恐竜ダンジョン
俺たちは狩りを続けていた。
金属人形のせいでだいぶ気持ちが萎えてはいたが、これで帰る訳にはいかない。俺たちには文化的な生活が必要で、その為には魔石が必要なのだ。
「ラプトル型、いたわよ」
清水さんの索敵に引っかかった魔物を、いそいそと狩りに走る。なんせ、ダンジョンの浅い階層の為に、競争相手が多いのである。
「いた!今度は、俺の魔法を試す」
俺は宣言すると、ファイヤージャベリンを飛ばした。
炎の槍は狙いあやまたず、ラプトル型の胸に突き刺さった。グラリと身体が揺れるが、まだ倒れる気配のないラプトル型。すかさず、もう1発ファイヤージャベリンを発射。
2発目が胸を貫き、今度こそラプトル型は地面に倒れた。
「ジャベリン2発か。まあ悪くない燃費かな」
黒い粒子と化したラプトル型は、魔石を残しただけだった。が、この魔石がありがたい。クラス的には、大型イノシシのそれを超える感じだ。数百ポイントは、あると見た。
次に現れたラプトル型は、竜ヶ原さんのサンダージャベリン2発で倒した。
剣や槍だけで倒そうとすると、動きも素早いし、苦労するのだろうが、俺たちの様に中級魔法が使えれば、そう難しい相手ではない。
「でも、ガイアスが儲けたって言ってたのは、何が取れたんだろうなぁ?」
アヅマがそう切り出した。
「そうだな。魔石や爪ばかり集めたって、そこまで儲からないよな」
「もっと、美味しい敵がいるんじゃないかしら?」
「宝箱を開けたとか?」
皆、好き勝手に言う。
「まだまだ、ダンジョンについては知らない事だらけだからな。これから、美味しい事もあるんだろう」
すでにヤバい目にはあっていたので、あくまで前向きな事だけを言っておいた。
「そうね。高価なドロップ品とかもあるかも知れないわね」
「その線が強いかな。まあ、期待しておこう」
とか言ってると、清水さんが強そうな敵を見つけた。
見た目は、小型のティラノサウルスだ。小型と言っても、身長はアヅマより高い。2メートル近くある。
頭部が異様に大きく、その大顎には、サメの様な歯がびっしりと生えている。やはり、前脚は小さい。
「よしっ、俺が行く」
アヅマが、またタイマンでやる気だ。
「本気か?あんなのと肉弾戦って正気とは思えんぞ」
「データは必要だろ?」
「自分が戦いたいだけだろ」
「へっ!」
アヅマは走り出すと、いきなり跳んだ。
ラプトル型に比べて動きが遅いと見たのだろう。ドロップキックだ。
ティラノ型の大きな頭部に、地面と並行になったアヅマの巨体が炸裂した。大きくよろけるティラノ型。
「うらぁっ!」
すぐに飛び起きると、よろけるティラノ型に拳の雨を降らせるアヅマ。
うわっ、殴るだけで痛そうなんだけど。
ティラノ型が、たまらず身体をよじる。がら空きになる後頭部。アヅマが渾身の一撃を叩き込もうと……。その横っ腹を、ティラノ型のぶっとい尻尾が跳ね飛ばした。
「げふっ!」
くの字になって吹っ飛ぶアヅマ。
「アヅマ!!」
俺がファイヤージャベリンを撃とうとすると、アヅマが凄い勢いで立ち上がり、ティラノ型に組みついた。
おい、今のでダウンしないのか。
しかし、組みついたのは失敗だった。ティラノ型がアヅマの右肩をガブリと噛んだのだ。
アヅマには、光る防護膜がある。あるが、ティラノ型の噛む力がとんでもなく強そうに見える。
ミリミリミリッと何かが軋む音が、辺りに響く。
「おい、アヅマ!?」
「すまん、救援頼む!」
アヅマが白旗を上げた途端、竜ヶ原さんの上級魔法、サンダーストライクがティラノ型の尻尾に炸裂した。一撃で尻尾が千切れ飛び、思わずアヅマの肩から顎を外すティラノ型。その頭部に、俺のファイヤージャベリンが命中。続いて、竜ヶ原さんのサンダージャベリンも命中。
倒れる前に、ティラノ型が黒い粒子と化す。
コロンと落ちる、明らかに大きな魔石。
「アヅマさん、生きてます!?」
治癒魔法使いの宮島さんが、大慌てでアヅマに駆け寄る。
「大丈夫、大丈夫。早めに助けてもらったから、肩も怪我してないし」
「お腹は?尻尾にバチーンってされたお腹は?」
「ああ、こっちはちょっと痛いかもな」
アヅマがTシャツの裾をまくると、見事にムキムキにバキバキに割れた腹筋に、赤黒い痣がビターンと付いていた。
「い、痛そう……!」
「痛そうじゃなくて、早く治癒魔法かけてあげてよ」
怪我を見て引く宮島さんの背中を、清水さんが叩く。普段、冗談ばかり言っている清水さんも心配そうだ。
「あう。治癒魔法かけまーす」
宮島さんの手から、淡い光がアヅマの痣に照射される。
すると……。
「おお、凄い」
瞬く間に痣が消えていくではないか。
「痛くなくなった!」
「良かった。ちゃんと効いた」
「そう言えば、宮島の治癒魔法、初披露だったわね」
「うん。だから、ちゃんと効くか心配で」
「大丈夫。ばっちり効いてくれたよ」
アヅマが親指を立てる。
「私の出番だけない……」
防御魔法使いの多摩さんが、ボソリとつぶやいた。
とりあえずその日は、それをきっかけにダンジョンを出た。
他の冒険者たちもテントを立てている広場に、俺たちもテントを立てる。このテントも、魔石で交換した、銀河文明の簡易式ではあるが十分に高機能なテントだ。見かけは4〜5人分の大きさだが、中身は10人ぐらいが楽に過ごせる広さがある。さすがにシャワーやトイレは付いてないが、俺たち全員で寛ぐには問題ない。
テントの中に落ち着くと、早速魔石を腕輪に吸収させる作業に入る。
誰がやっても良いのだが、俺の腕輪でやる事になった。
まず、ラプトル型。1個、1000ポイント!
アヅマと狩った子牛程のイノシシが100ポイントだった事を思えば、これは破格の数字だ。
続いて、ティラノ型。1個、3000ポイント!
オークよりも高い!
さすがに手強い相手が出て来るだけの事はある。
「これは、儲かるな」
「本当ね。これは、アレが買えるんじゃない?」
「アレ?」
「お風呂よ、お風呂」
「ああ、なるほど」
「折りたたみ式の簡易的なお風呂でも良いかと思ったけど、こんなに儲かるなら、アクリルとかのちゃんとしたのが買えるんじゃない?」
俺は腕輪でバスタブを検索してみた。
折りたたみ式だと、安いのが5000ポイントぐらいであるが、アクリル製や木製は10万ポイントぐらいになっている。
今日、試しに数時間やっただけで5000ポイント稼げた事を思えば、10万ポイントぐらい、簡単……か?
「ちょっと悩ましい数字だけど、狙ってみるのは良いかもな」
「タグマンには、お風呂はなかったの?」
清水さんが聞いてくる。
「うん。俺の知る限りは、なかったなぁ。宿屋にも、娼館にも……」
「娼館?」
竜ヶ原さんが、やけに平板な声を出した。なぜか、背筋が冷えた。
「大吉、娼館なんか行ったのか、やるなぁ」
アヅマがヤバい乗り方をして来る。
これは、マズい。なぜか、マズい事だけは分かった。
「いや、これは黙ってるつもりだったんだが……」
「へえー」
竜ヶ原さんが怖い。なぜだか、とても怖い。
「……浜部氏と橋元氏が、娼館に入り浸りになっちゃってさ」
ごめん。2人には、犠牲になってもらう。
「え、あのオッサンたちが?」
アヅマ、俺たちも十分にオッサンだぞ。
「ああ。だから、こっちに戻って来る前に、わざわざ娼館まで浜部氏に会いに行ったんだよ」
「わあ、信じられない、あのハゲ親父」
清水さんも、口が悪い。
「え、もしかして、帰って来なかったっていうのは、娼館に入り浸ってるから?」
「そう」
「高校生たちには、さすがに言えない話ね」
竜ヶ原さんの矛先が、明らかに浜部氏に向いた。
「じゃあ、もう帰って来なくていいね、あの人たちは」
「ははは……」
レオーネちゃん、俺はもう君に会えそうにないや。
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