第二層
2階層目に降りると、またも小キャンプ地が広がっていた。
この辺は、ウルスからも話を聞いている。各階層の入り口付近は、不思議と魔物が近寄らないらしい。その代わりか、次の階層への出口(?)付近には、強敵がひしめいている訳だが。
「とりあえず、もう半日ばかり狩りをして、夜はここで休もう」
なお、ダンジョン内に昼夜の区別はない。ずっと明るいままだ。
だから夜というのは、あくまで俺たちの身体のリズムの問題である。
1階層目と同じく、2階層目も石畳が広がり、あちこちに石組みの柱が立っている。
その中を、キャンプ地を拠点にした冒険者たちが静かにうろついている。一戦してはキャンプ地に戻って休み、そしてまた一戦をして……を繰り返しているのだろう。数は稼げないだろうが、安全な戦い方だ。
俺たちは、躊躇なく奥へと歩き出す。
と言っても、無謀に突き進む気はない。他の冒険者たちの姿が少なくなる境界辺りで狩りをするつもりだ。それなりに自信はあるが、自信過剰にはならない。そういうスタンスである。
「どうやら2階層のメインの敵は、大き目のトリケラトプス型の様だな」
アヅマが呟く。
他のパーティが戦っているのを見れば、黒みがかった体長3メートル級のトリケラトプス型だった。
その全身は更にゴツゴツし、まさに戦車。突き出した3本の角が、まるで大砲の様に見える。
「黒トリケラ型ってとこか」
物理攻撃主体のパーティは、かなりの持久戦になりそうだ。
やがて他のパーティの姿が少なくなり、敵に困らない辺りに着いた。
「清水さん、頼む」
「ええ」
さすがに2体も3体も同時にやりたくないので、清水さんのゲコ太に釣り役を頼む。
一番近くの黒トリケラ型に近づくと、舌を伸ばして尻を叩いた。
「プシュー!!」
黒トリケラ型の頭付近から蒸気が噴き出し、ゲコ太を追いかけ始める。
俺たちの方へ走って来るゲコ太。ちょっと表情が必死に見える。
「多摩さん!」
ガシーン!!
多摩さんの防御魔法が、黒トリケラ型の突進を受け止めた。が、3本の角は明らかにシールドを貫いている。
「魔法!」
竜ヶ原さんのサンダーストライクが、その背中に炸裂。続いて俺のファイヤージャベリン5連発が、黒トリケラ型の土手っ腹に命中する。
そこに躍り込むアヅマ。臆する事なく長剣を振るう。
バンバン!という肉を打つ音とともに血が飛び散る。一応、物理攻撃でダメージを与えているらしい。やっぱり凄い男だ。もっとデカい剣を使わせてやりたくなる。
「2発目!」
アヅマが跳び下がったところへ、竜ヶ原さんのサンダーストライクが再び直撃し、黒トリケラ型は黒い粒子と化した。
ついでに、魔石と陶器の小瓶がコロリと落ちる。
「あ、何か落ちた」
宮島さんが手に取る。
「液体が入ってるみたい」
「ポーションってヤツかしら?」
清水さんが言う。
「鑑定持ちがいないから、分からんな」
とりあえず鞄にしまっておく。
「皆、大丈夫か?大丈夫なら、次行こう」
「了解!」
また、ゲコ太が走り出す。
ゲコ太が釣り出し、多摩さんがシールドで受け止め、俺と竜ヶ原さんの魔法で攻撃。よろめいたところをアヅマが追撃。最後に竜ヶ原さんがトドメを刺すという形で、俺たちは狩りを続けた。
時々アヅマが黒トリケラ型の尻尾攻撃を食らうので、治癒魔法の宮島さんの出番もそこそこある。
が、アヅマがいないと俺たちが黒トリケラ型に追い回される事になるので、あまりアヅマの無茶を責められない。
しかし5体も黒トリケラ型を狩ったところで、竜ヶ原さんが魔力切れを起こした。さすがに上級魔法の連発は堪えたらしい。
「よし。そろそろ帰ろうか。短剣なんかも拾えたしな」
「そうね、これぐらいにしておきましょう」
まだやれるという表情をしている竜ヶ原さんを諭す様に、清水さんが帰還を宣言する。
短剣は、索敵役の清水さんが装備する事になった。アヅマとお揃いだと、なぜか清水さんが上機嫌になる。ん?……そういう事なのか?
アヅマはモテ過ぎなのだろう。何の反応もない。こういうのを、鈍感主人公というのか?
帰り道で、かわし切れず、もう1体黒トリケラ型を倒した。
明らかに辛そうな表情になる竜ヶ原さん。
「大丈夫か?おんぶするか?」
「やめてー。セクハラよ」
「そりゃそうだわな、すまんすまん」
俺が引くと、なぜか清水さんに蹴られた。
キャンプ地に戻ると、ひどくざわついていた。
俺たちを見て、冒険者の1人が走り寄って来る。
「な、なあ、あんたら、ポーションを持ってないか?」
「ポーション?」
「仲間が大怪我をしたんだ。外まで連れ出す余裕もない。ここで治療出来なきゃ……」
まだ若い冒険者だ。表情が必死そう。彼自身も小さくない怪我をしている。
「さっき拾った物があるが、鑑定出来てないからな……」
俺が拾った陶器の小瓶を取り出すと、別の魔法使いっぽい男が横からのぞき込んだ。
「これは、肉体強化ポーションだな……」
「そうか。すまなかった」
男が肩を落として戻って行こうとする。
俺が振り向いて宮島さんを見ると、本人がやる気満々で前に出て来た。
「おい、待てよ。ポーションはないが……」
男が怪訝な表情で振り向く。
「治癒魔法使いなら、いるぞ」
どっとキャンプ地がどよめいた。
「ほ、本当か?いいのか!?」
「ええ」
アヅマが付き添って、宮島さんが男に付いて行く。
「じゃあ俺たちは、テントを立てておこう。竜ヶ原さんは休んでていいぞ」
「ごめん」
「気にするな。今日は一番頑張ってくれたんだから」
竜ヶ原さんの顔が赤い。本当に具合が悪そうだ。
「あなた、本当は分かってやってない?」
清水さんが変なツッコミを入れて来る。
「え?何が?」
「くぅ〜、苦労しそうだわ、これ」
「……?」
テントを立て終え、食事の準備に入った頃に、宮島さんとアヅマが帰って来た。
「どうだった?」
「けっこう酷い怪我だったけど、宮島さんのおかげで間に合ったよ」
宮島さんの顔が青白い。
いつもなら食い気優先の宮島さんが、変におとなしいのも気になる。
「ショック受けちゃった?」
「ちょっとね。エグい怪我だったから……」
「そっか。食事は後にするか?」
「ううん。食べる」
「彼女の場合、ショックもあるだろうが、魔力の使い過ぎだろう。それだけの大怪我だったからな」
「なるほど。アヅマの言う通りなら、食った方が良いな」
宮島さんは、弁当を2つ選んだ。
「いただきま〜す!」
「竜ヶ原さんも食べた方が良いぞ」
「うーん、じゃあ、大吉さんが食べさせて」
「オッサンをからかうなよ」
俺は竜ヶ原さんが選んだパスタを手渡した。
「で、黒トリケラ型は、ポイントいくつですか?」
「ん?そうだな。調べてみよう」
腕輪に黒トリケラ型の魔石を吸収させる。
「お、1個で四万ポイントだ!」
「すごっ!」
「黒トリケラ型だけで24万ポイントだ」
「お風呂、2ついけるね!」
「ああ」
でも、女性陣の方が人数が多いから、すぐに女性用をもう1つって話になるんだろうな。まあ、そうなったら、また魔石を集めたら良いだけだけど。
と。
テントの外から声がかけられた。
のぞくと、さっき声をかけて来た若い冒険者だ。
「ありがとう。おかげで本当に助かった」
「いやいや、こういう場所じゃ、お互い様だ」
「これ、少ないけど、お礼に……」
男がおずおずと革袋を差し出す。
ざっとのぞくと、中には銀貨や銅貨が詰まっていた。少しは金貨もあるか。
よく分からないが、男の態度から、こういう時の相場には足りていない事は察せられた。
舐められるのも困るが、ここでガメつくなる気にもなれない。
「名前は?」
「あ、ああ、ゼネウスだ」
「俺は大吉だ。今度、こっちが困ってたら頼むな」
「も、もちろんだ!」
「じゃあ、これはありがたくもらっておく」
「す、すまない。いや、あんたらがガイアスと仲良くしてるのを見てたから……」
「ん?」
「いや、何でもない。本当に困った事があったらいつでも言ってくれ!」
そう言って、ゼネウスは去って行った。
「怪我人は、あいつの彼女だったんだよ。もうちょっとで片腕になるところだった」
アヅマが後ろからそう言った。
「そうか。良い事をしたな。あんまり便利に使われるのは困るが」
「その辺は、俺が睨みを効かせといたからな」
「はは。さすが、アヅマ」
俺は、ちょっと良い気分で弁当にパクついた。
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