束の間の日常と約束
やっとこ日常編って感じです。
ちょっと短いですがご容赦ください。
「解せぬ。」
湯殿の修理をしながら愚痴を吐く。いや確かに今回の件は全面的に俺が悪い。
それは分かってるが、何故前よりも広く作り替えなければいけないのか……まぁその分修理が終わったら自由に入っていいって言われたから頑張るけどね。
「コウさーん。」
「ん? ああシャルか。」
シャルが手を振りながらこちらに向かってくる。あの件から数日は口も聞いてくれなかったが、ようやくほとぼりが冷めてきたのか、色々話すようになった。
特に俺が死んでからの再会するまでの話をした後は機嫌が良くなり、今では昼になったら昼飯を持ってきてくれるようにまでなった。何がそこまで嬉しかったのかは分からないが良しとしよう。多分今日も昼飯を持ってきてくれたんだろうし、いったん休憩するとするか。
「いつもすまないな。今日も昼飯持ってきてくれたのか?」
「うん! 今日はイガラシさんの手作りご飯だよ!!」
心中複雑である。イガさんのご飯は確かに美味いんだけどなー。俺としてはシャルの作ってくれたご飯が食べたいんだが。
「シャルは作ってくれないの?」
「え? いや私はそんなに料理得意じゃないし、イガラシさんとかアイラの作るご飯の方が美味しいよ?」
確かにアイラも料理が上手だ。というかアイサの料理が絶望的らしく、その分上手になるしかなかったんだとか。
「うーん、それでもシャルの作ってくれた料理が食べてみたいな。」
「本当に?」
「うん本当。」
もしかして料理が苦手だったか? まぁ確かに以前の旅でもほとんどが宿で食事取ってたしな……でもその後はジャックス達とも旅をしていたわけだし、料理が全く出来ないってわけじゃないだろう。
「じゃ、じゃあ練習してからね。今度作るから!」
「是非是非、期待してるぞ。」
「うん! 美味しくなくてもガッカリしないでね?」
「しないしない。こういうのは作ってくれるってのが嬉しいんだよ。」
「うっ、嬉しいの?」
「ああ、シャルが作ってくれるなら嬉しいぞ。」
「そっ、それなら頑張る!!」
おお、ええ子や。
にしてもアレだよなぁ。そういやまだあの約束果たしてないよなぁ。うん、ちょうどいい。
「そうだ。それならちょうどあの約束もあるし、その時にシャルの手料理を食わしてくれないか?」
「約束?」
「ああ、三年前のあの約束だよ。覚えてないか?」
「覚えてる覚えてる!! 覚えてますっ!!」
そこまで食いつかんでも。
「お、おお。ならいいや。というわけでデートしようか。」
「デ、デデデデ、デートだね!? 望むところだよっ!?」
うーん、さっきからシャルのテンションがおかしい。しかも以前の姿とは違って、すっかり見た目は成人女性となってしまっているので、余計にギャップがある。
「おーい、ちょっと落ち着けー。」
「うううぅぅ。」
見た目は変わっても中身はシャルのままってことか。なんというかちょっと安心するな。どれ、昔のように頭をなでてやろう。
「よーしよし、どうどうどう。落ち着いたかー?」
「コウさん……私馬じゃないよ……あ、でも落ち着く。」
よし、どうやら落ち着いたようだ。
「じゃあ今度デートな。日程は早めに決めときたいけど、今は俺が修理で忙しいから、ちょっと後になるけどいいか?」
「うん! じゃあそれまでに料理が上手になれるようにするよ。」
「お、楽しみにしてよう。それじゃとっととこの作業終わらせるかな。」
「じゃあ私は先に戻ってるね。早速イガラシさんに料理教わってくる!」
早速か。でもイガさんが料理教えるってどんな光景なんだろう……ちょっと興味あるな。
「気を付けてなー。」
「うん、コウさんも頑張ってね。」
応援の言葉を貰いながら作業に戻る。つか建築なんてしたことねーよ!! というのが本音だが、指示に従って資材を運んだり、材木や石材を削ったりする仕事なので、とにかく体力を使う。
それでも今後の風呂が約束されている以上、頑張らない理由もない。それにさっき早く終わらせる理由も出来たことだし、今まで以上に頑張らなくては!
「つっても、そのうち王都を出ていかなきゃいけないんだよな……」
ヴィエラが狙われていると知った以上、また王都を巻き込むわけにはいかない。今は皆復興で手一杯だし、二度目は流石に復興すらままならなくなるだろう。
それに仲間が狙われていると知って甘んじて待つわけにもいかない。今まで以上に強くなって、今度こそアイツを消滅させなければ。そのためにももう一度レイン爺さんに会う必要があるな。
あの爺さんは性格はともかく、間違いなく剣術の達人だ。俺だけじゃなくてアランやイガさんにとってもプラスになるだろう。それにサニーの上達具合も気になるしな……
「半年か……長いのか、それとも短いのか。」
今日はビゼンも置いてきたので誰からも返事はない。けれどその時は間違いなくやってくる。それまでにやれることはやっておこう。次こそは戦いに終止符を打たなければ。
決意を新たに、俺は石を削る作業に精を出すのだった。
仕事の帰りが遅いことが多くて更新頻度が落ちてますが、それでも完結目指して頑張ります。
引き続き楽しんでいただければ幸いです。




