くのか?」
「むしろ、ダンジョンの主みたいな存在だからじゃない?」
「なるほど」
「納得してないで、助けるのじゃ!」
仕方ないので、ウルフの群れから救出してやった。
が、続いて女子高生たちの攻撃が始まる。
「わ、なにっ、猫の獣人!?」
叫んだのは、工藤さんだったかも知れない。
が、次の瞬間、ノウンの小さな身体は女子高生たちの手に奪われていた。
「可愛いーっ!」
「ふわふわしてるー!」
女子高生の一団に撫で回されるノウン。
これは確実に、その外見のせいだろう。
うらやましいヤツ。
「た、助け……、助けて!」
「いや、さすがに女子高生の中に俺は入れないし」
「何でもいいから、助けるのじゃ!」
「はいはい、その辺にしとこうねー」
結局、清水さんが割って入ってくれた。
「はーい」
「またね、猫ちゃん」
仕方なく去っていく女子高生たち。
「死ぬかと思うたのじゃ」
「こんな何の楽しみもない閉鎖空間の中に、そんな可愛い形の生き物がやって来れば、ああなるわなぁ」
彼女たちに必要なのは、純粋な娯楽だ。
そういう意味では、5体のウルフたちも、良いガス抜きになっているのかも知れない。
とりあえず荷物を置こうとテントに向かっていると、魚の干物を干しているのが目についた。けっこうな量だ。
「お、漁を始めたのかな?」
「小舟と投網を買ったんだ」
近寄って来たのは、料理人の榊原だ。
「あ、榊原さん、留守をありがとう」
「いや、平和なもんだったよ。漁がはかどった」
「なるほど。魚料理が楽しみだ」
荷物を置き、シャワーを浴びてさっぱりすると、早速アヅマとバスタブの購入検討会を開く。
ノウン?ノウンは清水さんが連れて行ったままだ。CAさんたちとシャワーを浴びてるのかね。うらやましい。
「バスタブはともかく、建屋が問題だな。逆に種類が多過ぎる」
「とりあえず男子用は、シンプルなので良いんじゃないか。」
「そうだな。本格的な露天風呂仕様にしようとすると、さすがにポイントがかかり過ぎる」
「その辺は、もっと魔石を貯めてからにしようぜ」
「じゃ、女子用の進展を確かめに行くか」
清水さんたちのテントを訪ねると、まだ全員であーだこーだやっていた。
「ああ、これは長くなるな」あきらめの表情のアヅマ。
「じゃあ、先に男子用を建てるぞ」
「ああ、待って。参考にしたいから、見に行く!」
という訳で、適当な場所を決めて、建屋を購入し、設置した。
ちょうどコンビニぐらいの大きさの建物である。
湖に向いた一面だけがガラス張りで、他の面にはロクに窓はない。
つか、本当にコンビニみたいな建物だな。コンビニって、実は銀河文明の産物じゃねぇだろうな。
中は脱衣所と浴場に分かれており、浴場にはポツンとバスタブを置いた。檜風呂とかにしたかったけど、メンテナンスが面倒そうなので、アクリル製にした。
お湯は、各自の日常レベル程度の水魔法と火魔法で賄う予定だ。
「うほっ、出来た出来た」
「なんか、浸かれれば良いってだけのお風呂ねぇ」
CAさんたちはジト目だが、俺とアヅマは大盛り上がりである。
「じゃあ、今から入るから、買う物が決まったら教えてくれよ」
そう言ってCAさんたちを追い出そうとすると。
「待って。まずは、これと同じ物で良いから建ててくれる?本格的なのは、魔石を貯めてからにするから」
俺たちと同じ結論に達した様だ。
「分かった」
そして場所だけはCAさんたちが厳選したという所にコンビニ風呂を建て、バスタブを設置した。
「出来たー!」
「さあ、入るから出てってよね!」
「おいおい、建てた途端に酷い態度だな」
「じゃあ、一緒に入る?」
「帰ります」
「俺たちも、風呂に入ろうぜ〜!」
再び男子風呂に戻ると、すでに高校生のワルガキたちが入浴を楽しんでやがった。
泣きたい。
夕食は、久しぶりに榊原の手料理に舌鼓を打った。
魚の干物がこんなに美味いとは、初めて知ったよ。
あと、テナガエビの天ぷらも良かった。
そして何より、炊きたての白飯だ。
ノウンも器用に箸を使って食べている。どんな指をしてるんだ。
「そう言えば、ノウンちゃんって、男の子なの、女の子なの?」
質問して来たのは、すっかりノウンのファンになった工藤さんだ。クールな委員長のイメージは、どこに行った?
「ワシは、どちらでもない。ワシらの種族に、雌雄の違いはないのじゃ」
「じゃあ、どうやって子どもを作るんだ?」
微妙な話を、スパーンと突いてくるアヅマ。
「一人で作れる」
「ええ?」
「もちろん、二人でも作れる。情報の交換をしてな」
「情報って、遺伝情報か?」
「そうじゃ。しかも、もっと大人数でも情報の交換さえすれば、子どもを作れる」
「えーと、何かイメージが掴みにくいな」
「なんなら、大吉とアヅマと三人の子どもを作ってやっても良いぞ」
「ひーっ!か、勘弁してくれ!!」
「なんじゃ、ワシなりの親愛の情の表れなのに」
「それは地球人にとっては、まだまだ早すぎる世界なんだ!」
「あら、私はちよっと興味あるかも〜」
清水さんが妖しい目でアヅマを見ている。なんか、怖い。
「竜ヶ原も興味あるでしょ?」
「え?あ、私はちょっと刺激が強すぎて……」
「何をネンネちゃん振ってるのよ!もう28でしょ!」
「ちょっと清水さん、それとこれとは!」
何か変なとこに火種が飛んで行った様だ。
28才。いいじゃないか。
「ノウン、どうやって情報を交換するかは知らんが、勝手に子どもを作るのは、やめてくれよ」
「心配ないのじゃ。勝手に情報を交換するのは無理なのじゃ」
「だったら良いけどさ」
まだキーキー言ってる清水さんと竜ヶ原さんを横目に、俺は魚の干物を堪能するのであった。
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