第三十三話 私は、自分の中の天使と悪魔のイメージ像に戸惑う。
「これが理由?」
八尺様のビッグサイズで揺れ方が激しいおっぱいを前に、男の性を抑えきれなかった愚かな私は、メリーさんの言葉を瞬時に理解できず、首を傾げてしまった。
「えぇ、そうよ」
苦々し気、しかし、どこか諦めきった表情のメリーさんが鷹揚に頷いたから、私はますます、困惑させられる。
つい、私は八尺様に視線を向けてしまうが、彼女の方も、自分がメリーさんに「お姉さま」と慕われる理由を知らないようで、小首を傾げていた。
「アの、すイません、意味がちょっと解らなかったんですけど」
「本当に解らないの、真宵君?」
「察しが悪くて、すイません」
自然と、最初のような敬語に戻ってしまった私に、メリーさんは「はぁぁぁ」と嘆息する。
「傷付いたわ」
「申し訳アりません」
メリーさんを不機嫌にしてしまった、と焦り、私はすぐさま、頭を下げようとする。
だが、メリーさんは、それに「STOP」と強い語調で発した。
「今、真宵君に頭を下げられたら、余計に、自分が惨めって言うか、小さい女って自覚させられるから勘弁して」
思わず、謝罪を重ねようとした私は、たまが「にゃん」と短く鳴いた事で、ハッとして、「すイません」をすぐさま、飲み込んだ。
(やべぇやべぇ、ここで謝るのは悪手だよな。
サンキュ、たま)
ナイスフォローをしてくれた愛猫に胸の内で感謝した私は、いくらか冷静さを取り戻せたようで、頭がメリーさんの言葉を解釈すべく、動き出した。
(・・・・・・ん、もしかして)
マスクを被っているから、私の表情筋から読み取る事は不可能に近い筈だが、やはり、都市伝説の住人は勘も鋭いのか、メリーさんは私が真相に到った、と勘付いたらしい。
「解ったの?」
「エっと・・・」
ここで、解った、と言ってしまうと、礼を失するのは確かだ。
けれど、解りません、と嘘を吐くのも、これまた、無礼だろう。
どっちがマズいだろうか、と悩んでしまう私の頭の周りを、天使と悪魔が飛び回る。
ただ、どういう訳なのか、その天使と悪魔は、私の姿ではなく、涼子ちゃんのコスプレだった。
天使の方は、頭の上にピカピカと光る輪っかが浮いており、背中からは大きな白い羽が生えている。
だけど、輪っかと白い羽、天使っぽいアイテムを装備している涼子ちゃんの服装は、乳白色のバスローブっぽい、ゆったりとしたものではなく、白スク水だった。
しかも、健康的に焼けている小麦色の肌に密着するほど、ピチピチの。
そもそも、先程、天使っぽい、と感じたアイテム、輪っかと白い羽にしたって、よくよく見れば、妙だ。
確かに、頭の上のそれは輪っかなのだけど、外周にはギザギザの鋭い突起が生えており、何と言うのか、丸鋸の刃だ。
(手裏剣、いや、チャクラムっぽいよな)
身体能力がズバ抜けている涼子ちゃんが、あの輪っかを投擲したら、大木どころか電柱、いや、鉄塔すら両断しそうだ。
背中の羽にしても、猛禽類じみた形状だ。
科学的に考えれば、鳥よりも遥かに大きく、重い人間が自前の翼で飛ぼうとなれば、背筋は逞しくなり、その翼も相当に大きいものになるだろうから、違和感は無いのか?
天使だけど天使じゃない、と思う理由は、それらだけじゃない。
死にかけた際、天使が迎えに来てくれた訳じゃないから、あくまで、私の勝手なイメージに過ぎないが、天使が持っている武器と言ったら、大体は、弓矢か長剣じゃなかろうか。
なのに、今、天使のコスプレをしている涼子ちゃんが掲げているのは、戦鎚だった。
片面は肉叩きのようにビッシリと棘で埋め尽くされていて、もう片方はツルハシ状になっているタイプの戦鎚だ。
その武器が、天使コスの涼子ちゃんに、似合っているか似合っていないか、で言うなら、相性はバッチリそう、と私は言うしかない。
基本的に、速さにステータスポイントを多く振っている涼子ちゃんだが、女の子にしては腕力もある方だ。
であれば、武器自体の重量と遠心力を活かして、敵の肉体を防具ごとぶっ潰せる鈍器とは相性が良い。
むしろ、技術がいる弓矢や長剣の方が、涼子ちゃんは使えないだろう。
そんな天使コスの涼子ちゃんは、私の右耳あたりでホバリングして、こう囁いて来る。
『真宵お兄ちゃん、正直に言えないなんて、ざこすぎ~』
(いや、何故に、メスガキムーブ!?)
一方で、もう片方の、悪魔コスをしている涼子ちゃんは、天使コスの涼子ちゃんより、ツッコミどころは少なかった。
悪魔コスの涼子ちゃんは、頭からはヤギ、いや、正確に表記するべきなら、バーバリーシープを思わせる、ゴツめの形状で、墨色の角を二本、生やしていて、背中からは蝙蝠っぽい翼を生やしているし、お尻からは先端が矢印になっている、1m半ほどの尻尾が生え、左右に揺れていた。
人によって、「悪魔」、この単語を聞いて思い浮かべる姿は様々だろうが、私の頭の周りを、背中のバットウィングをパタパタさせて飛ぶデビル涼子ちゃんは、ちゃんと悪魔っぽい。
まぁ、毎日の走り込みと筋トレで引き締まっている肢体の艶美さを、これでもか、と強烈にアピールするように、黒ビキニを装備している点は、ツッコむべきかもしれないが。
トップモデルばりのスタイルである涼子ちゃんには、確かに黒ビキニはピッタリの水着だ。
エンジェル涼子ちゃんに比べれば、違和感は皆無だ。
真由子さん譲りの美巨乳は、ギリギリで黒い布で隠されている。
割れ目がハッキリしている腹筋も、実にカッコいい。
下の方を確認したら、大殿筋が丸出しになった、ほぼ紐タイプだったので、そこには噴き出しそうになったが、セクシーなのは否定できない。
持っている武器にしたって、悪魔が持っている、農機具の鍬だった。
こちらも、さほどテクニックが必要な武器じゃない。
長さと重さが十分だから、適当に振り回していれば、近づいて来る相手をブッ飛ばせるし、尖端を力任せに突き刺すだけで良い。
良くも悪くも、ガンガンいこうぜスタンスの涼子ちゃんには適した武器じゃなかろうか。
実際に持たれたら、怖すぎるけども。
しかし、問題はそこじゃない。
悪魔らしい、と言えば、悪魔らしいのだけど、常に溌溂している涼子ちゃんを知っている私からすると、両瞳に澱んだ闇を携え、口元に媚びた笑みを浮かべているだけでなく、「エヘヘヘ」と自己肯定感の低さが如実に出た笑い方をされると、不気味すぎた。
そんな悪魔コスの涼子ちゃんは、私の左頬を鍬でチクチクと刺しながら、「人を傷付けない嘘ならアリですよ~」と惑わしてくる。
どうして、こんな涼子ちゃん達が出てくるのか、と自分の想像力のヤバさに辟易しつつ、私は決断する。
メリーさんに訊かれ、この結論を出すまで、約1秒ほどか。
私は、自分の頭の周りを姦しく飛んでいる天使コスの涼子ちゃんと、悪魔コスの涼子ちゃんを引っ込ませるように、パタパタと手を振った。
「何?」
「イエ、ちょっと、虫が飛んでまして」
私のつまらない誤魔化し方に、二人の涼子ちゃんは「キィィィィ」と怒り出す。
しかし、今はメリーさんとの対話の方が重要なので、私は二人を見えない手で捕まえ、頑丈な牢屋へ放り込み、自分の頭の中に押し込むイメージを行った。
それが功を奏したのか、幻覚は見えなくなり、幻聴も聞こえなくなった。
ホッとしつつ、私はまだ、ピンチを脱していない、と気を引き締め直す。
「ようやく解ったよ、メリーさん。
オ前が、八尺様を『オ姉さま』って慕ウ理由が」
「どうしてだと思うの?」
「オっぱイだろ」
「ぽっ!?」
私の口から出た単語に、八尺様は引っ繰り返った声を発す。
「はっきり言うわね」
「今更、ボカしたって、しゃアなイだろ」
「そうよ、おっぱいよ」
そう言い放ち、メリーさんは八尺様の爆乳に、嫉妬の色など、微塵も無い視線を注いだ。
やはり、これほどの破壊力を秘めたおっぱいを前にしたら、同性は妬む気など無くなってしまうのか。
もちろん、私はメリーさんに引っ張られず、八尺様のおっぱいを見ないようにする。
八尺様が頬どころか耳まで真っ赤にして、顔を俯かせ、胸部を手で隠しているのなら、尚更、異性の私が見る訳には行かない。
「ぽぅっ!?」
にも関わらず、メリーさんは私を揶揄うつもりなのか、八尺様が両手で覆い隠している爆乳のサイドを、指でぷにぷにと突いているのが、視界の端に見えてしまい、私も自分の目を手で覆いたくなった。
「確かに、私の本体は、作られてから100年は経過している人形よ。
でも、こういう存在になってからの時間は、お姉さまと大して変わらない」
真っ赤になっている八尺様の爆乳を指でグリグリと押しながら、メリーさんは言葉を続けている。
さすがに注意をすべきか、と思うが、恥ずかしくて何も言えなくなっている八尺様の色気が凄すぎて、もっと見たくなってしまう。
私のジレンマを知る由もなく、メリーさんは八尺様のおっぱいを、ついに揉み始めた。
「でもね、こんだけ大きいおっぱいを見せられたら、『お姉さま』と呼ぶしかないじゃない」
ここまで説明を聞いても、まるで理解できない私は、バカなんだろうか?
懊悩しながらも、私は、さすがに見ていられなくなり、八尺様を助ける事にした。
「さすがに、それはセクハラ案件だぜ、メリーさん」
「お姉さま、私におっぱいを揉まれるのは嫌?」
上目遣いに訊ねられた八尺様は、頬が上気し、ぷっくりとした唇から漏れる吐息も、実に艶めかしい。
前髪で隠されてしまっているが、きっと、両目も潤んでいるんじゃないだろうか。
「八尺様、嫌なら嫌って、ハッキリ言った方がイイですよ」
「ぽぇぽぇぽぉ」
「しょうがない。
ごめんね、お姉さま」
八尺様が、弱々しくも、しっかりと、自分で拒絶の意思を示したからだろう、メリーさんは名残惜しそうに、八尺様のおっぱいを揉むのを止め、手を離した。
ホッとしたのも束の間、メリーさんは、今の今まで、八尺様の爆乳を揉みしだいていた手を、私へずいっと突き出してきた。
「?」
「嗅ぐ?」
「!?」
「ぽあ!?」
「お姉さまのオッパイの香り、ちょっとは付いてるかもよ」
この時、私の心がグラリと揺れてしまったのは否定できない。
実際、私はメリーさんが突き出してきた右手に顔を近づけそうになった。
だがしかし、グッと踏み止まった。
八尺様は女性として、実に魅力的だ。
涼子ちゃん達とは違う意味合いで惹かれている事も、私は否定できない。
だからこそ、「友人」である八尺様が嫌がる事はしたくなかった。
「「!?」」
顔に穴を開けるような勢いで、私が自分の顔面に、ゴヅンッ、と拳をメリ込ませたものだから、八尺様とメリーさんは絶句した。
「イってぇ」
「何やってんのよ、真宵君」
「ぽっぽぉっぽお」
メリーさんは呆れ顔になり、八尺様は私の鼻血を止めるべく、テーブルの上のティッシュを取って、私の鼻を押さえてくれた。
「アりがとウござイます、八尺様。
後は自分でやりますんで」
私がそう言うと、八尺様は首を横に振り、私の鼻を押さえ続けてくれた。
「ぽいっぽ?」
「エェ、止まったよウです」
他人の鼻を押さえるとなると、それなりに体を接近させねばならない。
体を近づける、つまり、それは、おっぱいも近づく事になる。
目を閉じて、自分に迫っている爆乳を見ないようにする、その程度の良識は私も持ち合わせている。
ただ、困った事に、私は死にかけた事で、相手の気配を感知する能力が開花してしまっている。
皮肉にも、私は目を閉じた事で、より強く、八尺様のおっぱいの圧を、目で見ている時よりもハッキリと感じ取ってしまう。
おかげで、鼻血が止まらなくなるところだった。
いつまでも、鼻血が出続けたら、八尺様に気を遣わせてしまう。
心配そうにしている八尺様が揺らす爆乳の圧を肌に感じながら、私は鼻血が止まるイメージを思い浮かべ、血流の制御下に置く事を意識する。
人間、追い込まれた方が努力は実を結びやすいのだろうか。
どうにかこうにか、鼻血が止まった私は、それとなく、自分から離れる。
「大丈夫?
結構、凄い音がしてたけど」
「平気ですよ、これくらい。
心配かけて、すイません」
「・・・・・・」
「何だ、メリーさん」
ついつい、敬語に戻っていたからか、メリーさんが不機嫌そうな表情になっており、私は慌てて、同年代と喋るような感じに戻す。
だけど、メリーさんは眉を顰めたままなので、私は戸惑ってしまう。
「今日、会ったばかり、って言うか、そもそも、私は真宵君を殺しに来た立場だから、あんまり偉そうには言っちゃいけないんだろうけどさ」
「?」
「自分が何一つ悪くないのに、謝るのはちょっと違うと思うんだよね」
「ッッッ」
「え、何、いきなり噴き出して。
私、何か、おかしな事、言った?」
私が思わず、笑ってしまったからか、メリーさんは目に見えて狼狽えた。
そりゃ、そうだろう。
真剣に注意をしたつもりなのに、相手が可笑しそうにしたのだから、ビックリするに決まっている。
むしろ、不機嫌にならないのは、メリーさんの器が大きい証拠だ。
おっぱいの大きさで、八尺様に惨敗していたとしても、度量は大きいようだ。
「何か、めっちゃ失礼な事を考えてない?」
「イエイエ、とんでもなイ」
私は焦りながら、首を横に振った。
危ねぇ、と胸中で汗を拭いつつ、私は側頭部を掻いた。
「それで、私の言った事の何が面白かったの?」
「面白かった、と言ウかですね、身近な人にも同じ事を注意されてしまった事を、今、思イ出してしまったんです」
「ぽぅっぽぅっぽ」
「やっぱり、私以外からも注意されてたのね、そのクセ」
「成長できてなくて、情けなイ限りですよ」
わざとらしく、おどけた動作で肩を竦めた私に、八尺様とメリーさんは頬を緩めた。
「まぁ、人間、そう簡単には、悪癖を矯正せないものよ」
「面目なイ」
反省した私の頭を、八尺様は優しく撫でてくれた。
「あら、良かったわね、真宵君」
暢気に揶揄ってくるメリーさんに、私は微苦笑を返す。
八尺様の手は、成人している私よりやや大きく、その力も強い。
だが、八尺様は力のセーブが巧いようで、頭を撫でられても、そこまで痛くない。
まぁ、気恥ずかしいだけだ。
おっぱいが理由とは言え、メリーさんに「お姉さま」と慕われるのは、八尺様としても悪い気分ではなないらしく、私に対しても、お姉ちゃんムーブをかましてくる。
頭を撫でる、それが姉っぽい行動なのか、そこは判断に迷う所にしろ、悪い気分じゃないのは特に言及しないでおく。
(俺が黙って撫でられてりゃ、八尺様も気分を直してくれるだろうしな)
「じゃあ、そろそろ、お姉さま、真宵君の頭を撫でるのをストップして」
八尺様に私の頭を撫でるのを止めさせると、おもむろに、メリーさんが居住まいを正したので、私は自然と背筋を伸ばす。
「真宵君には、顔の傷について話して貰おうかしら」
「・・・・・・覚エてたのか」
下心は微塵も無かったにしろ、腕を揮った料理を食べた事で、メリーさんの興味を私の顔から逸らせたか、と期待していたのだが、考えが甘かったようだ。
メリーさんは、私から話を聞く気満々だ、と判るほど、両目を煌かせていた。
苦々しい笑みを浮かべた私に対し、メリーさんは真剣な表情を崩さない。
そのクセ、目はキラキラさせているのだから、困ってしまう。
「これからの事は解らないけど、少なくとも、今、私は真宵君の事を友達だ、と思ってるわ」
「嬉しイね、メリーさんに、そウ思って貰エるのは」
相手によっては、茶化されている、と捉え、怒りを露わにしかねない物言いだったが、メリーさんは不機嫌にならないでくれた。
「友達だからって、秘密にしてる事を話すのは違う。
私も、秘密を話させるのは、自分勝手だと解ってる。
その上で、私は真宵君が抱えている、その傷の苦しみを知りたいの」
いっそ、ここまでハッキリと興味を剥き出しにされたら、口を噤んでいるのもバカバカしくなる。
「繰り返しになっちまうが、大して面白イ話じゃないぜ、メリーさん」
「でも、私達に話す事で、自分でも気付いていない苦しみが減るかも知れないわよ」
「確かに」
肩を竦めた私は、おもむろに腰を上げた。
「ちょっと、キッチンに酒を取ってくる」
「え?」
「自分じゃ、とっくに乗り越エてるつもりだけどよ、さすがに素面で話したイ内容でもなイからさ」
スローライフ、と呼んでも差し支えない毎日だ、今は。
元より、ストレスを飲酒で発散する性質ではないし、酒をチビチビと飲んで、良い気分になれる時間は幸せだ。
昨今、アルハラへの当たりが強くなって、コンプライアンスが見直されていると言ったって、会社勤めをしている以上、飲み会に誘われる機会が皆無になる訳じゃない。
しかも、私は、他者への売り込みも担当する部署に所属していたから、接待をしたし、接待もされた。
なおかつ、こう言っちゃ自慢じみた感じになってしまうが、私は暮林良綱に気に入られていた。
いや、過去形ではなく、現在進行形で言うべきか、気に入られ続けている、と。
まぁ、そういう訳で、私は良綱さんに誘われ、様々なパーティーに出席する機会に恵まれていた。
大体、そう言うパーティーでは、高くて美味い酒で客を饗する。
値段が解かるほどの舌は持ち合わせちゃいない私でも、「この酒は美味くて、好きだな」とは感じはした。
なので、酒はそれなりに飲める。
遺伝もしくは体質なのか、それとも、経験で鍛えられたのか、そこは定かじゃないにしろ、酔いこそするが、その場で潰れたり、翌日、二日酔いで苦しめられた事は皆無だ。
死にかけてから、ますます、酒に強くなったのか、紅檎寺村の男衆に誘われて行った飲み会でも、私だけ最後まで、意識がしっかりと残った状態で、残り全員が死屍累々となるパターンも珍しくなかった。
酒の美味しさが解かるままで、アルコールへの耐性が強くなったのは、素直にありがたい。
せいぜい、容姿が人目に曝せない状態になっただけで、死にかけて、いや、あちら側に行って、こちら側に戻ってきた事で得た恩恵は大きく、多いようだ。
自分でも、まだ気付いていない恩恵があるのは、少し困ると言えば困るにしろ、そこにしても、ゆっくりと検証していけばいい。
時間は有限にしろ、どうも、私の残り時間は他の者より豊富そうなので。
とりあえず、私は椅子から腰を上げ、キッチンに向かおうとしたのだが、メリーさんが引き止めてきた。
「ちょっと、真宵君」
「何だよ、メリーさん」
今更になって、話さなくていい、と言うようなタイプじゃないだろう、メリーさんは。
だからこそ、私を引き止めた理由を察せなかった。
「この家、お酒があるの?」
「一応、自分用に、何本かはストックしてるよ、冷蔵庫に」
私がキッチンの方を指差しながら答えると、メリーさんは右手の人差し指を立ててきた。
「?」
「私にも一本、持ってきて!」
メリーさんの言葉に、私は固まってしまう。
「エ?」
動揺した私の口から漏れ出た間抜けな声に、メリーさんの方が戸惑いを見せた。
「いや、だから、私も飲みたいから、一本、ちょうだいって言ったんだけど」
「メリーさん、オ酒、飲めるのか?」
「はぁ!? 当たり前でしょ、真宵君、アンタ、私の事、何だと思ってるのよ」
態度が荒々しくなるメリーさんに対し、ビビりこそしないが、私は困惑を押し隠せない。
そんな私が、自分を上から下まで見てくる事に気付いたのだろう、メリーさんは眉を寄せた。
「あのねぇ、確かに、私は見た目こそ、超絶可愛いJKだけど、中身は人じゃないの。
人間は成人しないとお酒を飲んじゃダメだけど、人じゃない私に、そのルールが適用される訳ないでしょ」
言っている事は、まぁ、筋が通っている。
確かに、メリーさんは、れっきとした都市伝説の住人だ。
未成年でもないから、お酒を飲んでも、飲ませても、何ら問題がないかもしれなかった。
「分かったよ」
私が折れたからか、メリーさんは満面の笑みを浮かべた。
「ただ、さっきも言ったけど、基本的に、俺が一人で飲む分しか、冷蔵庫に入れてねェんだよ」
「良いわよ、真宵君が好きな銘柄を選んでからで」
「じゃア、そウするよ。
でもよ、メリーさん」
「何?」
「自分で、自分を、可愛イって言ウのはキツくねぇか」
「し、失礼ねぇっっ。
私は、実際、美少女でしょうが」
「まぁ、確かに、相当、可愛イとは思ウが」
私が、特に深く考えずに、どストレートで褒めたからか、メリーさんは怒った時とは違う色で顔を染めた。
「真っ直ぐ褒めるのは反則でしょうが・・・」
真っ赤になっている顔を手で覆い、俯いてしまうメリーさん。
そんなメリーさんの可愛さは、文字通り、人の枠に収まり切ってはいない。
(そう考えると、タイプは違うにしろ、メリーさんに負けないレベルの涼子ちゃんは、ガチで美少女だよな)
改めて、私は涼子ちゃんの可愛さを再認識する。
ちなみに、この時、涼子ちゃんは、鼻血が出るほどの勢いでくしゃみをしていたらしいのだが、それを、私は後に、彼女から聞かされる事になる。




