契約
昨日書けなかった分一気に書きました。ちょっと長いです。
「さて、改めて名乗ろうかの。ワシの名前はレイン、元魔族じゃ。こっちの娘はサニーじゃ。恐らく人族だとは思うが、なにしろ本当の親の顔も見たことはないでな。確かなことは言えん。尻に反して胸が残念な娘じゃよ。」
「ジジイ、今すぐ死ね!! 全く、大事な話なんでしょ? 私は席を外すからね!!」
サニーがプリプリしながら行ってしまう。なんでこうこのジジイはこうセクハラに走るんだろうか。
「俺はコウ、父さん達のことは抜きにして、俺自身は魔法師で冒険者だ。一応一回死んだ経験もある。」
「なんじゃそりゃ。それは例えば話かの? それとも本当に死んで生き返ったとでも言うんかの?」
『コウ、それは僕も初耳だよ。その辺りを詳しく説明してほしいな。』
「分かった。じゃあまずはそこから話そうか。」
まだ熱いお茶を啜りながら切り出す。あれ? これって日本茶の味?
「ああ、その茶が珍しいかの? それは昔ムラクモが故郷から持ってきたと言う茶葉での、この辺に撒いていったんじゃが上手く育ったようじゃからワシも愛飲しとるよ。ムラクモと関係があるのならお主の口に合うと思うての。」
なるほど、となるとやはりムラクモというのは村雲師範で間違いない、か?
「納得だ。俺は最近までこのお茶を飲んでたからな。そうなるとやっぱり、というところもあるから順を追って話すよ。」
とは言っても全部が全部話しても意味はないだろうから、ちょっと巻きでいこうか。
「まず俺は元々このアクリスで生まれた。その時は父さん達とは関係ない。元冒険者の両親の元で生まれたんだ。名前はどういう偶然か今と同じ、コウ=キサラギという名前でね。」
今にして思えば名前が一致するってのは偶然だったのか。それとも今この状況があるように何かしらの背景があるんだろうか。
「俺と同じ日に生まれた幼馴染みのアランって奴がいて、そいつが聖剣に選ばれた勇者となって、俺は勇者と旅を同じくする魔法師として魔王討伐の任を受けた。その時の魔王ってのがヴィエラな。」
「ほう、ヴィエラ嬢ちゃんまで関係しとったか。それに聖剣とは、もしかしたらストームが持っておった剣かもしれんのう。ビゼンほどではないにしろ、アレも少なからず精霊の恩恵を受けた武器じゃ。持ち手と相性さえあえば加護が受けられるはずじゃからな。」
「あ、じゃあ元勇者が使っていた武器ってのは本当だったのか。確かに身体能力が飛躍的に向上したりとかスゴかったな。」
『まぁでも僕ほどじゃないけどねー。』
おい、そこいちいち張り合うのか。
「で、魔王。つまりはヴィエラだな。数年旅してやっと辿り着いたら話をしようっていうんだからアテが外れたよ。」
「嬢ちゃんは元々姉好きの甘えん坊じゃったからのう。それも納得じゃ。」
『いつもヴィオラにくっついてたもんね。おかげでクラウドが嫌われてたみたいだけど。』
なんだよアイツ偉そうな口聞くと思ったらシスコンだったのか。あ、でもあのローブがなければなんとなくそれっぽいイメージはあるかもしれん。
「で、ヴィエラと話をしていたら乱入してきた奴がいた。そいつが二人も知っているフラッグだったんだ。フラッグはアランの聖剣のことを楔と呼んでたけど、これについては何か知ってるか?」
「ふむ、楔か。確かに知っておる。」
『僕もその内の一つだしねー。』
おい今なんつった。
「おいビゼン、それってお前も狙われるってことか?」
『多分ねー。とは言っても僕の力のことを考えたら多分最後になると思うよ。さっきのコウとの戦いで結構手酷い目にあってたみたいだし? 僕が目覚めたと知ってもコウの実力を考えたら、先に他の楔を狙うだろうからすぐには来ないんじゃないかなぁ?』
「ビゼンの力ってそんなに凄いのか?」
『ちゃんと契約すればって条件付きだけどね。残念ながらクラウドは剣術も魔法もてんでダメだったから、僕と契約してもただの話し相手程度にしかならなかったけど。』
父さん……酷い言われようだな。
「口を挟むようですまぬが、その楔について説明しておくとしようかの。恐らくはお主の役に立つ情報やもしれん。」
「ああ、頼む。」
自分が狙われるかもしれないんだったら知っておいて損はないだろう。
「まず楔というのは全部で五つじゃ。ワシも含めて、クラウド達が持っていた武器それぞれが奴の楔として機能しておる。まずはビゼン、お主が持っておる刀じゃな。それからストームの持っておった聖剣テンペスト。次にヴィオラが持っておった聖杖ハープ。ヴィエラが持っておった魔杖アクオス。最後にワシの愛剣でもある魔剣サニーちゃんじゃ。」
随分魔剣らしからぬ名前だな。つか聖剣と魔剣の名前が逆くさいのは気のせいだろうか。
「っていうか娘の名前に魔剣の名前付けるなよ!!」
「何を言うか! ワシの一番大事な名前じゃぞ!!」
うーん、捉えようによってはそうなるのか。認められるような認められないような、ちょっと複雑な気分だ。
「話を続けるぞ。フラッグが乱入してきて俺達を攻撃してきたんだが、なんとか命がけでフラッグの注意を集めて、ヴィエラの手助けもあって俺以外は逃げることが出来た。その時に聖剣、テンペストだったか。はフラッグに折られてしまって、俺も命を落としたんだ。」
「なるほどのう。よくフラッグを相手になんの備えもなしに逃げることが出来たもんじゃの。」
「なんか俺の魔法に興味を惹かれたみたいだったな。それで機嫌が良くなって見逃してくれたってところみたいだけど。」
『多分それテンペストを折ったからだと思うよー。確かアイツは封じられた力を解放する度に長い眠りにつく必要があったはずだもん。特に一番最初の解放だったんなら実際には結構きつかったんじゃないかなぁ。』
な、なんだってー。つまり逆に言えばチャンスでもあったってことか?
「まぁそうは言っても堕ちたとは言え神じゃからの。逃げて正解じゃろう。話を続けてくれんかの?」
「あぁ、それで俺は死んだ。ただその時にヴィエラも俺に興味を持ったらしくて、死ぬ寸前に自分の力の欠片を俺に分けてくれたんだ。それで助かったわけではないけど、俺は前世の記憶を持ったまま生まれることが出来た。」
「それがクラウドとヴィオラの子である、今のコウというわけじゃな?」
「そういうこと。ただし一個だけ補足がある。俺が生まれたのはこの世界じゃない。地球っていう別の世界だったんだ。」
「む? ということはクラウド達は別の世界におるということか?」
「人違いでなければ。まぁ今までの話を統合すると十中八九間違いなさそうだけどね。」
『そっかぁ。クラウド達は別の世界にいるのかぁ。道理で僕との契約も切れてたはずだよ。僕はこの世界の精霊だし、違う世界じゃ色々条件も違ってくるはずだしね。実際僕が今まで眠ってたのがその証拠かな。』
まぁ実際魔素がないに等しかったからな。精霊が魔素を糧とするなら、活動出来なくても当然なんだろうし。
「俺はその地球で村雲師範とイガさんっていう人と出会って、幼い頃からずっと剣術に打ち込んできた。そのかたわらで魔法の練習をしてたんだけど、魔素が薄すぎてちっとも魔法は発動出来なかったんだ。ヴィエラ曰く、そのおかげでずーっと魔法を発動し続けられる状態になったから、魔力の器が異常な増え方をしたって言われたけど。」
『なるほどねー。コウの異常性はそれが原因だったのか。ちょっと納得だよ。』
「しかし別の世界におるとは意外じゃったのう。ワシはてっきりフラッグとの戦いで命を落としたものとばかり思っておったが……まあ生きておるなら何よりじゃ。もう会えることはないかもしれんが、の。」
レイン爺さんが少し寂しそうに言葉を切る。そうだよな。生きているとわかっても別の世界にいるんじゃぬか喜びみたいなもんか。結局は会えないんだし。
「まあなんとか戻る方法を考えてみるよ。その時にはレイン爺さんも一緒に来ればいい。」
「そうか、そうじゃの。お主はその世界から来たんじゃったの。ならばその時にはお願いしようかの。」
完全に口約束だが、今はこれでいいだろう。俺もせめて一回は戻りたいし、戻る方法を考えるというのは嘘じゃない。
「で、後はつい最近の話なんだけど、二十歳の誕生日に父さんとイガさんと酒を飲んでたらアクリスに引っ張られたんだ。ヴィエラが自分の力を回収するっていうやり方でね。」
「なるほどのう。そういうやり方があったのか。まぁ嬢ちゃんにとっても賭けみたいなもんだったじゃろうがな。」
『世界を渡る方法なんて考えたこともないからねー。ヴィエラも暇だったんじゃないかな?』
随分な言いようだな。でも否定出来ないのが残念魔王のヴィエラらしいか。
「で、あとは王都で昔の仲間に再開出来て、少し隣町まで足を運んでいる途中に魔族が王都を襲撃していると伝令があって、俺が一番に王都に駆けつけたんだ。そしたらアイツがいて戦闘になった。なんとか片腕を消滅させるまでは痛めつけたんだけど、俺も魔力がほぼ尽きて殺されかけたところでビゼンが目覚めて、アイツが逃げていった。その後何故か俺までビゼンに転移させられてここにいるってわけ。」
「理解したぞい。長いこと話させてすまんかったの。」
『それにしてもコウって滅茶苦茶だよね。』
唐突になんだこの刀は。失礼な。
『だってさー、一回死んで生まれ変わって戻ってくるだけでもおかしいのに、さっきの戦いではフラッグに手傷まで負わせてたでしょ? 普通人間が神と対峙して精霊の加護もなしに戦えるなんて聞いたことないよ?』
「あれ? そうなのか?」
『あのね? 人が及ばないところにいるからこそ神なんだよ? 神殺し、なんて成し得た人間なんて見たことないし、そもそも真っ向からぶつかろうとする人間なんて、それこそクラウドとコウくらいのもんだよ。』
「なら親子だからってことにしといてくれ。俺は別にフラッグを殺しに帰ってきた訳じゃない。」
「ふむ? 違うのかの? 先の話を聞く限りでは、お主が戻ってきたのは嬢ちゃんに引き戻されたからとは言え、目的があるとすればフラッグへの復讐ではないのかの?」
まぁそれもないとは言えない。実際再開した時には憎悪したからな。
「うーん、それもあるけどどっちかっていうとついで、かな? そもそも死ぬ前に次に会ったらデートしようぜって言った娘がいるんだよ。それにヴィエラとも話し相手になるって約束しちゃったし。目的っていうならまずはその約束かな。」
「ほっほっほ!! そりゃあいい。神がついでとはの!!」
『本当人間って面白いよね。僕から見たらとるに足らない約束なんだろうけど、きっと君にとって生まれ変わって、世界を渡るほどの結果をもたらすほどの物なんだろう? コウ、僕は改めて君が気に入ったよ。どうだい? 僕と契約してみないかい?』
おっと唐突だな。別に俺は魔法少女になるつもりはないんだが。
「父さんとの契約は? さっき切れたとは言ってたが問題ないのか?」
『うん、完全に切れちゃってるみたいだね。まあ僕は元々クラウドに作られた存在みたいなもんだし、クラウド専用みたいなところはあったけどね。ただ同じ血を引くコウなら相性はいいと思うんだ。そしたらフラッグとももっと戦えると思うよ。』
「なるほどな。でも精霊と契約なんて、代償とかあるんじゃないか?」
『僕達精霊が契約の際に求める代価は君達人間が取り込む魔素だよ。その辺の微精霊が群がってくるわけじゃなくて、僕が食べる量とか決めるからね。もしかしたら行使する魔力量によっては今までよりも際限がなくなるかもしれないけど、基本的には魔力変換の効率は上がるはずだよ。』
つまりもっと大きい魔法が使えるようになるかもしれないし、通常の魔法を使う分には燃費も良くなるってことか。それに父さんに再会出来たらビゼンと話が出来た方が喜ぶかもしれないし、特に断る理由もないな。
「わかった。なら契約しよう。で、どうすればいいんだ?」
『僕がコウの魔力に干渉するから、コウはそれを受け入れてくれるだけでいいよ。逆に拒絶されちゃうと契約したくないっていう合図だからね。』
「了解、じゃあやってくれ。」
後回しにする意味もないし、今この場で契約してしまってもいいだろう。
『じゃあ行くよ。--我が名はビゼン。精霊の盟約に従い、我はコウ=キサラギを主と認め、其の存在が滅する時まで力を与えよう。我は風。我は炎。そして鋼を司る精霊なり。』
風と炎か。俺との相性も良さそうだけど、鋼ってなんだ? そんな属性あるのか?
「う、お。」
思考したのも束の間。体内で魔力が荒れ狂う。なんだこれ、何もしてないのに魔素が取り込まれて……
『風は縛られず、炎は象られず。鋼は万物を創造する。主よ、我が名を呼べ。そして契約の言霊を、形を、我に与えよ。』
言霊? 形? 名前を呼んで姿をイメージしろってことか? おいおいそういうのは先に言え先に。
「精霊よ。我に従いて力を与えよ。汝の名はビゼン、奔放なる鋼の精。ビゼン!!」
何故か魔法を詠唱するように、口から半ば自動的に言霊が紡がれる。あぁでもまだ姿のイメージが。えっととにかく強そうなやつ……龍か? 虎か? 角が生えてた方が強そうか? でもビゼンの話し方ってなんとなくトロくさいイメージもあるんだよなぁ。っていかんいかんこんなことを考えてちゃ。
『確かに言霊は受け取った。我は汝の言霊を喰らい、姿を成そう。』
「ちょ、ビゼンちょっと待って。まだイメージが!!」
最後にイメージしたのは間延びした口調で話をするビゼンと、なんとなく強そうだと思ってしまった角。これは何か嫌な予感がする。
『我が名はビゼン!! これにて契約は成った!!』
その言葉と同時に辺りが光に包まれる。
そして光が収まった頃、いつも通り刀の姿をした備前と、そのすぐ側に浮いている精霊の姿があった。
『コウ、お疲れさま。これで契約は完了だよー。あとこれからは僕もこうやって姿を現すことが出来るからね。でもコウって僕のことこんな感じで考えてたの?』
「いや、なんというか……」
「コウよ、ワシが言うのもなんじゃが、これはちょっとないんじゃないかいのう。」
そこには額から角を生やした小さな羊が浮いていた。
--すごく……もふもふです。
はい、今日は土曜日で朝ひつじの○ョーンがやってたのでついついやってしまいました。
後悔はしていない。




