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スキル獲得

「あのー、すみません。ここ、どこなんでしょう?」 

「どこよ、ここ! アンタ!? アンタが私をここに連れて来たの!?」

「ママー! どこー!!」

「スマホスマホ……。畜生、俺のスマホがねぇ! もうすぐイベントの時間だってのに!」

「おうちに帰して……」



 しばらくすると、周囲がどんどん騒がしくなる。

 誰もがここにいる理由が分からず、答えを求めて声を上げ始めたのだ。もしくは、助けを求めるか八つ当たりをするか。


 この場に何人の人がいるか、今いる場所からは分からないが、とにかく俺は人ごみの中から抜け出し、人の少ないところがあると信じて歩き出した。

 すると、不意に腕をつかまれる。


「すみません、どこに向かっているんですか?」


 俺の腕をつかんだのは、見知らぬ女子高生だった。

 なんで女子高生だって分かったのかというと、私立っぽいブレザーを着ていたから。もしかしたら中学生かもしれないけど、俺には確かめる気がない。


「人ごみから抜け出そうってだけだ。腕を離してくれ」

「そう、ですか。ごめんなさい」


 女子高生は俺が帰る手段を見つけたのかもしれないと考えたのかもしれない。だが、そんな事実は無いと知って落胆した表情を見せ、俺の腕から手を放した。



 自由になった俺はそのまま歩き出し、何とか人ごみからの脱出に成功する。

 歩いていて思ったけど、俺が見た感じでは、この場にいるのは1000人以上。100人以上いるのは絶対だけど、あまりにも数が多すぎて正確な数は想像できないほどいるってのだけが分かった。


 また、人ごみから外れたところでも、壁になるものが見えなかった。

 地面は相変わらずの土だし、天井はぼんやりとしていてよく分からない。閉塞感があるから、空、ではないと思うけど。


 あと、外側から人ごみを見やれば、結構な数が座り込んでいる。

 それもそうか。立ちっぱなしってのは疲れるからな。



 俺は体力に余裕があったので、とにかく人ごみから離れておくことにした。

 単独行動は死亡フラグ、そんな話もあるけど、訳の分からない、こんな状態で他人を信用できない。暴動や集団パニックが起きた時のことを考えると、人ごみの近くは危険だと判断した。


 そうやって俺が集団に背を向け離れていくと、その集団のほうで大きな声を上げるやつがいた。


「みんな! ステータスって言ってみろ!!」


 人ごみの奥なので姿は見えないが、若い男が何か言っているようだ。


「嘘と思うかもしれないが、それで現状の半分は納得できる!!

 試したところでデメリットは無い! 信じてくれ!!」


 男の言っていることを聞き、俺は頭にピンと来るものがあった。

 ネット小説界隈発の、「異世界転生もの」というやつだ。アニメやゲーム、エロ関係で見かけたことがある。

 ゲームのような異世界でチート能力とかいうのを持った連中が活躍する話だったはず。


 確かに、状況は非常によく似ている。

 当事者意識からか頭の中から「ありえない」と考えずにいたけど、言うだけならタダだし、試してみるのもいいだろう。



「ステータス」


 俺がそうつぶやくと男の言っていたことが理解できた。


『迷宮を攻略しろ』


 声が、頭の中に響く。

 男とも女ともわからない、機械がしゃべっているような合成音よりも無機質な声。

 だけど、どこか強制力を俺に与えるほどの力強さを感じる。

 矛盾しているようだが、本当にそんな印象を持ったのだ。


 俺は声に気圧され、転びこそしなかったが思わずよろめいた。



 そして俺の目の前に、スマホのようなものが現れた。

 そこにはゲームのような、それでいて俺の状態を数値化しているかのような、そんな何かが表示されていた。


 ステータスは10種類。

 LP、SP、MP、STR、VIT、DEX、AGI、INT、WIL、CHA。

 ゲームでお馴染みなので、なんとなく分かる。

 前の3つにはゲージがついており、おそらくだがライフ(生命)スタミナ(体力)マジック(魔力)のポイントといったところか。何かするたびに消費されるアレである。

 後ろの7つにゲージはない。STRはストレングスで筋力や力強さ、VITはバイタリティで体の丈夫さ、DEXはデクスタリティで器用さ、AGIはアジリティで素早さ、INTはインテリジェンスで知性、WILはウィルで意志、CHAがチャームで魅力だろう。

 一部は自信がないけど、そこまで大きく間違っていないはずだ。


 そのすべての欄に「F」と表示されている。

 たぶんこれが最低値か、その一歩手前。

 一律でFということは、今は低レベルで数字が小さすぎるのか、それとも補正値か倍率なのか。

 きっとAとかSとかEXとかが上限であり、俺は最弱なんだろうなぁと思う。


 アビリティという欄があり、そこには「ステータス閲覧・操作」「アイテムボックス」「死に戻り」「素材回収」「換金」とあるが、説明が無い……。

 大体わかるけど、細かい説明がほしかった……。


 アイテムボックスを確認すると、「無味パン(∞)」と「水筒(∞)」とある。今の空き枠は8種類だ。同じアイテムはスタックされるみたいだな。たぶんだけど。

 パンと水、これで飢えと渇きを癒せということだろうが……塩に野菜、肉も欲しいのだが……「今は」ダメだということだろう。自分で手に入れろと。

 おそらくだが、モンスターを倒して素材を手に入れ、「換金」のアビリティで素材を換金ポイントに変えられるシステムなのだと思う。換金後は別のアイテムを買えるのではないかな?



 あと、スキルが表示されている。

 リストから10個を選ぶようで、チェックボックスと決定ボタンがある。

 決定ボタンを押すまで選択のやり直しは聞くようだ。


 スキルには武器・防具系、魔法系、生産系、能力系、その他の5種類が設定されている。

 俺は少し考え、能力値を伸ばすスキル一式――≪LP強化≫などの自己強化スキルを10個取る。

 早めに基礎能力を高くしたほうが後半有利になると踏んだからだ。

 それに、物理戦闘系スキルは≪格闘≫以外使えないと思った。≪剣≫スキルがあったとしても、肝心の剣がなければ意味が無いではないか。なら、物が手に入ってからそういったスキルの習得を目指す方が良い。

 魔法スキルは悩んだけど、こちらも見送った。知っているゲームだと、杖とか指輪とか聖印とか。専用の発動体がないと魔法が使えなかったからだ。

 だったら地力を上げて「レベルを上げて物理で殴る」が一番安定するだろうし、格闘を取って中途半端にするより能力値強化系で統一した方が俺の趣味に合う。



 スキルを決定すると、今度はスキルの方向性を決めてくださいと来た。


「方向性?」


 今までのゲーム知識にないことだったのだが、「リンク」「ランクアップ」「スペシャル」「ブランチ」「ゼネラル」の5つの選択肢がスキルごとに出てきたので、この中から一つを選べばいいのだと理解した。

 「どうするか?」と考え、まずは≪LP強化≫のリンク側を選んでみると、≪SP強化≫≪STR強化≫≪VIT強化≫≪WIL強化≫と次の選択肢が出てきた。ああ、スキルとスキルをリンクさせるということか。


 しばらく考え、俺は手持ちのスキルを一周するようにリンク先を選んだ。

 「ランクアップ」はたぶんだけど、もっと強いスキルにするやつで、「スペシャル」は専門化のはず。「ブランチ」は枝って意味で……よく分からん。「ゼネラル」は「スペシャル」の逆で汎用(マイナー)化だろう。いや、マイナーチェンジではなく、もっと……マイナーチェンジが「ブランチ」なのかな? そうすると、「ゼネラル」はゼネラリスト(全体を見通す者)の方か。うん、意味が分からない。

 ここでの選択で何が変わるのかは分からないが、俺のやった選択だと≪全能力強化≫とか、そういった系統のスキルが手に入るのだと思う。

 一応ゼネラルも試してみたが、なぜか「選択できるスキルがありません」と言われて何もできなかった。解せぬ。


 なお、スキルをとってすぐにステータスに影響はないようだ。全部Fのままである。



 そうやってスキル習得まで状況を進めていると、どこかから「迷宮の入口らしいのがあったぞ!」という声が聞こえてきた。


 迷宮に挑むのなら、体力が残っている今がベストだ。

 俺は迷わず、迷宮へと足を踏み入れるのだった。

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