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選択失敗

 武器や防具の類はない。

 足元に石ころでも転がっていればそれを武器にしたんだけど、そういったフォローもない。

 なんとかなると、自分を信じるしかない。



 迷宮は、6人PTで挑む大昔のコンピューターRPG風の、そんな洞窟風の場所だった。

 通路のわきには松明がある。試してみたが、これはなぜか取り外せず、そしておそらく消えることがない灯りだ。

 たぶん、物理法則に従って存在するものじゃない。今の俺たちが置かれている「ゲーム的な状況」ってやつなのだ。


 持っていければ、ずいぶん楽になるのに。

 武器になりそうだし、火があればできることはずいぶん増えるだろう。暖をとるとか、料理的な方向で。

 アイテムボックスに入れれば火が消えて棍棒になるかもしれないし、本当に、この松明は欲しかった……。



 それと、すぐに気が付いたことの一つとしては、「周りに人がいない」というのがある。

 パーティを組んでいると意識しなければ同じ迷宮に潜れないのだろう。そうでなければ、いくらなんでもすぐに誰かがいることに気が付くはずだ。

 仲間を探さないといけないようだ。


 ただ、ここでの迷宮探索で他人が信用できるかどうかという問題がある。

 俺が相手を信じられないように、相手も俺を信用できないだろう。死に戻りするからと、安易な気持ちで仲間を作ることなどできない。

 この問題は根が深く、簡単に解決しないと思うので、じっくりと取り組んでいきたい。





 俺は無言で迷宮を進む。

 分かれ道でマッピングの必要性に気が付いたけど、紙も鉛筆もないのだからそんなことはできないので、諦めがついた。

 残念ながら、ステータスにマップ機能はない。オートマップ機能があるとすごく楽なのに……。


 他にも≪気配察知≫≪隠密≫など、ソロプレイに有効なスキルのことを思い出すが、そういったスキルは無かった。おそらく進化先になるのだと思われる。

 



 どれほど歩いただろうか?

 10分?

 それとも、もっと歩いたか?

 しばらく歩き続け、そろそろ休もうかというところでスケルトン、骨格標本のようなモンスターが出た。

 ありがたいことに1体だけで、武器や防具を持っていない。


「素手が相手の戦いなら!」


 俺は自分に気合を入れるために、用意した武器で相手に攻撃を加える。


 用意した武器、それは「ブラックジャック」だ。

 履いていた靴下をただの布袋として使い、中に土を詰めて錘にした殴打武器だ。ミステリー系アニメで見た、俺が作れそうな精一杯の武器である。

 これでもリーチの面で有利になるし、なにより拳などを傷めずに済むのが大きい。


 スケルトンの戦法は指の骨によるひっかきだった。

 指を大きく広げ、腕を振り回して攻撃してくる。拳を握って殴ってくるのでもなければ、掴み取ろうといった風でもない。ひたすらに腕を振り回す。


 そんなスケルトンに俺が全力でブラックジャックを振り回すと、肩の下に当たり相手の上腕の骨が外れて飛んで行った。その下の腕の骨はそのまま下に落ちた。

 ただ、それぐらいではダメージにならないらしい。ゆっくりと飛んで行った骨が動き、元の場所に戻ろうとする。落ちた骨の方はそのままだ。


 俺はスケルトンをけん制しながら足元の骨を踏み砕き、徐々にダメージを与えていく。さすがに砕けばその骨が動くことはなくなり、ダメージになるようなのだ。

 何度も攻撃し、最後に落ちた頭蓋骨を踏み砕き、戦闘終了。

 スケルトンは全身が光の粒子になり、消えていった。死体は残らない仕様らしい。


 戦いが終わったと頭が理解すると、俺の全身から力が抜けた。


「動けないなぁ。緊張しすぎだ」


 初めての、殺し合い。相手がアンデッド(死にぞこない)なので「スケルトンはもう死んでるよ!」ってツッコめるけど、とにかく殺し合いをした。

 それまでの歩きの疲れもあっただろうけど、命のやり取りだから緊張のし過ぎで体がこわばり、無駄に体力を消費したっていう実感があった。

 大の字になった体のうち、何度もブラックジャックを振るった腕がプルプルと震えている。


 何気なしにステータスを見てみると、スキルの下にメーターが現れ、ほんの少し埋まっている。

 どれも1%ぐらいだろうか、わずかだが、それでも経験値稼ぎができたという事らしい。

 レベル表記はステータスにもスキルにも無いので、この世界は熟練度制なのかなと、そんなどうでもいいことを考える。


 あと、アイテムボックスに「NEW」という表示が出て、新しく「スケルトンの骨(1)」というアイテムを手に入れていた。

 アビリティ「素材回収」の効果だろうな。

 さっそく換金を、と思ったが、迷宮内では換金できない様子。迷宮からでないとダメなようだ。

 おそらく、そうしないとアイテムボックスの枠制限がうまく機能しなくなるからだろうな。



 俺は体力の回復を待ち、よろよろと起き上がるとその後もスケルトンの相手をし続けた。

 この階層では1体ずつしか出ないらしく、戦っている最中に寄って来るということもなかった。

 単独のスケルトンと合計で5回ほど戦い、「スケルトンの骨」を5つ入手すると、上手くできた方だろうなと自画自賛しつつ、無傷で迷宮を出ることにした。


 何度も戦い、勝ち方を知ったというのが大きい。

 「やっていける」と根拠のある(・・)自信を身にまとい、高揚した気持ちで帰路に就く。


 俺は頭の中で換金アイテムがどれほどの収入になるのか、あとどれだけ戦えばスキルの経験値が溜まりきるのかと今後の予定を考えていた。

 そうして、自分の浅はかさを知ることになる。




 戻ってきた俺が見たのは、いかにもファンタジーといった格好をした連中だった。

 剣や槍、その他様々な武器。革に金属の縁を着けた鎧、盾など防具。中に魔術師のように長い杖を持った奴もいる。


「ははっ。なんだよ、これ……」


 思わず乾いた声が口から漏れる。

 着の身着のまま、日常生活と同じ格好をした自分といかにも冒険者風の格好をした彼らと。一体どこでこんな差が付いたのか。


 その疑問は、直ぐに分かった。





 俺が迷宮の入り口付近で呆然としていると、幾人ものパーティが俺を邪魔そうに一瞥し、時にはわざと肩をぶつけて退けと主張する。

 完全にこちらが悪く、直ぐに退くべきなのだろう。だけど、目の前の光景が信じられず、その気力が湧いてこない。


 俺の頑張りは、一体何だったのか?



「お。まだ初心者じゃねぇか。その格好で迷宮に潜ったのか? 勇者だねー」


 そうやってどれぐらい時間が経っただろうか?

 俺がぼうっと立っていると、声をかけてくる奴がいた。

 鎧を着て槍を手にした、俺と同じぐらいかやや上の、二十歳前後の男だ。体格はがっちりしていて筋肉質。アメフトが似合いそうな男である。


「その分だとスキルはまだなのか? スキル取ってアイテム貰わないと、迷宮は危険だぜ」

「え? スキルは、って。え?」

「まさか……いや、アイテムボックスは確認したのか?」

「あ、ああ。もしかして、武器や魔法のスキルを取ると、それに見合った装備が貰える?」


 男の言葉に驚いた俺は、反射的に浮かんだ考えを口にする。

 そしてそれは正しかったようだ。


「おいおい、まさか生産スキルだけ……。おい、お前、能力強化系スキルしか取っていない、なんてことは無いよな?」


 どうやら当たりらしい。武器や魔法のスキルを取った場合、そのスキルを活かす為の装備やアイテムが貰えるようだ。物理戦闘系なら武器や防具、魔法系は一律ローブと杖、生産系はそのスキルを使っての生産に必要な道具一式と素材を少し。

 「スキルに対応した物を持っていないから取らない」という俺の判断は、大きく間違っていたらしい。



 男はずいぶん親切なようで、新たに分かったスキル関連の情報を俺にくれた。スキルの効率の良い育て方も、まだ初日だというのにある程度判明したらしい。

 他にも迷宮の攻略によって得られる物はパーティの方がより多くなるだとか、経験値的な物の配分もパーティを組むことで大きく不利にならないようになっているだとか、パーティで戦うメリットがかなり大きくなっていることまで教えてくれた。

 ここはソロ不遇というか、パーティが前提の迷宮らしい。



 MMO的な協力プレイ推奨環境が整っている中で……俺は、「役立たず」と言われてもしょうがない立場に陥っていた。

 こうして俺はしばらくの間、孤独な戦いを続けることになる。

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