帰り道もただでは済まぬ
朝になり、俺たちはダンジョンを出る事にした。
実は前日にゼネウスから、帰るならこの時間が良いと聞かされていたのだ。
ダンジョンを出るパーティーが一緒に動いて、危険性を減らすのだという。
もちろん、帰りも稼ぎたければ、個別に出発すればいい訳だ。
俺たちは十分に魔石も稼げたので、他のパーティーたちに便乗して帰る事にする。
階段を1階層に上がると、黒ティラノ型が跋扈するエリアである。
が、複数のパーティーがいるので、対する敵は1体か2体で済む。おまけに、2階層に降りようとするパーティーたちもこのタイミングで階段に差し掛かる様にしているらしく、たちまち黒ティラノたちは蹴散らされてしまった。
後は、代表者たちが情報交換をして、階段付近での一幕は終わりとなった。
「はぁ~、ちゃんと考えてるんだなぁ。感心するよ」
「これを知ってたら、私たちだけで強行突破せずに済んだのにね」
「本当だ……」
それからも、他のパーティーと付かず離れず、出口に向かう。
勝手に他のパーティーたちに便乗して何か言われるかと心配したが、特に何か言われる様子はなかった。前日に治癒魔法でゼネウスのパーティーを助けたせいもあるのかも知れない。
「お風呂、楽しみね」
「露天風呂みたいに出来ないかしらね?」
「高校生の子たちがのぞきに来るわよ?」
「高校生には、まだ早いわね」
俺とアヅマがいるのに、なんだか刺激的な方向に話が転がって行く。
このまま黙って聞いてて良いのかな?
なんてアホな事を考えてたせいか。
他のパーティーに続いて大きな柱の根元を曲がると、前を歩いていたパーティーがいなくなっていた。さっきまで聞こえていた足音も聞こえない。
「あれ?」
思わず後ろを振り向くと、曲がったばかりの大きな柱がなくなっている。て言うか、道さえなくなっている。もちろん、後ろにいたパーティーも姿を現さない。
「またか……」
「またね」
清水さんが顎で指し示した方向に、1体のラプトル型が立っていた。
ただし、その肌は金属的な光を帯びている。体高も、普通のラプトル型より大きそうだ。
「金属製か。あの人形たちと重なるな。どれだけ俺たちを異分子扱いするんだよ?」
「しかも今度は、部屋の中しか動けないって訳じゃなさそうよ」
そう言いながら、清水さんがゲコ太を召喚する。
つか、もう同じ部屋にいるからな。
「あの後ろにあるのって、宝箱じゃない?」
宮島さんが目敏く見つけたのは、まさに宝箱に見えた。金属製ではあるが、マンガに出て来る宝箱の形そのものだ。
「逃げ道はなし。ご褒美も用意されている。やらん訳には、いかんだろう!」
叫んで、アヅマが飛び出す。
ガイーン!!
次の瞬間には、アヅマの長剣がラプトルの首筋に叩きつけられていた。
瞬間移動したのかと思うスピードだ。
しかし、その剣は大きく弾かれていた。
金属製の皮膚は伊達ではないらしい。
金属ラプトルが身をよじり、身長程に長い尻尾をアヅマに叩きつけようとする。
が、散々尻尾攻撃を受けて来たアヅマは、素早く後方に跳び退いた。
そこに炸裂する、竜ヶ原さんのサンダーストライク。
直撃!
しかし、効かない。
金属の全身を伝って、雷のエネルギーが地面に流れて行ったのだ。
ならば、炎は!?
俺のファイヤージャベリン5連発が、金属ラプトルの胸に命中する。
爆炎の後に現れたラプトルの金属の皮膚は、わずかに焦げて歪んで見えた。
効いた?少しは効いたか?
少しでも効くというのなら……。
「竜ヶ原さんは、いつでもサンダーストライクを撃てる様にしてて!悪いが、多摩さんとアヅマは、俺の攻撃する隙を作ってくれ!」
今度は、俺が魔力切れまで頑張る番だ。
ファイヤージャベリンを連射!
剣が効かない。雷が効かない。わずかに効くのが炎だけというのなら、穴が開くまで同じ場所を狙うだけだ。
多摩さんのシールドが金属ラプトルの行く手を阻む。
アヅマの長剣が叩きつけられる。
ラプトルの尻尾がアヅマをぶっ飛ばす。
宮島さんが治癒魔法をアヅマに飛ばす。
俺の炎の槍が金属ラプトルの皮膚を焼く。
ラプトルが突進しようとする。
多摩さんのシールドが……。
そして遂に、俺のファイヤージャベリンが金属ラプトルの皮膚を貫いた。
ほんのわずかにだが、確かに穴が開いたのが分かる。
「アヅマ!」
「おうさ!」
長剣を振りかぶるアヅマ。
またもそれを跳ね飛ばそうとする金属ラプトルの尻尾攻撃。
が、その尻尾がガシッと絡め取られた。
ゲコ太の舌だ。地面に全身を貼り付け、金属ラプトルの動きに堪える。
体長50センチのゲコ太が堪えられたのは、ほんの一瞬だ。
が、その一瞬で、アヅマの剣がラプトルの金属の身体に突き刺さっていた。俺が開けた穴を、正確に貫いたのだ。
そして、跳ね飛ばされるアヅマ。長剣だけをラプトルの身体に残し、すっ飛んで行く。
「竜ヶ原さん!」
「待ってたわ!」
満を持して放たれた竜ヶ原さんのサンダーストライクが、アヅマの刺した長剣を直撃する。
今度は、その雷エネルギーの大部分が長剣を伝って、金属ラプトルの体内に流れ込んだ。
ドン!という重い音とともに、その四肢が、頭が吹き飛ぶ。
バラバラと落ちて来る機械部品は、途中で黒い粒子と化した。
俺は目の前が暗くなりかけて、地面にしゃがみ込んだ。うげ。吐きそう。
「わお、今度の魔石は凄いわよ」
清水さんのはしゃぐ声が聞こえる。
「アヅマは、生きてるか?」
「けっこう元気そうよ?」
清水さんの声にアヅマを見てみると、何かを抱えたまま、キラキラした目でこちらを見ている。
「なんだ、それ?」
「戦鎚て言うのかしらね。要するに、重た〜い金属製のハンマーよ」
なんだか、呆れた声の清水さん。
「今のラプトルのドロップ?」
「そう」
「で、アヅマが欲しがってる訳ね?」
「そうそう」
アヅマも「うんうん」とうなずく。
「つか、柄の長さだけで3〜40センチあるじゃん。ハンマー部分もバカでかいし、総金属だろ?そんなのアヅマ以外に誰が使えるんだよ?」
黙ってガッツポーズを取るアヅマ。そんなに嬉しいのかよ。でも、確実に長剣より強力な武器になるだろう。
「ドロップは、そんなもん?」
「うん。あとは、宝箱ね」
「ゲコ太って、宝箱開けられる?」
「開けられるわよ」
「開けられるのかよ。冗談で訊いたのに」
「じゃ、ゲコちゃん、開けてみて」
ゲコ太がピョンピョンと宝箱へ向かうのを見ていると、竜ヶ原さんが寄って来た。
「もしかして、魔力切れ?」
「ああ、ちょっと気持ち悪い」
「膝枕でもする?」
「して欲しいけど、周りの目が怖い」
「あら、残念」
「じゃ、開けるわよー」
ゲコ太が両手を使って、器用に宝箱の蓋を持ち上げた。
途端、プシューと白い煙が噴き出す。
毒ガスか!?と身構えたが、ゲコ太が真っ白になったまま、ふらふらと後退る。凍った?
「毒ガスじゃないわ。冷気だって言ってる」
清水さん、ゲコ太の言う事がそこまで分かるのか。
ゲコ太に代わって宝箱をのぞき込んだ宮島さんと多摩さんが、「ふにゃっ!」と変な声を上げた。
「どうしたのよ?」
と、中をのぞき込んだ清水さんも、動きを止めた。
竜ヶ原さんと顔を見合わし、仕方ないので俺も何とか立ち上がって、宝箱をのぞきに行った。
宝箱の中には、もう1枚透明な蓋があった。
その奥に、子どもの猫獣人が背中を丸めて眠っていた。
そしてその背中には、白い羽根。
「……天使猫獣人?」
途端。
俺の声に反応したかの様に、透明な蓋が静かに開いた。
眠っていた猫獣人が、ぱっちりと目を開く。
「ふーむ、よく寝た……」
腰にだけ短い白い布を巻いただけの天使猫獣人の子どもが身を起こす。
全身、真っ白だ。顔は、ほぼ猫そのもの。
そして、黄玉の左目と青玉の右目。
「で、お前たちは何者じゃ?」
天使猫獣人の子どもは、静かに問うて来た。
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