情報収集です
翌日は、朝から情報収集である。
調べる事は、魔石の相場と帰らずの森についてだ。
魔石は、腕輪での通販システムに欠かせない物である。が、冒険者ギルドでも取り引きのメイン的存在らしい。もし、ギルドで売買した方がお得ならば、魔石を部分的にギルドに流すという選択が出て来る。
腕輪の通販システムで手に入る物は完全には捨てられないが、食べ物や衣服なんかは現地の物に置き換えても良いだろう。
そして、俺たちの拠点がある帰らずの森であるが、この先も住み続けるか、引き払うかの判断の為にも、外の意見が欲しかったのだ。
が、帰らずの森なんて名前が付けられるぐらいに、外からはヤバい場所と見られているらしい。
イゼール氏が商売にやって来たのは、実はかなり追い込まれていたのかも知れない。
そういう意味では、ガイアスのパーティも、借金か何かで尻に火が着いていたのかもと思えて来る。
イゼール氏は勝負に勝ち、ガイアスたちは負けたって訳かな。
そんなこんなで、俺と間久部はタグマンの近場で狩りを行っていた。
街の近くではゴブリン程度しか狩れないという話だが、それでどれぐらい儲かるのかが知りたいのだ。
俺も間久部も、腰にはゴブリン剣ではなくちゃんと店売りの剣を吊っている。狩りに出る前に買ったのだ。おっさんながら、剣を買う時には心が躍ったよ。間久部も、ちょっと嬉しそうだった。
「この先に、ゴブリンらしい集団がいますね。数は、……7体」
「了解。ジャベリンを連発してから、斬り込むわ」
「1〜2体はもらいます」
「分かった」
慎重に進んで行くと……いた、確かに7体。
他に冒険者は、いない。
3発のファイヤージャベリンを起動。
ゴブリンに気づかれないうちに発射。
3体のゴブリンが胸を貫かれて、地に没んだ。おお、コントロール、良くなってる。
残り4体。
更にもう1発ファイヤージャベリンを撃ち、俺は走り出した。
最後のジャベリンは狙いを外したが、躍り込み様に振った剣が、ゴブリンを袈裟斬りにする。更に横に振った剣が、ゴブリンの首の動脈を断つ。
残り2体。
振り向けば、間久部の剣が2体目の胸に突き刺さるところだった。
それでも油断はせずに辺りを見回す。
新しい敵も出て来ず、倒した連中が動き出す気配もない。よし、大丈夫だ。
「俺が魔石を取る。見張りを頼む」
「分かりました」
「しかし、戦闘系の能力もないのに、間久部は強いな」
「学生時代は剣道部でした」
「意外と暑苦しい」
「ええ、暑くて、臭くて、大変でした」
ゴブリンの死骸は、そのまま放置。
まだゴブリンを自力で倒せない連中が、有効活用してくれるらしい。何をどう活用するのかは知らないし、正直知りたくもない。ただ、放置した方が良いとだけ聞いている。
魔石を取ると、俺たちは次の獲物を狙いに歩き出した。
「お、イノシシっぽいのがいますよ?」
「間久部、今日は魔石の相場を見たいだけだから、肉とかは要らない……で良いか?」
「良いですよ、今日ぐらい。索敵に、さっきのゴブリンに群がる小さい影が見えてますからね」
なるほど。間久部の方が、より子どもたちを感じていたか。
「じゃ、イノシシをプレゼントしよう」
「大吉さん、優しいですねー」
「偽善だよ。気が向いた時に、気が向いた相手にしか優しくなれんからな」
「竜ヶ原さんに良い報告が出来ますよ」
「おまっ、まさかスパイか!?」
「スパイって程じゃないですけどね、面白い話があったら聞かせてって言われてるんで」
「おいおい、時と場合によっちゃあ、お前さんには優しく出来なくなるぞ?」
「大丈夫ですよ。言って良い事と悪い事の区別ぐらいはつきますから」
「本当だろうな?」
しかし、間久部を手懐けるとは、竜ヶ原さん恐るべし。
ファイヤージャベリン3発でイノシシを倒し、魔石だけを抜き取る。
「アヅマと狩ったイノシシはもっと大きかったが、それで100ポイントにしかならなかったんだよな」
「ゴブリンのポイントと合わせて紙皿や水を買って、終わったんでしたっけ?」
「ああ、果たして、こいつがいくらになるかだな」
そこからしばらくうろついたが、もう何も取れなかったので、引き返す事にした。
「これは、イノシシの魔石ですね。銀貨1枚になりますね」
「ゴブリンは?」
「ゴブリンの魔石は、1個で小銅貨ですね」
「ふむふむ、そんなものか」
日本人の感覚で言えば、大まかに銀貨1枚で一万円、銅貨1枚で千円、小銅貨で百円てとこだ。
「これで一万円なら、ギルドで売る方が得な感じだな」
「そうですね。一万円あったら、水や紙皿だけで終わらなかったですね」
「あ、あと、帰らずの森について聞きたいんだけどさ」
「あそこは木級の人には早すぎますよ」
「いや、そうかも知れないけど、興味があってさ」
「はいはい。後ろが立て込んでますから、さっさとはけて下さいね」
受け付けの美人さんに、すげなく追い返されてしまった。
「とりあえず、あそこが初級者向けじゃない事は分かった」
「ガイアスやウルスさんは、何級だったんでしょうね?」
「そんな事聞かなかったなぁ」
「じゃあ、浜部氏に倣って、歓楽街での情報収集に向かいますか」
「お前、竜ヶ原さんに言わないだろうな?」
「言いませんから、信用して下さいよ」
「なんか、信用し切れんな……」
前の夜に仕入れた情報で、最も格式が高いと評判だった『神々の寝床亭』。
1階は、綺麗どころを相手に高級酒を飲めるお店。
2階より上は、仲良くなった女性と更に仲良くなれる寝室になっている。
そして、その1階で何人もの女性を侍らせて飲んでいるのが、浜部氏と橋元氏だった。
「やあ、君たちも情報収集かね?」
橋元氏はともかく、浜部氏はかなり良い調子である。
「そんなに酔っ払って、大丈夫ですか?」
「なに。こういう場所で気取ってもしょうがない。腹を割った姿を見せてこそ、互いの信頼が得られるというもの。君たちも見習いたまえ」
「へへぇー。ありがたいお言葉」
俺たちは浜部氏から離れた席で2〜3杯飲むと、その店を出た。浜部氏が幅を利かせる店では、ちょっと楽しむ気にはなれなかったのだ。
「別の店にしよう」
「あ、あそこも評判は悪くなかったですよ」
『不死鳥の夢亭』。
「浜部氏がいなかったら、そこでいい」
恐る恐る覗いたが、店内に浜部氏はいなかった。そりゃそうだ。俺たちは安心して酒を頼み、仲良くなった女性と寝室に入った。
彼女はキツネの獣人でレオーネと名乗った。
「俺たちの故郷には獣人がいなくてさ、気を悪くしたら謝るけど、オオカミの獣人てのは、また君たちとは違うのか?襲われた事があるんだけど」
「オオカミの獣人て言うか、ワーウルフの事でしょ。あれは、見た目は獣人だけど完全に魔物よ」
「魔物じゃないオオカミの獣人も、いる?」
「いないわ。犬の獣人はいるけどね」
「そうか。じゃ、森の中でオオカミ獣人に会ったら、敵と見做していいんだな」
「でも、ワーウルフと取り引きしてる商人もいるらしいわよ」
「えー、難しいな」
「帰らずの森の話なんでしょうけど、そんな場所に出入りしなきゃいいのよ。命がいくつあったって、足りやしないんだから」
「知り合いに、帰って来なかった奴がいるのか?」
「ええ、何人もね」
「そうか。悪い事を思い出させたな。もっと飲もうぜ」
「私に飲ませ出したら、朝までかかるわよ」
「構わん、構わん。好きなだけ飲めばいい」
「あら、優しいじゃない」
レオーネは、本当に朝まで飲み続けた。
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