拠点にて
拠点に戻ったら、ウルフに出迎えられた。
ウルフである。魔物である。
それが2頭、拠点の中にいたのだ。
俺たちが拠点に帰り着くと、この2頭が真っ先に走って来て、尻尾を振りながら出迎えてくれたのだ。
そう。高校生の1人にテイミング能力を持った女の子がいて、飼い慣らしたらしい。番犬代わりという話だが、初対面の俺たちに尻尾を振っている様では、番犬の役目を果たせていない。しかし、いざという時の戦力が増えるのは、望ましい話である。
ちなみに、シルバーとブラックという名前らしい。
確かに1頭は銀色の毛並みで、もう1頭は黒色の毛並みだ。
ガシガシと首筋を撫でてやると、いっそう激しく尻尾を振ってくれた。
今度は、ユキヒョウとかをテイミングしてもらいたい。俺は犬も好きだが、どちらかと言えば猫派なのだ。
シルバーとブラックの次に出迎えてくれたのは、清水さんと竜ヶ原さんである。
「お帰りなさい。ずいぶんな荷物だけど、何か買って来てくれたの?あ、ウルスさんたちもいらっしゃい」
「適当に服やら食料やら買って来ましたよ」
「そう言えば、服が変わったわね。間久部くんは似合ってるわよ」
「俺は?」
「まあまあね」
「……」
人間関係には、忖度ってやっぱり必要だと思う。
俺が清水さんにやり込められて落ち込んでいると、珍しく竜ヶ原さんがフォローしてくれた。
「大吉さんも……似合ってるわよ」
「ありがとう!お世辞でも嬉しいよ!」
「え、お世辞じゃないのに」
俺はちょっとだけ復活して、お土産を広げ始めた。間久部や芦屋くん、青山くんも背負っていたお土産を広げ始める。
「お土産を配るぞー!取り合いはするなよー!」
服は、次に街に向かう者が着れる様に、別にしてある。配るのは、食べ物や玩具なんか、嗜好品の類だ。まだまだ皆は、腕輪の通販システムでも必需品をそろえるのが手一杯で、嗜好品を買えていないと考えたからだが、どうやら大当たりだったらしい。
ちょっと甘めのお菓子なんか、高校生の女の子を中心に真っ先に持って行かれてしまった。
辛めの酒のつまみも、意外と高校生受けが良かった。
「あいつら、魔石に余裕が出て来たら、酒ばかり買うんじゃなかろうな」
「高校生が飲むのは、禁止にしますか?」と、間久部。
「うーむ。その辺は、俺たちがとやかく言いたくないな。高校生たちで上手くやってくれると嬉しいんだが」
「ですね。街じゃ、14才ぐらいからアルコール解禁でしたしね」
「え、そうなの?」
文化の違いと驚くと同時に、間久部の情報収集能力に驚いてしまう俺。
「お前、前職は諜報機関か何か?」
「いえ、ただの営業職ですよ」
「営業成績、良かったんだろうなあ」
「そこそこでしたよ」
「そこで、そこそこなんて言える奴は、あんまりいないよ」
なんて話をしていたら、だいたいお土産ははけてしまった。
「それより、竜ヶ原さんに、ちゃんと渡すんですよ?」
「え?ああ、やっぱりか?」
「当たり前です!ちゃんと、君の為に選んだとか言うんですからね!」
「お前、それは難易度高いぞ」
「さ、早く!」
「……」
清水さんと話をしてる竜ヶ原さんに目を向ける。
スラリとした美人さんだ。
背中の真ん中辺りまで伸ばされたストレートの黒髪は艶々としていて、肌は白くて透明感抜群。ちょっとふっくらとした唇は紅く、切れ長の大きな目が……。って、今更ながら、凄い美人だな。
俺が変に見つめるものだから、竜ヶ原さんが気づいて寄って来てしまった。
「どうしたの?何か用?」
視界の端っこで、間久部がニヤつきながら離れて行くのが見える。
「いや、えーと、その……な」
とりあえず、ポケットからブローチを取り出す。
「?」
「……竜ヶ原さんに似合いそうな気がして、さ」
「え?」
「ブローチ……」
俺は竜ヶ原さんの細くて柔らかな手を取ると、その手のひらにブローチを置いた。
「え、え?」
竜ヶ原さんが呆ける。そりゃ、いきなりこんなオッサンからブローチをプレゼントされたら、そうなるだろう。
「イヤならしょうがないけどさ……」
「ううん、イヤじゃない!」
「ホントに?」
「嬉しい!ありがとう!」
にっこりと笑う竜ヶ原さん。
美人のとびっきりの笑顔は、インパクト極大だ。なんか、グラッときた。
竜ヶ原さんは胸の辺りにブローチを着けてくれた。
「どう?」
「に、似合う。美人は何でも似合う」
「もうっ!」
竜ヶ原さんがデレた。あの、いつも怖い目を俺に向けていた竜ヶ原さんが。
間久部、恐るべし。さすが、敏腕営業マンだ。
竜ヶ原さんはスキップを踏む様に、清水さんのところへ帰って行った。
早速、清水さんにブローチの報告をしているのが見える。清水さんが優しげな目をこちらに向ける。
どうやら、保護者様の心象も良くなったらしい。
よし。ミッション・クリアだ。
後はダンジョンの……。そうだ、ダンジョンの話をしないと。
夕方になってアヅマや榊原も狩りから帰って来たので、夕食を囲みながら、ダンジョンの話を持ち出した。
「ああ、古代の遺跡だな。俺たちも何回か行った事があるぜ」
すると、ウルスが情報を提供してくれた。
「あそこじゃ、同じゴブリンを倒しても、外より良質な魔石を落としてくれるんだ。ゴブリン程度じゃ、あまり値段は変わらないけどな、大きな獲物の魔石ほど値段が違って来るぜ」
「じゃ、けっこう競争率も高いんじゃないのか?」
「浅い階層は、そうだな。けっこうな数のパーティがいる。でも、ちょっと深い階層になったら、ほとんど競争相手はいなくなる」
「どうしてだ?」
「補給の問題だ。水は魔法で出すとしても、食い物は街から持って行かないとならないからな、そう何日も潜ってられないんだよ」
「なるほど」
頷いてみせながら、俺は腕輪の通販システムを使えば、補給の心配はなくなる事に気がついていた。これは、中の魔物さえ倒せるなら、本当に俺たち向けの案件だ。
「とりあえず、試しに潜ってみたい。アヅマ、頼めるか?」
「大吉は?」
「俺はもう一度街に戻らないと……」
「街は、俺が行きますよ」と、また良いところで間久部が言う。
「俺は戦うより、商売の方が向いてますからね。大吉さんは、ダンジョンに行って下さいよ」
「そうか?すまん。じゃ、タグマンの事は頼んだ。一応、浜部氏が無事かどうかも確認しといてくれ」
「ええ、もちろんですよ」
「じゃ、他に誰がダンジョンに行くかだが」
「はーい」
清水さんと竜ヶ原さんが手を上げる。
「索敵役と魔法アタッカーは必要でしょ?」
「あとは、手堅く回復役と防御魔法を入れるか」
「じゃ、宮島と多摩ね。坂下は、タグマン行きに回すわ」
宮島さんは回復魔法、多摩さんは防御魔法使いだ。坂下さんは、バッファーだった筈。
ここに物理アタッカー兼盾役のアヅマと、器用貧乏な俺が入って、6人編成となる。とりあえず様子見だし、これで良いだろう。
タグマンへ向かうのは、間久部と坂下さん、数人のCAさんと高校生となる。高校生の中には志堂くんたちがいる。
女性が多いし、高校生たちも混じってるし、本当なら俺が付いて行きたいし、アヅマあたりも同行させたいぐらいだが、護衛役のウルスたちが心配するなと言うし、間久部も平気そうだし、ここは信用するとしよう。
今回は、食器や手鏡なんかを持ち込む予定だ。タグマンにも鏡はあるにはあった(娼館とかにね)が、歪みや曇りが酷い物だった。歪みも曇りもない鏡は、良い売り物になるだろう。イゼール氏も、喜んでくれるに違いない。
翌朝、ダンジョンに向かう俺たちと、タグマンに向かう間久部たちは、拠点の前で二手に分かれて出発した。
読んでいただいて、ありがとうございます。
こんなお話でも面白いと思って下さったら、『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にしてポイントを入れてもらえたら嬉しいです。




