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第三十話 私は、八尺様とメリーさんに食べて貰うべく、夕食を作り始める。

 人だろうが、人じゃなかろうが、落ち込んでしまった時は、美味しいものを食べるに限る。

 浅はかだ、と言われようと、私は信じている、美味しいものには人を元気にするパワーが宿っている、と。


 (八尺様やメリーさんが、人の肉が好みの怪人だったら、ちょっと困るトコだったが)


 少なくとも、私は、八尺様とメリーさんが、ターゲットに定めた人間を攫ったり、傷付ける、と聞いた事はあっても、人肉を貪り喰らう、と聞いた覚えがない。

 であれば、「食べたいのは、お前だ!!」と言われる可能性は大いに低い。

 もし、仮に、そんな事を言って、メリーさんが襲い掛かってきたら、さすがに、私も全力で抵抗させて貰う。

 確かに、私は、涼子ちゃん達から、他人を優先しすぎ、と苦言を呈されているが、いくら何でも、ボクのお腹の肉をお食べ、と飢えている人外に言えるほど、無私無欲なヒーローにはなれないのだ。


 「冷蔵庫れイぞウこの中にアるモノで作れるなら、ウでを存分に奮イますよ」


 私がそう告げると、まだ困惑していたメリーさんは、少し考え込む素振りを見せた。


 「一応イちオウ、現時点では、シチューをメインにするつもりです」


 「シチュー?」


 「はイ、シチューです・・・ア、もしかして、オ嫌イですか?」


 私がやや焦ったからだろう、メリーさんはブンブンと首を横に振る。

 幸い、メリーさんは揺れるほどのモノを持っていなかったから、私は胸に視線を向けずに済んだ。


 「好きよ、シチュー」


 「そウだ、八尺様にも、イまウちに訊イてオきたイんですが」


 「ポ?」


 「オ二人は、シチューを食べる時、パン派ですか、米派ですか?」


 もはや、記憶もおぼろげではあるが、私の家では、シチューを米と一緒に食べていた気がする。

 カレーならともかく、シチューも米と一緒に食べるのは変わってるね、と涼子ちゃんには驚かれたものである。

 私を引き取ってくれた児童養護施設の『黄泉園』で提供されたシチューには、カットされたフランスパンが付けられていた。

 パンはパンで美味しいのだが、やはり、私は自分の家庭の味を、出来るだけ大切にしたかった。


 「私はパン派よ」


 八尺様を見ると、彼女は困ったように、首を傾げている。

 

 (しまった)


 どうやら、八尺様は米orパンの前に、シチューを食べた経験が無いようだ。

 よくよく考えれば、気付けた事なので、私は反省する。

 メリーさんは、アンティーク人形を思わせる洋装とは言え、その見た目は、普通に、上の上の美少女だ。

 人間に紛れ、人間の食べるモノを口にする事も可能だったのだろう。

 一方で、八尺様は、私の感覚からすれば、トップクラスの超美人だ。

 決して、おっぱいのデカさだけで、八尺様の容姿を高評価している訳じゃない。

 だが、やはり、八尺様にとってのネックは、その高身長だ。

 今時、男性よりも背が高い女性なんて珍しくはないにしたって、さすがに、八尺様のそれは度合いが違う。

 私の家に入る為に背丈を縮めてくれたとは言え、それは、この家が、背が高くなった私に対応した作りだからだ。

 外国からの観光客が小さいな、と感じる飲食店だと、八尺様は入店が厳しいだろう。

 

 (八尺様が、飲食店の残飯を漁ってるイメージも湧かないしな)


 そもそも、忘れそうになるが、八尺様とメリーさんは人外だ。

 私のような人間と違って、毎日、食事を摂らずとも、空腹を感じる事は無いのだろう。

 もっとも、空腹にならずに済んでいるのは、周りの人間から、死なない程度に生命エネルギーを吸っているからって可能性も否定できないが。

 何にせよ、私が八尺様を困らせる質問を不躾にしてしまったのは、否定できない事実だ。

 素直に頭を下げようとしたタイミングだった、メリーさんが「パンにして」と告げてきたのは。


 「ん?」


 「私は、シチューをパンで食べたいから、パンにして。

 お姉ちゃんも、パンで良いでしょ?」


 メリーさんは、八尺様に比べ、その体格は人間とさほど変わらない。

 しかし、その圧は、人外だな、と感じられるだけの、有無を言わせぬもので、八尺様は「ぽぽ」とぎくしゃく、首を縦に振った。


 「パンにしてくれるわよね?」


 ガッカリしなかった、と言えば噓になるが、相手の嗜好にケチを付け、自分の好みを押し付けるなど、絶対にやってはならない。


 「パンですね」


 (明日の朝用に、食パンを一斤、買っておいて正解だったか)


 本来であれば、バゲットかロールパンを用意すべきかも知れないが、今、手元に無いのだから、どうしようもない。

 だからこそ、工夫をすべきだな、と私は頭の中のレシピ集を検索する。


 (グラタンにしてみるか)


 以前、涼子ちゃんにせがまれて作ったパングラタンを思い出し、私はそれを調理しよう、と決める。


 (けど、それだと、少し足りないか)


 「オ二人は肉と魚、どちらがオ好きですか?」


 「お姉ちゃんは、どっちが好き?」


 メリーさんは、今、八尺様を半ば脅すような形で、パンにした事を負い目に感じているのか、こちらは、八尺様の好みを優先するようだ。

 

 「ぽ~~」


 しばらく、たわわな肉山の前で腕組みをし、悩んでいた八尺様だが、おもむろに、空中に絵を描いた。

 それは、簡素なデザインだったから、私は、すぐに魚だ、と理解できた。


 「魚ですね」


 「ぽぅ」


 「なら、私も魚にするわ」


 「苦手な魚はアりますか?」


 八尺様が首を横に振ると、メリーさんはちょっとだけ気まずげな表情を浮かべる。


 「メリーさんは、どウですか?」


 「苦手な魚は無いけど・・・・・・内臓は苦いから好きじゃないわ」


 恥を忍んで言う、そんな空気を出していたメリーさん。

 そんな彼女に、「プッ」と笑うほど、私は失礼じゃないし、クソ度胸も持ち合わせていない。


 (まぁ、魚の内臓ワタは、大人でも好みが割れるしな)


 食べられないから、味覚が子供っぽい、と評価するのは失礼な話だ。

 メリーさんの実年齢は判らないが、味覚に関しては味覚に準拠しているのかもしれない。


 「ぽっぽぽぽぃ」


 「にゃぉっぉん」


 対して、八尺様とたまは、魚は内臓も食べたいようで、好みが一致した事に喜びを感じているようだった。


 「えー、お姉ちゃん、好きなの・・・」


 その時、メリーさんは無自覚なのか、自分の胸に両手を持って行った。

 恐らく、八尺様が巨乳なのは、魚を内臓まで食べるからか、と勘繰ったのだろう。


 (メリーさんは、大きくもねぇが、小さくもねぇよな。

 良い意味で、平均的だ)


 今は、例のゴスロリ服ではなく、私のシャツを着ている事もあってか、それなりに、メリーさんのバストサイズはある程度、察せる。

 仮に、メリーさんの年齢を、おっぱいの大きさだけで判断するとなったら、大半の人は、女子高校生くらい、と答えるんじゃないだろうか。

 私は栄養学を修めている訳じゃないから、適当な事は言い控えるにしろ、さすがに、胸を大きく育てる何かが、魚の内臓にあるとは思えなかった。

 それこそ、涼子ちゃんは、内臓を除けて焼き魚を食べていたが、彼女の胸は糖度の高い西瓜、と表現できるほど、ビッグサイズだった。

 魚の内臓は関係なく、涼子ちゃんは巨乳になりやすい血筋で、なおかつ、毎日、よく食べ、よく動き、よく寝るからこそ、あそこまで攻撃的に育ったのだろう。

 だからと言って、ここで、自分と八尺様を比較して意気消沈しているメリーさんに、「魚の内臓は、おっぱいを大きくするのと無関係ですよ」とも告げられない私は、実にチキンだ。


 「では、魚料理にしますね」


 「ぽっぽ」


 楽しみにしている、と言わんばかりに、八尺様は頷いたもんだから、ダイナミックに揺れたおっぱいを見て、メリーさんはますます、凹んでいた。

 如何せん、居たたまれないので、私は質問を重ねた。


 「他に、苦手な食べ物はアりますか?」


 八尺様がプルプルと首を横に振ると、メリーさんも「ないわ」と、翳った表情と声で答えてくれた。


 (どんまい)


 これから成長するかもしれないぞ、と胸中で、メリーさんを励ましながら、私は二人に頷き返した。


 「一時間イちじかんほど、オ待ちくださイ」


 「何か手伝った方が良いかしら?」


 「アりがとウござイます。

 しかし、オ気持ちだけ、イただイてオきますね、メリーさん」


 「遠慮しなくていいのに」


 「イエ、オ二人は私が、ここに招イたもオなじ。

 オ客様の手を煩わせるのは、私の信義に反しますので」


 柔和な表情で、しかし、キッパリと言い切った事で、私が頑として譲らないのを感じ取ったのだろう、メリーさんは呆れ笑いを浮かべた。

 ほんと、美少女は凄いもんだ。

 そんな呆れたように笑っても、相手を、ドキッとさせられるのだから。


 「OK。楽しみにしてるわね」


 「オ任せ下さイ。

 美人と美少女びしょウじょに食べて貰エるとなれば、気合きアイはイりますから」


 意識せぬ私の返しに、八尺様とメリーさんは同時に頬を赤らめた。


 「ぽっぽっぽぉぉ」


 「そんな恥ずかしい事、よく照れずに言えるわね」


 メリーさんに指摘され、「あっ」と思いはしたが、ここで赤面したら情けないだけだから、「事実でしょウ、お二人の外見がイけんが、普通ふつウの人よりも優れてイるのは」と、半ば自棄になりながら、賛辞を重ねた。

 八尺様は、もう何も言えないのか、赤くなった顔を大きな手で覆い隠し、俯いてしまう。

 メリーさんも顔を赤いままにしていたが、何らかのプライドが働いたようで、「ふんっ」と、そっぽを向いてしまった。

 ややホッとしつつ、私は欠伸をしているたまに声を掛ける。


 「たま」


 「なぁん」


 「八尺様とメリーさんの相手アイてを頼む」


 「・・・・・・にゃぁん」


 「はイはイ」


 ちゃっかりしているたまに、私は肩を竦めた。


 (八尺様もいるし、たまがメリーさんだけを虐めるって事もないだろ・・・多分)


 「では、もウし訳アりませんが、30分ほど、たまのアそ相手アイてをオ願イします、メリーさん」


 「えっ、ちょっ!?」


 私は、思いっきり動揺しているメリーさんの言葉に、メニューを考えるのに集中し、聞こえなかったフリをして、さっさと部屋を後にしてしまう。

 メリーさんが、たまを怖がるのも致し方ない話だが、今後も、この家に出入りする事が多くなるのであれば、たまと仲良くなって貰った方が良いだろう。


 「さて、始めるか」


 涼子ちゃんが作ってくれたエプロンの紐を腰の辺りで縛ると、私は両手をしっかり洗って、冷蔵庫から材料を取り出していく。


 (メインはシチューグラタンだな)


 八尺様とメリーさんはパンを希望なので、食パンを使うが、やはり、私はシチューを米で食べたいので、自分の好みを押し通す。

 一から、シチューを作るとなったら大変だっただろうが、幸い、シチューは昨日に作り置きをしていたから、時間の短縮は出来た。

 なので、私は昨日の残りのシチューを火にかけ、温めていく。


 「先に、副菜ふくさイから始めよウ」


 私はミョウガを小口切り、青じそを千切り、エリンギの長さは4cmほどに切り揃え、加えて、縦四つに切っておく。

 鰺を三枚おろしにし、腹骨と血合い骨を丁寧に取り除き、こちらも四つに切った。


 「一応イちオウしオを振ってオくか」


 私だけなら問題ないが、八尺様とメリーさんに提供する以上は、手は抜けない。

 二人が鰺のクセを気にする場合を考え、塩は振っておいた方が良いだろう。

 切った鰺に塩を振った私は、10分の間に出来る事を進めておく。

 オーブンは予め、240℃にセットして、温めておいた方が良い。


 「わせダレは、梅肉ばイにく、酒、みりん、しょウゆにするかな」


 冷蔵庫にあった調味料で、私は合わせダレをサッと作る。

 鰺に塩を振ってから、まだ、10分が経過していないので、私は温まり始めたシュレッダーチーズを入れ、火にかけ続ける。

 続けて、一斤の食パンを半分に切ると、シチューを注げる深さに、くり抜いておく。

 食パンからくり抜いた部分に、近所の田辺さんがくれた桑の実から作ったジャムを塗って食べつつ、私はキャベツをざく切りにし、ベーコンを適当な大きさに切った。


 「皿はこれでイイか」

 

 キャベツを耐熱性の皿に入れたら、中央に卵を割り入れ、ベーコンとチーズを散らしておく。

 そこに塩、胡椒、オリーブ油をサッとかけたら、忘れずに、卵に箸で二カ所ほど穴を開けておく。

 ここで、卵を潰さぬように細心の注意を払いつつ、大胆に穴を開けておくのが大切なのだ、この料理においては。


 「電子レンジを600Wに設定せってイして、と」


 皿にふわっとラップをかけるが、この時、両端が開くようにしておいた方が良い。

 タイマーを1分30秒に設定し、スイッチをオンにし、その間に、鰺の調理を進める。

 しっかりと出た水分は、キッチンペーパーで拭きとると、サラダ油を熱しておいたフライパンで、鰺を皮目の方から焼いていく。

 イイ感じになってきたら、エリンギも加え、中火にする。


 「オっ、鳴った」


 電子レンジが鳴ったので、私は具合を確認する。


 「もウ一分イっぷんだな」


 私は皿を電子レンジの中に戻し、再加熱を始める。

 受け皿になった食パンへシチューを注ぎ込み、卵を割り入れて、シュレッダーチーズを振りかけた私はオーブンへ入れ、タイマーを5分にセットし、蓋を閉めた。


 「ウン、かオりだな」


 鰺の焼き色も香ばしくなってきたので裏返すと、合わせダレを絡めると、火を止め、ミョウガと青じそを散らした。

 ここで、火を止めるのは、ミョウガの食感、青じその香りが熱で損なわれるのを避けるためだ。

 鰺とエリンギ、ミョウガ、青じそをざっくりと混ぜてから、私は出来上がったそれを皿に盛りつけた。


 「・・・・・・ウーん、ちょっと足りなイか?」


 シチューを使ったパングラタン、鰺を使った香味焼き、キャベツとベーコンのレンチン蒸し。

 ここまで調理したメニューを思い返し、スープ系が欲しいな、と感じた私は、電子レンジでパッと作ってしまう事にした。

 用意するのは、トマトジュースと顆粒のコンソメ、卵、チーズ、オリーブ油だ。

 マグカップへトマトジュース、顆粒のコンソメを適量、入れて、そこに卵も落とす。

 やはり、ここでも卵に菜箸の先でいくつか穴を開けておき、マグカップにラップはかけないで、2分ほど、電子レンジで温める。

 2分後にチェックすると、良い感じなので、マグカップを電子レンジの中に戻し、卵が半熟になるよう、30秒ほど、追加で温めておく。

 もう一度、確認すると、卵はしっかりと半熟になっていた。

 だが、色味が気になってしまう、私は。


 (赤、白、黄色・・・緑が欲しくなるな)


 色合いもまた、料理を楽しむコツの一つなので、私は出来上がったスープに、乾燥パセリを軽く散らした。

 そのタイミングで、オーブンも出来上がりを知らせてくれた。

 

 「良し、出来上がり」


 食パンを皿にしたグラタンも無事に完成したので、私は自然と微笑んでしまう。

 何度か、涼子ちゃんにねだられ、このグラタンは作った事があるにしろ、毎回、成功するとも限らないので、いつも、出来上がりはドキドキしてしまう。

 時計を確認すると、調理に要した時間が45分と判った。

 たまが空腹状態でイライラモードに突入し、メリーさんをシバいている可能性も0ではないから、私はたま専用の皿にドライタイプとウェットタイプの餌、なおかつ、茹でた鶏のささ身を入れ、ダイニングへ真っ先に持って行く事にした。

 まぁ、ダイニングに到着したら、既に、たまが定位置で待ち構えているんだが。

 大体、どころか、毎回、たまは私が「ごはんだぞ」と呼ぶ前に、ダイニングに来ている。

 餌の袋または缶を開ける時の音が聞き落とさぬよう、耳を澄ませているのか、私がダイニングに向かう気配を察知しているのか、そこは判らないが、たまの食い意地が張っている、それは確かだ。

 毎度の事なので、もう、驚きもしないし、苦笑いを浮かべる気にもならないから、私は「オ待たせ」と告げ、尻尾で床をタンタンと叩いているたまの前に、餌を入れた皿を置いた。

 しかし、涎を口から垂らしそうになりながらも、たまは餌に喰らいつかなかった。

 普段は、私が皿を置くと同時に、物凄い勢いで食べ始めているので、私は「ん?」と首を傾げてしまう。

 どう見ても、たまは食欲不振ではない。

 食欲が無い状態なら、ここまで、餌を目の前にして、涎の池をここまで大きく作れないだろう。

 どうかしたのか、と訊ねようとした時だった、八尺様とメリーさんがリビングにやって来たのは。


 「あ、ホントにいた」


 「ぽぅっぽぽぽ」


 「お姉さまの言う通りだったわ」


 どうやら、八尺様とメリーさんはたまに置いてきぼりにされ、面食らったものの、八尺様は、たまがごはんを食べに向かった、と推測したらしい。 

 メリーさんは、八尺様の推測に対し、半信半疑だったが、一応、ダイニングに来てみたようで、たまが餌が盛られた皿の前で、ダラダラと涎を流しているのを目の当たりにし、驚きの表情を浮かべていた。


 「たまの相手アイてをしてイただき、助かりました」


 「大した事はしてないわ」


 「ぽっぽっぽっぽぉ」


 私が真摯に礼を述べると、照れたようにそっぽを向いたメリーさんと、そんな彼女の奮闘を見ていたからか、八尺様はメリーさんの下手な照れ隠しに、ニヤニヤを隠せていない。


 「あ、アタシたちに、あの猫の面倒を見させたんだから、美味しい物を調理つくったんでしょうね!!」


 八尺様が、自分がたまに翻弄されていた事を、私にバラすのを危惧したのか、メリーさんはツンツンとした態度で訊いてきた。


 「エェ、もちろんです。

 八尺様とメリーさんがご満足できるよウ、ウでを奮イ、料理りょウりしました」


 「ぽぉぉぉっぽ」


 「イエ、そんなオオくアりませんから」


 しかし、八尺様は私を手伝う気満々のようで、腕まくりをしてしまう。

 ここまでやる気を出されると断るのも申し訳ない。


 「では、オ手伝イしてイただけますか、八尺様」


 「ぽぉぅ」と、八尺様は自分の弾力性が抜群の乳袋を叩く。

 きっと、風呂場でガン見しまくった八尺様の爆乳を羨ましそうに見ていたメリーさんは、私の若干の同情が滲んだ視線でハッとし、こちらをギッと睨んできた。

 だが、ここで怒鳴ると、おっぱいが大きい八尺様に嫉妬の念を抱いている事を認めるようなものだ、と気付いたのか、メリーさんは下唇をキュッと噛み締める。

 巨乳の女性らしく、大らかな性格の八尺様は、メリーさんが自身の恵まれなさに落胆しているとは気付いていないようだ。


 「ぽ?」


 「何でもないの、お姉さま。

 ちょっと、アタシにも何か手伝わせて!!」


 半ば八つ当たりのように、メリーさんは私に荒げた声をぶつけてきた。

 しかし、先程、うっかり、八尺様の推定Iカップに憧憬の視線を向けていたメリーさんを憐れんでしまった負い目もあったから、私は文句を言えない。

 さすがに、あれは失礼だった、と反省した私は、メリーさんに何を手伝って貰おうか、と思案する。

 それなりの量は調理つくったにしろ、三人で運ばねば大変なほど多くはない。

 となると、今、メリーさんに私が頼めるお手伝いは、一つや二つくらいしか思いつけなかった。

 だから、私はダイニングに置いてある、八人用の大きいテーブルを指す。


 「では、このテーブルを除菌シートで拭イてオイて貰エますか?」


 「お安い誤用よ」


 「なぉぉん」


 「アと、つイでとっちゃアれなんですが、アそこも拭イてオイて貰エますか?」


 私が気まずげに指差したのは、どういう訳か、餌を未だに食べ始めていないたまの口から垂れ続け、床に大きく広がっている涎だった。


 「・・・・・・スゴっ」


 メリーさんは、驚きに、ありありと目をかっぴらいてしまっていた。


 「ぽっぽっぽ?」


 「多分ですけど、私達に気を遣って、食べるのを待ってイるんだとオもイます」


 「ぽぅ!!」


 「エェ、オ利口りこウさんですね」


 八尺様に、たまを誉めて貰え、私は自然と口元が緩んでしまう。

 もっとも、今、私はマスクを被っているから、八尺様とメリーさんは私が微笑んでいるとは解らないだろうが。


 「この子を待たせるのも可哀想だから、さっさと、ご飯を持ってきてよ」


 「はイ、オ待ちくださイ」


 若干、高圧的な物言いではあるにしろ、不思議と、私はメリーさんに対し、悪感情は抱かなかった。

 独自のルールで生きている都市伝説の住人に、人としてのモラルを説くのも違うか、そんな思いは土台にあるにしろ、メリーさんはたまの優しさに報いようとしてくれている。

 であれば、そこに眉を逆立てるのも、却って、人として恥ずかしいではないか。


 「それでは、八尺様、オ手伝イをオ願いします」


 「ぽぅっ」


 任せて、と言わんばかりに、やる気を出した八尺様の巨乳が、またしても、バルルンッ、と私を惑わすように揺れるのだった。

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