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the bleeding echo  作者: りず
3/6

写真の中の三人目

# The Bleeding Echo

## 第三章 写真の中の三人目


エリアスが図書館に到着したのは、電話が切れてから十八分後だった。


彼は入口をくぐるなり、ミラの姿を探した。見つけると、挨拶もせずに彼女の腕を掴んだ。


「見せてくれ」


「何を?」


「その新聞だ。エレノア・ヴェイルの記事」


ミラは鞄から、地下の資料室で見つけた記事の内容を写したメモを取り出した。


エリアスはそれを読むと、顔色を変えた。


「……やっぱり」


「何が?」


彼は答える代わりに、スマートフォンを取り出した。


「昨日、屋敷から帰ったあと、変なことがあったんだ」


「変なこと?」


「最初は、写真が一枚増えていただけだった」


彼は画面をミラに向けた。


そこには、古びた屋敷の外観が映っていた。夜の森。半分開いた正面扉。窓に差し込む月明かり。


間違いなく、二人が訪れた屋敷だった。


「これ、いつ撮ったの?」


「分からない。昨日の写真を整理していたら、突然見つかった。撮影時刻は……午前二時十三分」


ミラは画面を凝視した。


「私たちが屋敷にいたのは、そんな時間じゃない」


「分かってる」


エリアスは写真を横にスワイプした。


二枚目。


二階の窓辺に、黒いドレスの女が立っていた。


顔は見えない。長い髪が垂れ、窓の外を向いている。


「一人……?」


ミラが呟いた。


「次を見てくれ」


三枚目には、二人の女が映っていた。


背中合わせに立つ、同じ顔の女たち。


そして、その間には、ひび割れた黒いハート。


ミラは息を呑んだ。


写真の構図は、彼女が見た光景とほとんど同じだった。違うのは、写真の女たちが、窓辺ではなくこちらを向いていたことだった。


二人とも、まっすぐカメラを見つめている。


無表情の女。


泣いている女。


その瞳の奥には、何かを待ち続けているような暗さがあった。


「……この写真、誰が撮ったの?」


「だから、分からないんだ」


エリアスは声を低くした。


「俺は昨日、屋敷で写真なんか撮っていない。そもそも、あの窓辺には何も見えなかったんだ」


ミラは画面を拡大した。


黒いハートの亀裂まで、はっきり写っている。


そして、写真の右端。


彼女は指を止めた。


女たちの背後に、誰かが立っていた。


「エリアス。ここ……」


二人は画面に顔を近づけた。


三人目の人物。


白い服を着た少女が、二人の女の後ろに立っている。


少女の顔は、暗闇に半分隠れていた。


けれど、その輪郭だけで十分だった。


ミラに似ていた。


いや、似ているどころではない。


それは、ミラ自身の顔だった。


*


「加工じゃないの?」


ミラは自分でも信じられないほど冷静な声で尋ねた。


「俺も最初はそう思った。だから、別の端末に送って確認した。でも、どの画面で見ても同じだった」


「誰かのいたずらかもしれない」


「そう考えたいよ」


エリアスは写真を閉じた。


「でも、もう一つある」


彼は別の画像を開いた。


今度は、屋敷の廊下だった。


二階の窓辺に女たちが立ち、黒いハートが浮かんでいる。


その手前には、懐中電灯を持った人物の後ろ姿があった。


エリアスだった。


隣にはミラも写っている。


つまり、この写真は二人が屋敷にいたときのものだ。


しかし、撮影者が写っていない。


写真の構図は、廊下の奥から二人を正面に捉えたものだった。


誰かが、二人のすぐ後ろに立って撮影したとしか思えない。


ミラは背筋に冷たいものが走るのを感じた。


「……私たちの後ろに、誰かいた?」


「いなかった」


エリアスは即座に答えた。


「俺はずっとお前の隣にいた。廊下には、俺たち以外誰もいなかった」


「じゃあ、誰が撮ったの?」


「それを知りたいんだ」


ミラはもう一度、写真を見た。


二人の背後に立つ三人目。


その顔は、はっきりと写っていた。


白い服。


長い黒髪。


そして、ミラと同じ顔。


ただし、写真の中の少女は、ミラとは違う方向を見ていた。


彼女が見つめているのは、窓辺の女たちではなかった。


カメラの向こう側。


つまり、写真を撮った誰かを見ていた。


ミラは画面から目を離した。


「……この子、誰なの?」


エリアスは答えなかった。


そのとき、スマートフォンが震えた。


新しい写真が一枚、画面に表示された。


二人が操作していないのに、画像が勝手に開いたのだ。


写っていたのは、屋敷の窓辺だった。


女たちはいない。


黒いハートもない。


ただ、窓ガラスに一人の少女が映っていた。


ミラだった。


しかし、写真の中の少女は、今ここにいるミラよりもずっと幼く見えた。


彼女は白い服を着て、窓の向こうからこちらを見つめていた。


そして、ガラスの内側に、指で文字を書いていた。


**「あなたは、どちら?」**


ミラの喉が詰まった。


「消して」


彼女はエリアスに言った。


「今すぐ、その写真を消して」


エリアスは慌てて削除ボタンを押した。


写真は消えた。


だが、次の瞬間、同じ画像が再び表示された。


今度は、文字が変わっていた。


**「あなたは、私を覚えている?」**


*


二人は図書館を出た。


これ以上そこにいるのは危険だと、どちらも感じていた。


外は夕方になっていた。街はいつも通りで、人々は買い物袋を提げて歩き、車は信号に従って交差点を通り過ぎていく。


何も変わっていない。


それなのに、ミラには世界全体が、薄い膜一枚を隔てた向こう側にあるように感じられた。


「エレノアのこと、もっと調べる必要がある」


エリアスが言った。


「どうして?」


「彼女が亡くなった日と、俺たちの写真に表示された時刻が同じだ。それに、あの少女……」


彼は言葉を切った。


「俺たちが見たものと、写真に写っているものは、必ずしも同じじゃない。そこには何か規則があるのかもしれない」


「規則?」


「そう。もし、あの女たちが本当に存在しているなら、なぜ俺には見えなかった? なぜ写真には写った? なぜ、お前と同じ顔の少女がいる?」


ミラは答えられなかった。


彼の言う通りだった。


見える人と、見えない人。


一人に見える人と、二人に見える人。


そして、写真の中にしか現れない三人目。


それらが偶然でないのなら、何かが二人を選んでいるのかもしれない。


「……明日、もう一度あの屋敷に行こう」


ミラは言った。


エリアスは彼女を見た。


「本気か?」


「行かなかったら、何も分からないままだよ」


「行ったら、何か分かる保証もない」


「それでも」


ミラは、自分の手を見つめた。


あの黒いハートを見たときから、ずっと手のひらが冷たい。


何かを握っているような感覚がある。


けれど、手を開いても、そこには何もない。


「私、あの子を知っている気がするの」


「写真の少女を?」


「うん。でも、いつ、どこで会ったのかは分からない」


エリアスはしばらく考えてから、頷いた。


「分かった。ただし、今度は一人で動くな」


二人は別れ、それぞれの家へ帰った。


その夜、ミラは何度も鏡を確認した。


鏡の中には、自分しかいなかった。


窓にも、廊下にも、誰の姿も見えない。


時計は正常に動いていた。


午後十一時四十八分。


ミラはようやく安心し、ベッドに横になった。


目を閉じる直前、スマートフォンが震えた。


エリアスからのメッセージだった。


『写真が全部消えた』


ミラは起き上がった。


『全部?』


すぐに返事が届いた。


『最初の屋敷の写真も、三人目が写っていた写真も。昨日撮った普通の写真まで、何枚かなくなってる』


ミラは画面を見つめた。


『バックアップは?』


『残ってない』


少し間を置いて、もう一通。


『でも、一枚だけ残ってる』


添付された画像を開いた瞬間、ミラは息を止めた。


それは、屋敷の写真ではなかった。


図書館の窓を、外側から撮影した写真だった。


窓の向こうに、少女が一人立っている。


白い服。


長い黒髪。


ミラと同じ顔。


少女の背後には、黒いドレスの女が二人いた。


その間には、ひび割れた黒いハートが浮かんでいる。


写真の隅に、撮影時刻が表示されていた。


**二時十三分。**


そして、画像の下には、見覚えのない文章が添えられていた。


『三人目の記録を確認しました。』


その次の行を見て、ミラは指を止めた。


**『残り二人。』**


ミラはスマートフォンを取り落としそうになった。


三人目の記録。


残り二人。


いったい、誰が数えているのだろう。


そして、何が二人残っているというのだろう。


窓の外で、風が吹いた。


カーテンが揺れる。


ミラは、ゆっくりと顔を上げた。


窓ガラスに、自分の姿が映っている。


その隣に、もう一人の少女が立っていた。


白い服を着た、ミラと同じ顔の少女。


彼女は笑っていなかった。


泣いてもいなかった。


ただ、ミラの目を見つめていた。


そして、声もなく口を動かした。


――次は、あなた。


ミラが振り返ると、そこには誰もいなかった。


再び窓を見る。


少女の姿は消えていた。


しかし、ガラスの表面には、指先で書かれたような文字が残っていた。


**「一人目は、誰?」**

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