帰還に向けて
タグマンでは各家庭に調理の施設があまり置かれておらず、朝からも食堂や屋台が多く開いていた。
「火事の対策らしいですよ」
そんな食堂の一つに陣取り、俺は間久部の説明を聞いていた。この男は、俺と同じだけ女の子といた筈なのに、俺の何倍も情報を仕入れて来たらしい。女の子の口を軽くする能力も持っているのか?
「それで面白い事を聞いたんですけどね。帰らずの森に、ダンジョンがあるって話で……」
「ダンジョンって、ますますファンタジー色が強くなるな」
「出だしはSFでしたけどね、今やすっかりファンタジーですね」
「SFの名残りは、こいつだけだな」
俺は左腕の腕輪を指差して笑う。
「で、ダンジョンなんですけど、女の子は古代の遺跡って言ってましたけど、中の魔物を倒してたら、魔導具や良い魔石が手に入るらしくて」
「ほう、魔導具がどんな物かは分からんが、良い魔石は欲しいな」
「けっこうな数が手に入るみたいですよ。ただ、ダンジョンは帰らずの森より、一段階敵が手強くなるそうですけど」
「パーティメンバーを厳選すれば、なんとかなるかな」
「ですね。ついでに、装備もちゃんとしたのにした方が良いと思います」
「そうだな。やっとまともな剣を買った程度じゃ、まだ早いな」
その日は狩りにも行かずに宿屋でのんびりしていると、イゼール氏が訪ねて来た。
ニコニコしている。
「ダイキチさん、マクベさん、今回はありがとうございました!」
「どうしました、イゼールさん、何か良い事がありましたか?」
「あの酒とガラスコップを領主様に献上したら、たいそうな喜ばれ様で、良い品があればいつでも顔を出して良いと言われましてね」
「おお、それは凄い」
「これも、ダイキチさんやマクベさんのお陰です。いやぁ、私も実は商売の才能がないんじゃないかと思いかけていたんですが、あなたたちの噂を聞いて、すぐに足を向けたのは大成功でした」
「そうですね。正直俺も、あんなに早く商人が来るとは思ってませんでしたよ」
「でしょう、でしょう。私にも、ちゃんと商売の才能があった!今回の事で確信出来ました」
よほど領主の反応が良かったのだろう。放っておいたら、イゼール氏の自画自賛は止まりそうになかった。
「それで、新しい売り物を持って来る為にも、一度森に帰ろうと思いましてね」
俺が切り出すと、イゼール氏が身を乗り出す。
「また、何かを売っていただけるのですか!?」
「ええ、俺たちも死蔵しててもしょうがない物がありますのでね。お金に変えられるなら、その方が良いし」
「では、ウルスたちを護衛に依頼しましょう」
「え?そこまでしていただかなくても……」
「いえいえ、大事な貴方がたの身に何かあれば一大事だ。ぜひ、ウルスたちを付けましょう」
「どうする?」
俺は間久部に問う。
「今度来る時は女性陣も入れないといけないでしょうし、ウルスさんたちがいれば安心出来るんじゃないですか?」
「そうです、そうです。ウルスたちは、森に向かうだけでなく、こちらに戻って来る時の護衛にもなります!」
もうイゼール氏は、今ならどんな頼み事も聞いてくれそうな勢いだった。
「では、拠点に戻るのに、それなりにお土産を買って帰りたくてですね、お金はありますから、色々と相談にだけ乗ってもらえますか?」
「もちろん構いませんよ。綺麗な女性方も多かったですからね、服やら宝石やら、何でも用意しますよ!」
そういう訳で、俺たちは急遽拠点に戻る事になった。
ウルスのパーティの都合もあり、出発は3日後。
宿屋に戻って来た芦屋くんと青山くんに話を聞けば、2人とも浜部氏からは解放されたらしく、一緒に帰るという話だった。拠点で魔石を集め、腕輪の通販システムで売れる物を買ってから、また街に戻る気らしい。まあ、俺たちと同じ方向性だ。
「浜部さんたちは帰らないと思いますよ」
「だろうなぁ。でも、一応確認だけはしてやらないとな……」
砂糖や胡椒なら、かなり効率良く換金出来るだろうが、狩りもせずにいつまで豪遊していられるのやら。俺が心配する話でもないが。なんせ、相手はいいトシした元教頭先生なのだから。
その夜、『神々の寝床亭』まで行って浜部氏に面会すると、案の定帰らないとの返事だった。
「では、浜部さんたちは、引き続き街での情報収集をお願いしますね」
俺たちは縁を切るのでもなく見捨てる訳でもないと、適当なお役目をお願いすると、浜部氏は自信満々に頷いた。
「任せ給え。こういう微妙な調整が必要な仕事は、我々年長者に向いておると決まっているからな!」
2杯ばかり高級酒を飲まされて、俺は店を出た。
なんか、そのうちお金をせびられる未来が見えている気がするなぁ。
橋元氏だけでも、狩りはしないのかなぁ。怪力とか持ってる筈だから、いざとなれば、ちゃんとやるかな……?
やって欲しいなぁ。
翌日は、イゼール氏の店で色々と売り込まれた。
女性物の服。靴。サイズは、適当に何種類ずつか用意した。誰が着れるかは、お慰みだ。
そして、森では手に入らない食料と調味料。
剣も少々。荷物としては意外とかさばるし、重い。それに、通販システムでもっといいのが買える筈なので、数は少なくて良い。
「大吉さんは、竜ヶ原さんに何か買ってあげて下さいね」
間久部が突然、変な事を言い出す。
「え、なんで?」
「これだから……」
「へ?」
「ちょっとした物でいいんですよ。それで、上手くいくんですから」
「意味が分からんのだが?」
「意味が分からなくても、買うんです!」
間久部の変な圧力に負け、俺はブローチを一つ買った。安物ではない。何かの宝石で造られた花の形をした小さなブローチだ。
竜ヶ原さんの綺麗なたたずまいに似合いそうなデザインである。
なぜか、間久部も満足そうだ。解せん。
そして、拠点に戻る当日。
イゼール氏まで、わざわざ見送りに来てくれた。
浜部氏は来ていない。これは、それで良い。
ウルスたちも割の良い仕事だと喜んでいる様だ。イゼール氏が奮発してくれたのか。
「じゃあ、また近いうちに戻って来ますよ」
俺ばかりが街に向かうと反感を招きそうだが、あと一回は俺が来る気だった。街の事が分かっている人間は必要だからな。
拠点に戻ったら、CAさんたちも高校生組も、次のタグマン行きに参加したがるだろう。その辺の調整が一番大変だ。清水さんあたりがピシッと決めてくれるとありがたいんだけど。
それと、ダンジョンの調査がある。
ダンジョンアタックはまだでも、場所ぐらいは把握しておきたい。ガイアスの地図に、それらしき場所があったかな?
そして一番の難題は、竜ヶ原さんにブローチを渡す事だ。
なんで、俺がそんな事をしなきゃいけないんだ?
文字通り、竜の首に首輪を着けるって意味なのか?ブローチごときで?
解せん。
間久部は理由を話そうとしない。
うーむ。誰か助けてくれよ。
読んでいただいて、ありがとうございます。
こんなお話でも面白いと思って下さったら、『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にしてポイントを入れてもらえたら嬉しいです。




