第一層の探索
ダンジョンの探索、2日目。
初日はお試しだったので、本格的な探索は今日からになる。
古代遺跡ダンジョンはいくつもの階層に分かれており、今のところ8層までの到達が報告されているらしい。それ以上は、補給問題がネックとなって、進むのが難しい様だ。補給の心配はない俺たちとしては、魔物を倒す実力さえ伴えば、更に深層が目指せる訳だ。
が、慎重に、慎重に。いいトシなんだから、調子に乗って大怪我してる場合ではないのだ。
それでもラプトル型には問題を感じない俺たちは、真っ直ぐに1層の奥に向かう。
索敵役の清水さんも、出来るだけラプトル型は避け、ティラノ型を主体に探している様だ。ティラノ型もすでに倒し方を確立しているので、進行もスムーズである。
他のパーティを見た感じでは、物理攻撃役がメインとなっており、魔法使いがいても初級魔法がせいぜいで、効率的にティラノ型を倒すのは難しい様である。
と。
「新しいタイプがいるわ。四つ足ね」
清水さんの索敵に新種が引っかかった。
慎重に歩を進めると、トリケラトプス型の魔物が目に入った。牛ほどの大きさに、額から2本、鼻先から1本伸びた鋭い角。手強そうだ。
しかも、視界に入った途端、俺たちに向かって突進して来た。
「多摩さん、シールド!」
「はい!」
多摩さんの防御魔法が展開され、ガキィッ!とトリケラ型を受け止める。
「魔法!」
そこに俺のファイヤージャベリンと竜ヶ原さんのサンダージャベリンが突き刺さる。
が、よろめくだけで、トリケラ型は倒れない。タフだ。
「うらぁっ!」
アヅマが蹴りを入れるが、全然効かない。
それでもトリケラ型の意識がアヅマの方を向いたので、その横っ腹に再び俺と竜ヶ原さんの魔法の槍が命中する。ガクリと膝を折るトリケラ型。
粒子化するトリケラ型を見て、ホッとする俺。
「次は、最初から上級魔法で良いかもな」
「ええ、そうするわ」
竜ヶ原さんも神妙にそう答える。
「あ、なんかドロップしたわよ」
宮島さんが声を弾ませる。
見れば、ティラノ型よりはっきり大きい魔石とともに、鞘に入った剣が落ちていた。
「うわ、こんな物まで落とすのか」
拾ってみると、街で買った物より重量感と高級感のある立派な長剣だった。
「アヅマ、剣を使ってみないか?」
「え?反則攻撃は苦手なんだがな」
「さすがに、トリケラ型に素手は無理だろ?」
「まあな……」
仕方なさそうに長剣を受け取るアヅマ。
鞘から抜いて剣身を眺める。
「綺麗なもんだな」
軽く振るだけで、ビュン!と風が鳴る。
「ふん。悪くないかもな。使ってみるよ」
次に出たのもトリケラ型だった。
またも接敵した瞬間に突進して来るのを、多摩さんのシールドが受け止める。
続いて、竜ヶ原さんのサンダーストライク。轟音とともに、ふらつくトリケラ型。
トドメはアヅマだ。振り下ろした長剣が首の半ばまで達し、あっさりと巨体が粒子化する。
「お、いい感じ?」
「反則攻撃も悪くないな」
アヅマがニヤリと歯を見せる。
更に進むと、少し大きめのティラノ型が現れた。
体高、2.5メートル。目つきが悪い。全身が黒っぽくなり、頭部がイガイガしている。いや、尻尾もイガイガしてるな。あんなので殴られたくないものだ。
ここまで来ると、他のパーティも少ない。どう見ても、初心者向けじゃないしな。
ノソリと動く巨体。
アヅマが飛び出すと左足に斬りつけてから、素早く飛び退いた。
太腿から血が噴き出し、動きが止まる黒ティラノ型。
そこに、竜ヶ原さんのサンダーストライクが炸裂。
黒ティラノ型が頭から火花を散らし、身体をぐらつかせる。
更に俺のファイヤージャベリンが頭に命中し、その身体が粒子に変わる。
「ふぅ……」
結果は完勝だが、敵のプレッシャーが凄い。あんなのに剣で挑める神経が分からない。
「ちょっと休憩しよう。お昼ぐらいだろ」
「そうね」
壁際の、魔物も冒険者もいない辺りで腰を下ろす。
身体よりも神経が疲れていたのが分かる。
清水さんも索敵を休む為に、代役のゲコ太を呼び出す。
「良かった。ちゃんと復活したんだな」
「ええ、1日ぐらいで復活出来るみたいね」
「悪かったな、ゲコ太。サンドイッチ食べるか?」
冗談で、銀河通販で買ったサンドイッチを差し出すと、いきなりビャンと舌が伸びて奪って行った。
「のわっ!」
「ありがとう。この子、何でも食べるから」
「そ、そうか」
アヅマも面白がって唐揚げを見せると、やはり舌が伸びて見事に持って行った。
宮島さんと多摩さん、竜ヶ原さんには、いまいちウケは良くない様だ。
まあ分からなくもないが、ちょっとずつ可愛く見え始めたのも事実だ。
ゲコ太が見張りをしてくれてる間に軽く食事を済ませ、食後のコーヒーを飲む。やはり、文化的な生活は良い。
ついでに、トリケラ型と黒ティラノ型の魔石を、腕輪に吸収させてみる。
トリケラ型、魔石1個で1万ポイント。黒ティラノ型、2万5千ポイント。
「これは、十分に風呂もいけそうだな」
「そうね。楽しみだわ」
「男女別に二つ買っても良いな」
と言うか、一つだけなら、確実に女性陣に占領されるのが目に見えている。
休憩を終えると、俺たちはまた進み始めた。
今日は、ダンジョンの中で一泊する予定なのだ。あと半日、進めるだけ進んでみる。
やがて、他の冒険者の姿がまるで見えなくなり、代わりと言っては何だが、黒ティラノ型がウロウロするエリアにやって来た。視界内に7〜8体も見える。
「これは、1体やってる間に、確実に他のに見つかるな」
「大吉さん、この先に階段らしいのがあるわ」
「むう。じゃあ、ここを突破する必要があるのか」
「他のパーティも、こんな所を突破して行くのかしら?」
「下の階を目指す連中は、同時に協力して進んで行くのかも知れんなぁ」
竜ヶ原さんの疑問に、俺なりの答えを返す。
「私たちは、どうするの?強行突破?」
なぜか嬉しそうに、竜ヶ原さんが言う。
「それしか、ねぇだろ」
物騒な意見の好きなアヅマが、すかさず賛成する。
「私、頑張ります」
防御魔法の多摩さんも、明らかに自分の見せ場が増えると喜んでいる。
「あたしも、頑張ります」
治癒魔法の宮島さんは、あんまり頑張る事がない方を願おう。
「じゃあ、行くか。多摩さんには、頑張ってもらわないといけない。アヅマは、半ば遊撃的に頼む。清水さん、ゲコ太で敵のコントロールをお願い。俺と竜ヶ原さんは、全開で行く」
「了解!」
「分かったわ!」
「はい!」
まずは清水さんがゲコ太を呼び出し、黒ティラノたちの間をピョンピョン跳ばせる。
黒ティラノたちがゲコ太に注意を向けた途端、アヅマが飛び出して1体の首筋に剣を一閃させた。むろん、それだけで倒れる黒ティラノ型ではない。が、注意がアヅマにも向く。
「行くぞ」
そこから俺と竜ヶ原さんの全開攻撃が始まった。
肉弾戦にさえならなければ、黒ティラノ型と言えど、俺たちの敵ではないのだ。
竜ヶ原さんのサンダーストライクを受けた黒ティラノ型は、1発で瀕死となる。
俺のファイヤージャベリン5連発を受けた黒ティラノ型も、それで瀕死になる。
そこにもう1発ジャベリンを撃ち込むか、アヅマが斬り込むかすれば、敵は倒れる。
が、2体倒したところで、黒ティラノたちの意識がこちらを向いた。動きは遅いが、ドスドスと足音を立ててこちらに近づいて来る。
それを阻むのは、多摩さんの防御魔法とアヅマの肉弾。
またも俺の5連発ジャベリンと竜ヶ原さんのサンダーストライクが炸裂し、2体の黒ティラノが倒れる。
残り3体。
防御魔法とアヅマが1体ずつ押さえて。
5連発ジャベリン。サンダーストライク。
残りの1体が飛び出す。
とっさに俺は剣を抜いて、黒ティラノ型の喉に剣先を突き込んだ。
俺だって、肉体強化が常時7倍なのだ。これぐらい出来る。出来る筈だ。
「大吉さん!」
竜ヶ原さんの悲鳴が聞こえた気がしたが、聞き間違いだろう。
ガチガチと大顎を鳴らしながら、黒ティラノ型が傷口が広がるのも構わずに、身体を押し込んで来る。
ヤバい、ヤバい。
と、横からアヅマの剣が黒ティラノ型の脇腹に突き込まれた。
身体がくの字になる黒ティラノ型。さすが、アヅマのパワーは凄い。
「2人とも、退いて!」
竜ヶ原さんの声に、俺とアヅマは剣から手を離し、一気に飛び退いた。
間髪入れず、そこに炸裂するサンダーストライク。
最後の黒ティラノ型が粒子化する。
地面に落ちる俺とアヅマの剣。
俺も思わず地面にへたり込んだ。思わずやってしまったが、やはり黒ティラノ型相手の肉弾戦は怖かった。
「大吉さん、死んだ?死んじゃった!?」
「生きてるよ、竜ヶ原さん」
「良かったー……」
竜ヶ原さんもへたり込む。
「そんな簡単に殺してくれるなよ」
「だって……」
あれ?竜ヶ原さん、べそをかいてないか?
「はいはい。悪いけど、また敵が湧く前に、階段だけ降りようか」
清水さんの声に、多摩さんと宮島さんがドロップを集め始める。どうやら今回も、宮島さんの出番はなかったらしい。
俺もなんとか立ち上がると、まだ座り込んだままの竜ヶ原さんに手を伸ばす。
「さあ、立てよ」
竜ヶ原さんも、赤い目をしたまま、そっと俺の手を取った。
読んでいただいて、ありがとうございます。
こんなお話でも面白いと思って下さったら、『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にしてポイントを入れてもらえたら嬉しいです。




