違和感 4
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「やりすぎですよ殿下。どうするんですか、これ。完全にパニックになってますよ」
叫び続けるレネーンを見て、コリンがやれやれと肩をすくめた。
ヒ素入りのお菓子を食べさせるとか、水に溶かしたヒ素を浴びせるとか、少し考えれば本気でできるはずないとわかりそうなものなのに、恐怖に支配されているレネーンの脳は正常に働いていないらしい。
「仕方ないね……」
本当はもう少し脅したかったが、地下は音が反響する。じきにレネーンの悲鳴を聞きつけて人が集まってくるだろう。これでは何のために兵士たちに命じて人払いをさせたかわかったものではない。
(まだ報復したりないけど、まあいいや。怖がらせすぎて壊したら証言させられなくなるし)
コリンがレネーンの両腕を背中で縛り上げて、足に力の入らないレネーンを、半ば引きずるようにして歩き出す。
コリンのあとを追って、サイラスが地下から一階に続く階段の前まで来たときだった。
「何事ですか⁉」
レネーンの悲鳴が上の階まで響いたのだろう。血相を変えて階段を下りてきた相手に、サイラスはこっそり舌打ちした。
「これはおばあ様。地下に何か御用でしょうか」
にこりと笑みを貼り付けて問えば、グロリアはサイラスと、そしてコリンが捕らえている、泣きじゃくっているレネーンを見て目を見張る。
「何を……しているのですか?」
「何を? 見てわかりませんか? これから罪人を父上の前に連行するところですけど?」
「罪人? 何を言っているの? その子は――」
「おばあ様」
サイラスは笑顔で苛立ちを隠すのをやめて、低い声でグロリアの言葉を遮った。
ただでさえ今、感情の針が振り切れそうなほどに腹が立っているのだ。これ以上イラつかせないでほしい。
「バンジャマンを使ってオリヴィアを襲わせ、メイドにオリヴィアの部屋にヒ素入りのお菓子を届けさせて、今、バンジャマンの口をふさぐためにヒ素入りのケーキを与えようとした。すべて未遂で終わっているからといって、何事もなかったことにはできませんよ」
「な――」
「それともあれですか? おばあ様も共犯ですか?」
「馬鹿なことを!」
思わずと言った様子で叫んだグロリアに、サイラスは一歩近づいた。
「違うのなら結構ですよ。ただ……もし、おばあ様が何かしら関係していると言うのならば、どんな手段を使ってでも、その首、僕がこの手で切り落としますから覚悟しておいてください。それから、レネーンをかばおうとしたって無駄ですからね。――行くよ、コリン」
「――――」
瞠目したまま立ち尽くすグロリアの横を、サイラスは無言で通りすぎた。
オリヴィアに危害を加えるものは、誰であろうとも容赦はしない。
(これでレネーンは退場だ)
サイラスの推測では、レネーンはグロリアともエバンス公爵とも関係のない単独行動だ。グロリアの表情を見る限り、その推測は間違っていなかったようである。
こうなった以上、グロリアがいくらかばい立てしたところで、レネーンはサイラスの婚約者候補から外れる。
(だけど、だからといって手を緩めるおばあ様じゃないことくらいはわかっているよ)
正直なところ、サイラスはグロリアの目的はレネーンをサイラスに縁付かせることだけではないと見ている。まだ何か企んでいるはずで――それはエバンス公爵と共謀していることなのか、単独であるのかは、まだはっきりとはわからない。
だがグロリアはこれで引き下がらないだろうことはわかるし、例えレネーンが退場したところで、すでにこれで話が終わるような問題ではなくなっている。
(ぐうの音も出ないほどやり込めるといいよオリヴィア。そうすれば、嘘でも君を馬鹿と呼ぶ人間は、きっとこの国からいなくなる)
サイラスでもチェックメイトしようと思えばできなくはないが、それではだめだ。
だから最後はオリヴィアの手で――
(君を馬鹿にするすべての人を、黙らせてやればいい)











