タグマン
タグマンに入ると、俺たちはイゼール氏の店の近くの宿屋に直行した。
居酒屋と宿が一体になった仕様だ。一階が居酒屋で、二階が客室になっている。俺たちは2人ずつに分かれ、部屋に入った。俺は間久部と同室だ。
「ふぅ、着いたな」
「ですね。不思議と、異星の街って感じがしませんね」
「ああ、外国になら普通にありそうな街だ」
俺たちの懐には、酒とガラスコップを売ったおかげで少なくないお金があったが、その日はイゼール氏が歓迎会を開いてくれるというので、夕刻までおとなしく過ごした。
夕刻になるとイゼール氏の使いが迎えに来たので、近くの店まで付いて行く。宿の居酒屋ではなく、飲食専門の店でもてなしてくれるらしい。
「ようこそ、いらっしゃいました」
イゼール氏は先に席に着いていて、にこやかに俺たちを迎えてくれた。
「この様な立派な店で、ありがとうございます」
浜部氏が進み出る。イゼール氏への対応は、完全に浜部氏任せだ。
俺たちが席に着くと、酒はもちろん、肉と野菜を炒めたものに、スープや果実の取り合わせ等、多彩な料理が運ばれて来た。お金はかかってそうだが、それだけ俺たちから買った物が高値で売れそうだと踏んでいるのだろう。
「実は、砂糖と胡椒を商業ギルドに持ち込んだところ、予想以上に高値が付きましてね」
砂糖と胡椒は、浜部氏たちが売った物だ。こういう時に出て来る定番の品物だ。芦屋くんか青山くんの発想だろう。
「それと、酒とガラスコップの方は、この街の領主様に持ち込もうと思います」
そう言うイゼール氏は、にこにこ顔だ。こちらも、悪い気はしない。
「喜んでもらえて良かったですな。今度は、また良い品を考えておきますよ」
「おぉ、まだ何か売って下さいますか。それは楽しみだ」
浜部氏も機嫌が良い。来たがっていた街に無事に着けて、更にこうして歓迎してもらえているんだから、尚のことだろう。
と、そこへ1人の男が近づいて来た。
やけに高級そうな服を着た、押し出しの強そうなおっさんだ。
「やあ、イゼールさん、良い調子の様ですな。今日は、ギルドに珍しい品を卸したと聞きましたが」
「ああ、これはブルーダさん、いえいえ、大した物ではありませんよ」
「上質な砂糖と胡椒と聞きましたぞ。その様な物を、あなた程度の商人がどこから……?」
そう言って、ぎょろりと俺たちに目を走らせる。
「ずいぶん変わった意匠の服を着ておいでの人たちだ。まさか、彼らからですか?」
「ブルーダさん、大事な商売のネタを簡単に明かす筈がないじゃないですか。それに、彼らは私の客人です。失礼な態度は取らないでもらいたいですね」
「ほほぅ、ちょっと見ない間に、大きな態度を取られる様になりましたな。怖い怖い」
そう言って、ブルーダ氏は引き上げて行った。
「もう、情報が出回っているんですね。急に商う物が変わって、叩かれたりしませんか?」
俺が心配すると、イゼール氏は余裕そうに笑った。
「その為に、酒とガラスコップを領主様に持ち込むのですよ。最悪、最初は献上になってしまっても構いません。ここで領主様の後ろ盾がもらえれば、ブルーダさんも何も言えなくなりますからね」
「なるほど。ちゃんと考えていらっしゃる」
「ですから、また領主様に気に入ってもらえる様な物を売っていただけると、ありがたいですね」
「分かりました。考えておきます」
「それはそうと……」
浜部氏がちょっといそいそとしながら、イゼール氏に話を向ける。
「この街には、夜にお盛んになる様な店が集まった場所はありますかな?」
「え?ええ、賭博や女を置いた店が集まる一帯もありますが、少し治安は悪くなりますよ?」
「いやいや、我々としては、この街の情報収集の為に、そういう場所も覗いておきたいと思いましてな……」
はは。始まったぜと思いながら、俺は間久部と苦笑を交わした。
翌日、ちょっと寝坊をした俺と間久部は、まず服を買いに出た。
昨夜のブルーダ氏の反応からも、自分たちの服が目立っているのが気になっていたのだ。それに、狩りの最中も着ていたせいで、2人ともスーツが大分よれてしまっている。
イゼール氏から聞いていた服屋に着くと、ドワーフなのだろうか、背が低く、がっしりした体型の爺さんと、明るい雰囲気の女の子が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ〜」
「この街で違和感のない服が欲しいんだ。良かったら、見繕ってもらえるかな?」
「あらあら、2人とも変わった服をお召しで。まあ、ずいぶん縫製もしっかりしてる」
女の子が驚いていると、ドワーフらしい店主も出て来て、俺たちのスーツを触っては唸り始める。
俺はスーツの上着を脱ぐと、「好きに見て良いから」と店主に押し付けた。
「お前さん、この服、売る気はないか?」
「かなりボロボロになってるが、売り物になるのか?」
「こいつ自体は売れないが、この服に詰まった技術は売り物になる。それに、デザインも面白い」
どうせ、もうスーツを着る事もないだろう。持っていても荷物になるだけだし、お金になるならありがたい。俺と間久部は着ていたスーツと靴を売り、その代わりに上から下まで着る物一式を手に入れた。
なお、下着も奪われそうになったが、銀河文明製の高機能ボクサーパンツだったので、さすがに売るのは控えた。
そして、間久部は現地の服がやけに似合った。女の子が頬を赤らめた程である。面白くない。
次に俺たちが向かったのは、冒険者ギルドである。
ウルスから話を聞いて、冒険者登録をしていれば、何かと融通が効くと思ったのだ。それに、同じ魔石が冒険者ギルドで売れば、どれぐらいの価値になるのか興味もあった。腕輪の通販システムだけでは、ボッタクられてても判別がつかないからね。
ギルドの買い取り価格によっては、通販システムでのやり取りが減ってしまうかも知れない。
スイングドアを開いて入ると、西部劇で見る銀行の様な窓口がいくつか並んだホールがあり、その奥に飲食スペースがあった。
西部劇の銀行は、鉄格子で仕切られた向こう側に職員が座っていて、鉄格子の下に開いた小窓から現金や書類をやり取りする形になっている。冒険者ギルドの窓口も、まさにその形だった。ただし、鉄格子の向こうに座っているのは、魅力的な美女ばかりだったりする。お預け感がひどい。
俺たちは冒険者登録を済ませると、木製のタグをもらった。木級冒険者って事らしい。イゼールが身元引受人になってくれたので、登録はスムーズだった。まあ、何だって良い。
それより俺は、飲食スペースの方に見知った顔を見つけて、そっちが気になっていた。
「よぉ」
俺が声をかけると、酒を飲んでいたガイアスの身体が、ビクリと跳ねた。俺の服が変わっていたので、気づいてなかったらしい。
「あ、あんた、ダイキチか……」
「早速、俺たちの事しゃべってくれたみたいだなぁ」
「い、いや、ち、違うんだ……」
「もう、俺たちの所へ押しかけて来た奴がいるぜ?どうしてくれるんだ?」
「あー、だ、だから、そんなつもりじゃ……」
「まあ、いい。もう過ぎた事だ。それより、これから俺の仲間がここに出入りするようになる。変なちょっかいかけないように仲間に言っておけよ」
「も、もちろんだ」
「頼むぜ」
俺はニヤリと笑ってみせると、ガイアスの前に銀貨を一枚置いた。
「こ、これは?」
「酒代の足しにでもしろよ。……じゃあな」
俺は間久部を促してギルドを出た。
「誰です?」
「あれが、ガイアスだよ」
「なるほど。覚えときます。で、これからどうします?」
「どこかの居酒屋で、酒を飲みながら情報収集しようぜ」
「とりあえず酒ですか?」
「女は、また明日かな。今夜で良い店の情報を集めよう」
「竜ヶ原さんは大丈夫ですか?」
「怖い名前を出すなよ。バレなきゃ平気だろ。つか!バラすなよ」
「僕はバラしませんけどね」
「じゃあ、いい」
俺たちは軽口を叩きながら、次の店を探して歩き始めた。
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