お正月編-キサラギの野望- 第三幕
私にキャッキャウフフのセンスはありませんでした。
「ふう……結局この苦労はなんだったんだ……」
「まぁそう言うなよボウズ。この世界でも温泉に入れるってだけでも収穫じゃねえか。」
「湯殿か……確かに最近騎士団でも疲れがとれると評判だったがワシは行っとらんの。」
「ワシも一般に解放はしたが、立場上なかなか行けんかったからの。どれ、なんなら今から皆で行くか? せっかくじゃから貸し切りと行こうではないか。」
なん……だと?
「オルデン君、いや、王様。それはマジでございますか?」
「マジじゃよ。ワシを誰だと思っておる。」
「変態ムキムキ爺。」
「よし、コウだけはここで穴を掘っておれ。ダンカン、イガラシ、行くぞ。」
「ごめんなさいごめんなさい冗談ですオルデン様。」
アホなやり取りをしながらいったん城に戻って皆を誘う。どうやら皆興味はあったようだが、行ったことないメンバーが多数のようだ。むしろ行ったことがあるのはアイサだけだった。
「なんというか、湯殿で温かいお湯に入ってると、なんだかホッとするんですよね。」
分かる、分かるぞその気持ち。俺も早く風呂に入りたい。
オルデン君が職権濫用で湯殿を借りきったのはそれから二時間ほど後、夜も更け始めた頃だった。
「さて、じゃあ皆準備は出来たな? そろそろ時間じゃから行くぞ。」
「ちゃんと着替え持ってけよー。せっかく汗落としても服に汗とか汚れがついてたら台無しだしな。」
「お風呂かー。どんな感じなのかな。私も初めてだから楽しみだよ!!」
「ふむ、ついに風呂というものを体験できるのだな。イガラシ達に話を聞いてから我も興を惹かれておったのでな。楽しみにしている。」
あ、確かにヴィエラには王都に来るまでの道中で風呂の話したなぁ。もう半年以上も前だからすっかり忘れてたけど。
「陛下、ワシも行くのですか?」
「当然じゃ。皆で、と言うたであろう。今さらお主だけ置いていくはずがないであろうよ。」
「陛下……このダンカン、感涙の極みでございます。」
オッサン達がなんかやってる。いいから早く行こうぜもう。ちなみにルルとロロは眠いからということで不参加だ。まぁまだ子供だしな。
そんなこんなで湯殿に着いた。思ったよりは小さいが、それでもこの人数が入るのには十分だろう。それにこの世界では風呂が出来て日が浅い。もしかしたら混浴なんてことも……
そう思っていた時期が俺にもありました。うん、ちゃんと男湯と女湯分かれてるね。当たり前か。
「じゃあ俺達はこっちだな。コウ、俺達は初めてだからどうすればいいのか教えてくれ。」
「こちらはアイサに教えてもらうわね。アイサ、お願いね。」
男と女で分かれて各々脱衣場に入っていく。まぁいいや、とにかく久しぶりの風呂を満喫するとしよう。
「あー、ここ脱衣場な。そこで服脱いで湯に入れ。あ、入る前にかけ湯はしとけよー。」
「小僧、かけ湯とはなんだ?」
「そこの桶でお湯を掬って身体にかけるんだよ。身体の表面についた汗や汚れを落とすんだ。汚れたままで風呂に入っちゃったら湯が汚くなるだろ?」
「なるほどのう。」
説明しながら俺も服を脱ぐ。
……が、重大なことに気付く。
「タオルが……ないだと?」
そう、前を隠すタオルがないのだ。風呂から出たときに身体を拭くための布はある。だが前を隠すためのタオルがないのだ!!
「ボウズ、コソコソしねえで堂々としやがれ。別に見られて減るもんでもないだろうが。」
「ふむ、コウは何を隠れておるのだ? 早く入らねば寒いではないか。ほれ早く。」
「ちょっ、ちょっと待って……アッー!!」
肩を掴まれて振り向かされてしまう。そして目の前に広がった光景は……
ガッチリとして、そしてムッチリとしたオッサン三名だった。
イガさんと団長は言うまでもなくガッチリとした体格だ。先日のフラッグ戦で負った傷跡が少し残っている。
団長は職業柄か、結構細かい傷が多いな。これは名誉の負傷と言ったところなんだろうか。
オルデン君は……おいおい二人よりも肩幅が広いじゃないか。それに身体に無数の傷がある。一体この人昔何やってたんだ……
「ふむ、ボウズはまだまだ筋肉が足りないな。もっと食って筋トレしろ。」
「そうだな。小僧には筋肉が足らん。せっかくいいモノを持っているのに勿体ない。」
「今は魔法師と言えど魔力が切れて使い物にならんでは話にならんからの。筋肉は大事じゃぞ。」
口々に筋肉筋肉と言いながら各々ポージングを決める。もうやだ誰か助けて。
「お三方。そろそろ冗談はやめにして入りませんか? コウも困ってることですし。」
と、後ろから助け船が入る。おお、流石俺の幼馴染みだ。デキる男はちが……う……?
「なんてこった……」
「流石は聖剣の勇者と言ったところか……」
「キッサマアアアアア!! うちの娘を殺す気かあああ!!」
「え? え?」
困惑するアラン。貴様、まだ気付いていないのか。
爽やかなイケメン、引き締まった身体。そしてその中心から下部に鎮座するドイツ産フランクフルト、いやむしろアメリカンドッグか。
「お前だけは信じてたのに……」
「なっ、どういうことだコウ!」
アランが戸惑うが俺は答えない。この裏切り者め。
アランを放っておいて俺は浴場に向かう。ちゃんと説明した通りにかけ湯もする。
--ついにこの時が来たか。
最後に風呂に入ってから一年も経ってないのにすっかり風呂が恋しくなってしまっている。なんて人を惹き付けるモノなのだろうか。
噛み締めるように片足ずつゆっくり入る。温度もちょうどいい。俺の好みのちょっと熱めの温度なのもグッドだ。
「ふぅ~。」
肩まで浸かったところで思わずため息が出る。うむ、やはり風呂はいい。
周りを見れば皆同じ気持ちのようだ。最初は湯の温度に驚いていたアランもすっかり気持ち良さそうにふやけている。
「うわぁ……ロッテさん凄いですね……」
ピクンッ。
いや、今のは俺の耳が反応したんだ。決してナニが反応したわけではない。
「え? いやいや何言ってるの? それを言うならアイラだって。」
「えー? なになに? 何の話ー?」
「ちょっと貴方達、恥ずかしいからやめて頂戴。」
「ふん! 別にそんなもの大きくなくったって困らないわよ! ミリィ! 貴方も貴方で何よ!! 余裕のつもり!?」
「あれ? もしかしてヴィエラさんなのかい? いや、初めて素顔を見たよ。想像よりもずっと可愛いじゃないか。」
「かっ!?」
「でしょ? ほらヴィエラ、だから私も言ったじゃないの。貴方はあんなローブを被ってないでたまにはお洒落もしなさいな。きっとイガラシも喜ぶわよ?」
「なっ、なんでイガラシが出てくるのよ!?」
隣から女性陣の声が聞こえてくる。なるほど、思ったより壁は薄いのか。
「ミリィだってあの勇者とどうなのよ。コウが随分くっつけたがってるみたいだけど?」
「確かにそうですね。ミリィさんとアランさんはとてもよくお似合いだと思います。本当に何もないんですか?」
「ちょっと! ヴィエラ、アイサ。そういうのは止めて頂戴。私はアランとは別に……」
あ、アランがちょっと落ち込んでる。どうやらアイツもちゃっかり聞いてるみたいだな。イガさんも気にしてない風にしてるけど少しずつこっちに近づいてきてるみたいだ。
「でもミリィさんは昔からアランさんといつも一緒に行動してたよね。私もあまり邪魔にならないようにしてたよ。」
「くっついちゃえくっついちゃえー。」
「シャル……アイラ……貴方達覚えてなさいよ。」
--バキッ。
何かが壊れる音がしたので振り向いてみると、オルデン君が浴槽の縁を握りつぶしていた。お父さんご愁傷さまです。
「ところでロッテはコウ君とどうなんだい? ずっと待ってた人なんだろう?」
自分の名前が出たので慌てて聞き耳を立てる。うーん、聞きたいような聞きたくないような……
「わ、私はその、約束したから……」
「約束、ですか?」
アイサが質問している。約束か、確かに死ぬ間際に言ったが、皆の前で言われるのはちょっと恥ずかしいな。
「うん、そのね。コウさんが死ぬ前に必ず戻ってくる。戻ってきたらデートしようって。」
「「「デートォ!?」」」
なんか驚いてる人の声が聞こえた。そこまで驚くことだっけか……
「やはり胸ですか。こんなものがあるから争いは起きるのですね。」
「お姉ちゃん!! だったら私だって負けないよ!!」
「私は……どっちとも言えないな……」
アイサ、アイラ、ジャックスの順に声が聞こえてくる。おいなんだよ、人を巨乳フェチみたいな言い方しやがって。
「いやでも私あの頃はもっと背も低かったし、その……胸だって……」
いやだから胸は関係ないって。
「そうですか、胸は関係ないのですね。ならまだ勝負はついていません。」
「うーん、でも男の人はおっきい方が好きだって聞いたよー?」
「アイラ、それは間違いではないだろうが、世の中には色んな趣味の人がいるんだ。だから私も中途半端ではない。断じて中途半端ではない。」
なんだ勝負って。
それにしても、だ。
これだけ壁が薄いということはもしかしてどこかに穴でも空ければ……
俺が考えに耽る間にも女性陣のかしましい声が聞こえてくる。アランとイガさんは聞き耳を立てるのに夢中だし、団長はオルデン君を落ち着けるのにいっぱいだ。
と、なれば今がチャンス!!
久々に素手での魔法だ。えーと、ちょっと穴を空けるくらいだから……
魔素を取り込み、風の属性に変換させる。小さな穴、小さな穴……
「こんな、こんなもの!!」
「ちょっと、ヴィエラ何するの!? あん、やめっ!」
どうやらヴィエラがミリィに何かしたらしい。ミリィの慌てるような声が聞こえてきた。
と、そちらに気をとられて魔法の制御がおろそかになってしまう。
--ドカーンッ!!
「あっ……」
案の定威力を出しすぎてしまい、壁を大破させてしまった。
そして全員の注目が俺の方に向く。つまり男性陣から見れば女性陣の方を。女性陣から見れば男性陣の方を。
どうやら女性陣は湯船に浸かっていたらしく、かろうじて危ないところは見えていない。見えてはいないが、上半身は露になっている。
落ち着け、何事も冷静に、だ。レイン爺さんも言ってたじゃないか。
落ち着いて周りを見てみる。ふむ、アイサはやはり本人が気にしてるだけあってAだろうか、アイラはEからFはありそうだ。姉妹なのに何故こうも違うのか。
ミリィは以前ぶつかったこともあるが、やはり予想通りDと言ったところだろう。立派なものである。ジャックスはそれより少し慎ましやかでCくらいか。
ヴィエラは……アイサ以上ジャックス未満ってところか、仮でBとしておこう。
そしてシャルだが……なっ!? アイラより!? 腕で隠しているが、そのボリュームが覆いきれていない。
「父さん、母さん……俺を生んでくれてありがとう。」
死んで終わっていてはこんな光景を目にすることは出来なかっただろう。俺は改めてこの世界にいる両親。そして地球にいる両親に感謝した。
「ボウズ……」
「コウ……」
だがそんな感謝の気持ちも束の間。イガさんとアランから殺意の波動を感じる。はっ!? そういえばこの中には二人の……
逃げようと思ったが、女性陣からも異常な殺意の波動を感知した。それにしても一人も悲鳴も上げずにこちらを睨むとは、やはりこちらの世界の女性は逞しいということか。
「いや、ちょっと熱いから風でも起こそうと思って……」
それにしても苦しい言い訳である。
「お父様。この場で起こったことは他言無用に存じます。」
「うむ、ミリシアよ。王の名において命ずる。」
え、なんで王モード?
「こやつを生きて返すなあああああああああ!!」
襲い来る無数の攻撃の数々。ちょっ! 誰刃物持ち込んだの!? 死ぬ死ぬ。死んでまう。
「ごめんなさああああい!!」
結局その日は記憶が飛ぶまで頭をぶっ叩かれ、壁の修理を命じられた。もちろん一人で。
だが俺はあの日のことは忘れない。絶対にだ。
さて次から新展開ー
と行きたいところですが、まだ1個残ってますね。




