転生しました。②
あのゲーム…そこまで好きだった訳じゃないから名前は忘れてしまったけど、死ぬ直前までプレイしてたゲームだから割と世界観やストーリ、キャラクターについてはある程度覚えていた。
資産家や政治家、銀行の頭取や大企業の社長等を親に持つ子供たちが通う櫻田学園。小学校から大学までエスカレーターであり、その高校がゲームの舞台だ。
内容はありふれたもので、特待生枠で入学してきたヒロインと、その学園に通う5人のイケメン攻略対象者たちが、互いに距離を詰めつつ山あり谷あり様々なドラマを経ながら、ドキドキな学校生活を送る、というものだった。
ヒロインのステータスを上げる育成モードと、そのステータス状況により内容が変化するノベルモードの2種類で構成されていた。
確かに絵は綺麗だったけど、そこまではまるほどのもんかなぁ、と思っていたんだけど、あっちゃんに言わせると隠しキャラである幻の6人目がものすごく良くて、皆それ目当てに攻略してたらしいのだ。
ただ6人目を出すためには、彼以外の全ての攻略対象者たちのイベントとエンディングを制覇しなければならず、しかも分岐が恐ろしく多い上にヒロインのステータスがなかなか上がりにくい鬼畜システムだったため、暇を持て余していた私ですら、2カ月ではそこまで辿りつけなかった。
攻略サイトを見ずにプレイしてたのも要因の一つかもしんない。
でだ。
そのゲームに出てくる、ヒロインにとっては最大にして最悪の敵が、私こと一条百合香なのである。
彼女についてまとめると。
一条家は華族の流れを汲む由緒正しい家柄で、百合香は現在も日本で圧倒的な権威と権力を持つ一条家本家の一人娘だ。
原作では、百合香の誕生日パーティーで初めて出会った西園寺黎(メインの攻略対象者だ。パッケージの真ん中にどんと存在感を漂わせていたキャラ)と会った時に、彼の外見を気に入って、後に婚約者とした。
しかしそれでは飽き足らず、高校に進学すると彼以外の見目麗しい攻略対象者たちを力と金に物を言わせて取り巻きとさせ、ハーレムを築き、女王の座に君臨するという、とんでもない女だ。どれだけイケメンに飢えてたんだよって感じだ。
本人自体は、特別に何かに秀でていたわけではないんだけど、バックの力が半端なかったので誰も逆らえなかったのだ。
しかしヒロインが現れたことにより百合香の帝国は崩壊する。どのキャラクターを選んでも、彼女はお邪魔虫として登場する。婚約者だけ見とけよな、って画面越しに毒づいていたのは今でも覚えがある。
もともと学内に彼女の本当の意味での味方はいなかったため、最後は完全に皆から見放され、学園追放・一族追放・一条家滅亡・自殺・何者かに殺害される、などなど、なかなかに悲惨な運命を辿る。
しかもだ。ここ重要!
これはヒロインが仮に攻略をクリアできなかったとしても、いずれ訪れる末路なのである。つまり彼女はヒロインがいようがいまいが、どう足掻いたところで最後は屈辱的な結末が待っている、と、いうこと。
改めて考えるまでもない………最悪じゃないか。
ゲームプレイ時は「ざまぁ(笑)」って指差して画面に向かってげらげら笑ってたけど、それが自分の身に将来降りかかるとなると話は別。
まさか太く長く生を全うするはずが、前世と同じくらいの年齢でバッドエンドに突っ込む運命だなんて、なにその無理ゲーって思う。
だけど幸か不幸か、私にはゲームをプレイした記憶がある。
だから頑張れば回避できる可能性は残されているのだ。
対策としてできることは、
・あの学園に通わなくていいようにする(そこにさえ行かなければ、乙女ゲームの舞台に上がらなくてすむかもしれない)
・一条麗華真っ当な人間に育てる(彼女の破滅は自業自得であり、そもそもあんな性格破綻者のままでは、仮に破滅エンドを免れたとしても、どこかでしっぺ返しが来るに違いない)
・攻略対象者に近付かない、好意を抱かない(抱く訳がない。自分が破滅するかもしれない確立を上げかねない行動は自殺願望に等しい。幻の6人目には出会えないこと確定だけど、そんなことより自分の命の方が大事だ)
と、こんなとこだろうか。
特に注意すべきは、三つ目の、攻略対象者に近づかない、だ。百合香の破滅ルートの最大の敵は、あの男、後にゲーム内で婚約者になる西園寺黎だ。
何を隠そう、彼がいるせいで、ノーマルエンドだろうが百合香は最終的に一条家を乗っ取った西園寺に破滅へと追いやられるのだから。
まあ、私のこの行動がどこまで功を奏すか分かったもんじゃないけど。だって神様、6人目の隠しキャラに会えるようにしとく、とかって余計なおせっかいしてくれてるみたいだし。でも、何もやらないよりはいいはずだ。
なのでとりあえず、よちよち歩きと人語を喋るスキルを身に付けた私は、まずはお母様にあることを訴えてみることにした。
「おかーたま!わたち、ちょーがっこうはれーがみねがくえんにいきたー」
「お母様!私、小学校は麗ヶ峰学園に行きたい」だ。舌ったらずの2歳時にはまだ完璧な発音は難しかった。ちなみに麗ヶ峰は櫻田学園と並ぶお金持ちが通う学校だ。
本当は公立とかでぜんぜんいいんだけど、さすがにそれは納得してもらえないだろうなぁと思っていたから、引き合いには出さなかった。
「あら、百合香。麗ヶ峰学園なんて難しい言葉、よく知ってたわね」
完璧に幼児語を翻訳し理解したお母様は、優しい顔で微笑んだあと私を抱き上げ、偉いぞーって頭をなでなでしてくれた。
「もともと櫻田か麗ヶ峰のどちらかに通わせる予定ではあるし、あなたの好きな方にいけばいいと思うわ」
お、これはもしや好感触か!?早速第一関門はクリア?ここで櫻田学園入学を阻止できたら、私の破滅ルートはかなりの確率で回避されるに違いない。
「お受験はもう少し先だけど、早速麗ヶ峰に入るための準備をしておきましょうか」
名門校なので受験は必須。けれど前世の記憶持ちの私に、小学校受験など朝飯前だ。
相変わらずなでなでするお母様の、ぽよんぽよんと弾力が楽しめる豊満な胸の感触を感じながら、私は密かにガッツポーズをした。
ついでに将来、この巨乳が私にも装備されるかと思うと、前貧乳女子高生としては心踊る。ゲームの百合香の巨乳は、どうやらお母様ゆずりだったらしい。
それでは次の計画にいこう。
2つ目の一条百合香を全うな人間に育成しよう計画。
これは何とかなると思う。っていうか、中身は、至って平凡で普通の性格の娘さんだからね。いきなりゲームの百合香様みたいな高飛車と見下しがデフォルトの性格最悪人間にはなれっこない。
ついでに、顔と一条家、っていうことしか取り柄がなかった百合香のスペックもかなりあげてやろうと努力もしている。ゲームの百合香、あまりにも残念すぎて途中見てられなかったもん。
頭が良くて人生困ることはないし、英語が話せて人生損することはない。運動神経が優れていて人生窮することにはならないし、ピアノやバイオリンなどの芸術方面に長けていて人生マイナスにはならない。
お父様は、原作同様、やっとできた可愛い一人娘の私のお願いはなんでも聞いてくれる、甘甘な親だったので、娘のあれやりたいこれやりたいおねだりもなんでも叶えてくれた。
さすが一条家。各科毎にやってくる家庭教師のレベルが半端ない。
ピアノなんて、世界で第一線で活躍しているピアニストから直接教えを請えたからね。
お陰さまで5歳になった百合香お嬢様は、誰もが認める素晴らしいスペックを備えたパーフェクトなレディになっていた。
そして、いよいよ明日、私の人生を狂わせる要因となる予定の、西園寺黎と出会う私の誕生日パーティーの日が迫っていた。