古代遺跡ダンジョン
一日半かけて、俺たちはダンジョンに到着した。
俺たちの拠点から見ると、大きな岩山を挟んで反対側になっていて、知らなければなかなか到達出来そうにない場所だった。
ダンジョンの入り口周りには露店が立ち並び、ちょっとしたキャンプ地の様になっている。
俺はともかく、他のメンツは、こんな大人数の現地人を見るのは初めてだ。かなり物珍しそうにしている。
露店では、ダンジョンアタックに必要そうな物と、ダンジョンから出た物とが売られていた。
干し肉やビスケットが、ずいぶん高い値段で売られている。
森でイノシシとかを狩って、ここで調理して売れば、良い儲けになるかも知れない。実際、そうやって儲けている者も少なからずいる様に見える。
それより、高校生の鑑定持ちを連れて来て、露店で掘り出し物を見つけさせれば……。いかんいかん、今はダンジョンの探索だ。
他にもポーションの類や、予備の武器も売ってるし、ダンジョン産の物品の買い取りもやっている。
治療所もあれば、簡易な宿屋や食堂もある。
それらしい商売の女性の姿さえある。
ここは、小さな街になっている様だ。
と、いきなり知ってる顔を見つけた。
なんとまた、ガイアスだ。
相変わらずの薄汚れた革鎧姿だが、やけに機嫌の好さそうな調子でダンジョンから出て来た。
ヒラヒラと手を振ってみせると、ギョッとした表情に変わる。後ろのパーティ仲間に何か言ってから、俺の所に近づいて来る。
「悪い悪い、驚かす気はなかったんだ。ただ、こんなトコで見かけたものでさ」
「いや、構わん。ここに潜るのか?」
「ああ。その気だ。あんたたちは、上手く儲けた雰囲気だな」
「お、おぅ。ちょっと調子が良くてな」
ガイアスがニヤッと笑う。
「それは良かった。で、そんなベテランから見て、俺たち駆け出しに助言出来る様な事ってあるか?」
「そうだな。……金属人形のいる部屋の話は知っているか?」
「金属人形?いや、聞いた事ないな」
「たまに、昨日まで何もなかった場所に出来る部屋があってな」
「ほうほう」
「そんな中に金属の人形がいたら、絶対に部屋に入ろうとするな」
「なんでだ?」
「奴ら、異常に強い。もう挑戦するとかいうレベルにないぐらいに強い。必ず、命を落とす」
「そんなにか?」
「これまで、仕掛けた腕自慢が何人もいるが、1人も助からなかった」
「うわぁ……」
「始末が悪いのは、奴らのいる部屋には、明らかにお宝と分かる物があるって事だ」
「金塊みたいな?」
「そういうのもある。魔剣の類とか、鎧とかもある。でも、どんなお宝が見えても、絶対に手を出すな」
「うう、分かった。ありがとう。知らなきゃ、絶対に手を出してたよ」
「いくら、あんたらが腕に自信があろうと、あれは無理だ。じゃあな、確かに忠告したぞ」
「ああ、あんたたちも気をつけてな」
ガイアスはそう言うと、手も振らずに去って行った。
まさかガイアスからまともな助言が聞けるとは思わなかったが、それは周囲の冒険者たちも同じ様で、「おい、ガイアスが助言してたぞ。誰だ、あいつら」って声がいくつも聞こえた。
「大吉さん、いつの間にあの男を手懐けたのよ?」
竜ヶ原さんも驚いていた。
「タグマンでもちょっと顔を合わせてな、銀貨一枚奢ってやったんだけど……」
「そんなもので、あんなに素直になるの?」
「ねえ……」
でも、良い話が聞けた。
突然現れる部屋なんて、ウルスの話にもなかった。かなりレアなケースなのだろう。知らなきゃ、絶対に引っかかる。
「じゃ、今の話も踏まえて、ちょっと潜ってみるか?」
「ああ」と、嬉しそうにアヅマ。
CAさんたちも、やる気十分だ。
石組みの門をくぐると、いきなり空気が変わった。森の中の湿度の高い空気が、急に乾いた古臭い匂いのする物に入れ替わったのだ。
「これは……」
後ろを振り返ると、確かに外の光景は見えるが、どこか薄皮一枚をかました様な非現実感をまとっている。
「……面白い!」
中も石組みの床に石組みの柱が並んでいて、多くの冒険者が行き交っている。数人がかりで魔物と戦っているパーティも見える。
「外から見た印象より、広いわね」
「私たちのテントと同じで空間拡張されてるんじゃない?」
清水さんと竜ヶ原さんの言葉の通り、中はずいぶん広かった。
「マップは平気か?」
腕輪の通販システムで見つけたオートマッピング機能を、回復役の宮島さんの腕輪にダウンロードしたのだ。
「今のところ、大丈夫です」
「よし、進もう」
今回、マッピング機能を初めてダウンロードしたが、腕輪には色んな機能が追加出来るらしい。それこそ、スマホの様にだ。もちろん、通話機能もある様だ。これからバンバン魔石を取って、バンバン便利な機能を追加せねばならない。
「前から、何か来るわ。初めての気配」
清水さんの声に、アヅマがスッと前に出る。
姿を現したのは、人間大の青黒い肌の恐竜───ラプトル型の魔物だ。先程、他のパーティが戦っていた魔物である。
「まず、タメでやらせてくれ」
アヅマが物騒な事を言い出すが、相手の強さを見るには、その方が分かりやすいのも確かだ。
「無理するなよ」
「おう!」
身体に光を纏うと、アヅマがスルスルと前に出る。
ラプトルが鋭い爪のついた腕を振るう。
アヅマは、その攻撃を正面から受けた。プロレスラーのせい?相手の力を図る為だよな?
ラプトルの攻撃は、アヅマの防護膜を破れなかった様だ。
爪を弾いた途端、アヅマがラプトルの頭を掴み、強引に投げた。背中から石畳に叩きつけられるラプトル。
「ぎゃうん!」
その喉元に、アヅマの足が踏み降ろされる。
ボキリッ!
不快な音とともに砕けるラプトルの頸骨。いや、そんな簡単に?
ラプトルの身体は黒い粒子となり、消え去った。
残ったのは、青黒い魔石とラプトルの爪が数本。
そう。ダンジョンの魔物は、倒すと消えてしまうのである。解体をしなくて良いのは助かるが、肉が当たり前に手に入らないので、補給が難しいのだ。
まあ、俺たちは魔石さえ手に入るなら、食べ物は通販で手に入れられるから、補給の心配はない訳だけど。
「アヅマ、大丈夫か?」
「ああ、この程度ならタメでも何とかなるな」
「お前、新しい敵を見つける度にタイマンする気じゃなかろうな?」
「……」
「おい、こっち見ろ」
「ねえ、あれ……」
不意に、防御魔法使いの多摩さんが緊張した声を上げる。
その指差す方向には、石組みの壁にぽっかり開いた部屋があった。
「うそっ、さっきまであんな部屋なかったわよ」
索敵役の清水さんが狼狽える。
十何畳かの広さの部屋の中には、口の開いた宝箱が置かれていて、中には金貨や宝石が詰まっていた。
そして、そのそばに立っているのは、女性を模した金属の人形が3体。
「これか、ガイアスの言ってたのは。いきなり、出くわすとはな」
まさか、俺たちの存在の異質さが、ダンジョンの防衛機構に反応したとか言うまいな。
「おかしい。さっきまで周りにいた冒険者が一人もいなくなってる」
「ファンタジーを通り越して、オカルトかよ」
「ね、ねえ、手を出さないわよね?」
竜ヶ原さんが、いきなり俺の目をのぞき込んで来る。
「出さん!出さんが……このまま帰るのもな」
「ダメよ!手を出しちゃダメ!!」
「清水さん、あのカエルで試すって出来る?」
「え、ゲコ太に?」
「名前付けちゃったかー。じゃ、やめとくか。絶対助からないって話だし」
「いえ、ゲコ太なら、やられても時間を置けば復活出来るから」
「無理に宝石を取れっていうんじゃなく、あの人形の強さが見たい」
そうしないと、タイマン特攻しそうなバカがいるし。
清水さんも何かを察したのか、チラッとアヅマを見る。
「分かった。偵察だけね」
俺たちはもう少し距離を取ってから、清水さんのカエル───ゲコ太を送り出した。
体長50センチのアマガエルが、ピョンピョン跳んで行く。
人形たちは、反応しない。
しかし、ゲコ太が部屋の境を越えた瞬間、ヒュン!という音だけが聞こえた。
次の瞬間、ゲコ太の身体はズタズタになり、部屋から蹴り出されていた。
「ゲ、ゲコちゃん!!」
清水さんが悲痛な声を上げる。
ゲコ太は一瞬にして白い粒子と化して、姿を消した。
まさに瞬殺。
「今の、見えたか?」
「いえ、全然」
「アヅマは?」
「あいつらの両手が刃物になって、ゲコ太を切り刻んだ」
「すげえな、見えたのか。で、まさかやる気はないだろうな?」
「ああ、さすがに無理だ。殺される未来しか見えねぇ」
「清水さん、ゲコ太はゴメンな」
「……いえ、お役に立てたなら、良かったわ」
そう言う清水さんの頬が白い。ホントに、ごめん。
「じゃ、ここは離れて、普通に魔石を取ろうぜ」
「お、おう」
「はい」
俺たちは、そそくさと金属人形のいる部屋から離れた。すると、すぐに他の冒険者も姿を現し、例の部屋は清水さんの索敵に引っかからなくなった。
「今回は、ガイアスに助けられたな」
俺はガイアスという男を少しだけ見直し、このダンジョンが一筋縄ではいかない所だと痛感するのであった。
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