訪問者
湖が開放された。
清水さんが索敵役ばかりを集めて何かやってると思ったら、湖の調査をしていたらしい。
湖には危険な魔物は確認出来なかったそうで、早速魚採りや遊泳が許可され、CAさんたちの中には、いきなり水着を買って肌を焼くツワモノまで現れた。高校生も多いというのに、あまり刺激はしないで欲しいものである。俺?俺は大丈夫、たぶん……。
ちなみに、浜部氏は釣りにハマった様だ。
街に向かうという話は、今のところ保留になっている。
浜部氏はやたらと街に向かう事を主張したが、ここで生活出来ない訳ではないし、正直ガイアスたちみたいな人間を見た後では、積極的に現地人と接触する気にはなれなかった。
行くとしても、準備万端整えてからだ。どこまで準備を整えたら万端になるかは分からないが。
俺たちが乗り気でないので、芦屋くんと青山くんが地図を確かめつつ、森の出口を探しているらしい。
そしてある日。
俺たちが狩りから戻ると、拠点に訪問者が来ていた。
商人と、護衛の冒険者たちである。芦屋くんと青山くんが途中で行き合い、ここまで案内して来たらしい。
ガイアスから情報は洩れる事は分かってはいたが、ずいぶん動きが早い。感心してしまう。
テントの様な、断片的に超文明的な技術が入っている物はあまり見られたくなかったが、すでに浜部氏が案内を終えてしまっていた。今も、熱心に何かの話をしている。
俺は商人と話をするのは後回しにし、護衛の冒険者たちに近づいた。
「やあ、はじめまして。大吉だ」
「ウルスだ」
ガイアスと違って、革鎧も綺麗に手入れがされている。髭もちゃんと剃っているし、下手をすると俺より身だしなみが整えられている。細身ではあるが、背中に大きめの剣を負っていて、モテそうだ。
「歓迎するよ。もう仕事の心配がないなら、一杯どうだ?」
腕輪の通販システムで買った酒瓶を見せる。アルコールを飲む良い口実が出来たなんて、思ってはいないぞ。
「おぉ、綺麗な酒瓶だな。退屈してたんだ、付き合おう」
ウルスの仲間は男4人、女2人の構成だった。男は革鎧姿。女はローブを纏っている。男たちに野卑な雰囲気はなく、女も蓮っ葉な感じではない。
俺たちが酒を酌み交わそうとすると、当然の様に清水さんと竜ヶ原さん、間久部が参加して来る。全員、酒瓶を持っている。
「新しい出会いに乾杯」
何かそれっぽい事に乾杯しておいて、俺たちは酒を口にした。ガラスコップも、安いのを買っておいた。ウルスたちは、酒の味よりも酒瓶やガラスコップの方に興味がある様だ。
やがて、榊原がシカ肉の料理を持って来てくれた。
今日は、立派な角を生やした長毛のシカが捕れたのだ。調味料もそろい出しているので、ここ数日で料理の味は抜群に良くなっている。
ウルスたちも美味そうに舌鼓を打っている。
「こんな場所で、こんな良い思いが出来るとはな」
「はは。悪くないだろ」
「それで、ウルスたちは普段タグマンで仕事をしているのか?」
「ああ、そこそこ大きな良い街だぜ」
「そうか。一回、覗いてみるかな」
信用出来る案内役がいるのなら、今のうちに街を見てみるのも、アリだ。
「はいはい、私も」
竜ヶ原さんが手を上げるが、「竜ヶ原さんたちは、次だな。まず俺と間久部あたりで様子を見て来るよ」と却下する。
「えー」
「治安は悪くないと思うが、あなたたちの様な美しい御婦人方は、もしかしたら狙われるかも知れないな」
「あら、美しい御婦人だって」
「ガイアスみたいな奴もいるからな」
「そう言えば、ガイアスに会ったんだったな」
「ああ、あんたたちと違って柄の悪い連中だった」
「腕は悪くないんだがな、あんまり評判の良くない連中だ。森の中なんだから、殺っちまっても良かったんだぜ」
「そんな連中だったか。いきなり住人を手にかけるのもどうかと思ってな」
「次は、遠慮しないで良いぞ」
「だそうだよ、竜ヶ原さん」
「どういう意味よ?」
そこに、浜部グループと商人もやって来た。
商人は、まだ若い。30才ぐらいに見える。イゼール氏というらしい。
「ワシたちは、イゼール氏とタグマンに向かう事にした。多分、向こうに住み着くと思う」
「おお、そうですか。芦屋くんと青山くんもですか?」
「もちろん、一緒だ」
「2人を便利に使おうとしてませんか?」
「何を言う。2人はまだ若い。年長者の指導が必要なのだ。本人たちも承知しておる」
芦屋くんたちに目を向けると、曖昧に笑っていた。
「俺と間久部も、一度タグマンを見に行こうと思います。移住は、まだ考えてませんが」
「じゃ、あなたたちも一緒に来ますか?」
「そうですね。それで、この酒やガラスコップをいくつか買い取ってもらえたらと思うんですが」
「おお、そうですか。先程から見ていたんですが、濁りもない綺麗なガラスだ。意匠も良い。これは、貴族に高く売れそうだ。浜部さんたちからは、砂糖や胡椒を売ってもらう事になったんですよ。故郷から持ち出した貴重な品だというのに、申し訳ない事です」
どうやら、浜部氏もさすがに腕輪の通販システムまでは口にしていないらしい。
夜は、イゼール氏とウルスは浜部グループのテントで、3人の男は俺たちのテントで、女2人はCAさんたちのテントに泊まった。
内部空間拡張のあるテントは、3人ぐらい人間が増えても問題はなかった。それより、その科学技術にツッコミが入るかと思ったが、魔法でも空間拡張はあるらしく、そういうものだと思われた様だ。ただ、トイレとシャワーは見新しかったらしく、かなり熱心に見入っていた。
そして翌日、俺たちは拠点を後にした。
清水さんたちがいれば心配はないと思うが、アヅマには念入りに釘を刺しておいた。前日、この男はザルの様に酒を飲んでいたのだ。さすがプロレスラーという飲みっぷりだったが、俺が留守の間はくれぐれも飲まない様にと、しつこくしつこく言っておいた。
タグマンまでは丸二日間歩きになるので浜部氏が心配だったが、意外と健脚ぶりを見せる浜部氏。
芦屋くんに話を聞くと、浜部氏は絶倫という能力をもらったらしい。おかげで体力の不安はなくなったが……。
「なんで、そんな能力を……」
「男って、トシを取るとそんなもんらしいですよ」
「気持ちは分からん事はないが、もっと生き残る為に能力を選べよ」
「街に行きたがってるのも、そのせいらしいですから」
「CAさんや高校生たちを困らせなかっただけ、ありがたかったって話か」
「そこは、さすがに教頭先生ですから」
「それにしても……」
俺は、頭を抱えた。
道中は、まるで問題なかった。
トカゲや大型のバッタが出たりしたが、ウルスたちが問題なく片付けてしまった。俺や芦屋くんの出る幕はなしである。
「そう言えば、もう1人の橋元さんは、どんな能力なんだ?」
「怪力と飛行能力らしいですよ」
「どこかの超人かいな」
「でも、怪力はともかく、飛行はまだ身体を浮かせられるぐらいだそうで」
「なるほど。じゃあ、狩りに出て鍛えないといけないだろうに」
「そうなんですけどねぇ」
芦屋くんたちの苦労は、まだ続きそうだ。
そして2日目の夕刻、俺たちはタグマンの門前にたどり着いた。
古びた城壁にぐるりと周囲を取り囲まれた趣のある街だ。
門前に並んでいる者の中には獣人もいる。俺たちが戦ったオオカミ獣人との違いは分からないが、その辺も要勉強だ。
俺はワクワクとドキドキを感じながら、列の一番後ろに並んだ。
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