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転生したので田舎で錬金工房を始めます ~地味な生活用品を作っていたら、なぜか王都で大騒ぎになりました~  作者: レモンティー


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■第七話 工房を大きくしたら、私の仕事が増えた

「工房を大きくしよう」

翌朝。

内田沙樹は決意していた。

今の工房では狭すぎる。

浴槽を作る場所。

石鹸を作る場所。

シャンプーを作る場所。

入浴剤を作る場所。

材料を保管する場所。

完成品を置く場所。

全部を一つの建物でやろうとしている。

「そりゃ無理だよな……」

沙樹は工房を見回した。

床には木材。

壁際には魔法石。

棚には石鹸。

机の上には入浴剤。

そして奥には完成した浴槽が三つ。

「歩く場所すらない」

トーマが苦笑する。

「昨日なんて、俺が浴槽につまずいたぞ」

「ごめんなさい」

「いや、俺も悪い」

ガルドも頷く。

「このままだと、そのうち誰かが材料に埋まるぞ」

「それは困る」

沙樹は腕を組んだ。

「じゃあ、分けましょう」

「何を?」

「全部です」

まず、浴槽。

浴槽だけを作る場所を別にする。

次に石鹸やシャンプー。

こちらも専用の作業場を作る。

そして入浴剤。

最後に完成品を置く倉庫。

「……小さな工場みたいになるな」

トーマが言う。

「工房です」

「どっちでもいいだろ」

「私の気分の問題です」

沙樹は即答した。

その日の午後。

沙樹は町の不動産屋へ向かった。

「広い建物が欲しいんです」

「どのくらいです?」

「今の工房の三倍くらい」

「三倍?」

「はい」

不動産屋が驚く。

「何をするんです?」

「生活用品を作ります」

「生活用品?」

「石鹸とか、シャンプーとか、お風呂です」

「……お風呂?」

説明を聞いた不動産屋は少し考えた。

そして。

「ちょうどいい建物があります」

案内されたのは、町の外れにある古い倉庫だった。

以前は木材を保管していたらしい。

かなり古い。

壁には傷がある。

床も少し傾いている。

天井には小さな穴まである。

「……古いですね」

「その分、安いです」

沙樹は建物の中を歩き回った。

広い。

今の工房とは比べものにならない。

「ここなら使えそう」

「本当に?」

トーマが聞く。

「はい」

沙樹は床を見た。

「少し直せば大丈夫です」

翌日から改修工事が始まった。

床を補修。

壁を修理。

天井を塞ぐ。

水道を引く。

排水設備を作る。

そして、作業場所を区切る。

「ここが浴槽製造」

沙樹が指差す。

「ここが石鹸」

「ここがシャンプー」

「ここが入浴剤」

「ここは材料置き場」

「ここは完成品」

最後に。

「ここが休憩所」

トーマが笑った。

「そこが一番重要じゃないか?」

「そうです」

沙樹は真顔で答えた。

「働きすぎないために必要です」

そして。

新しい工房が完成した。

「……広い」

沙樹は入口に立って中を見渡した。

以前は狭かった工房が。

今では小さな工場のようになっている。

「これなら人も雇える」

そこで沙樹は求人を出した。

募集するのは、

製造補助。

瓶詰め作業。

包装作業。

材料整理。

清掃。

そして浴槽製造の補助。

翌朝。

工房の前には人が並んだ。

「……多い」

沙樹は目を丸くした。

十人。

二十人。

もっといる。

「仕事を探している人、結構いたんですね」

トーマが言う。

「うん」

沙樹は一人ずつ話を聞いた。

若い女性。

子育てを終えた女性。

木工職人。

元商人。

農家の息子。

薬草採取をしていた青年。

「薬草採取?」

沙樹が聞く。

「はい。森で薬草を集めて売っています」

「それなら、材料の調達をお願いできるかもしれません」

「本当ですか?」

青年の顔が明るくなった。

こうして。

新しい仕事が生まれていった。

材料を集める人。

材料を洗う人。

乾燥させる人。

加工する人。

瓶に詰める人。

包装する人。

倉庫を管理する人。

そして。

商品を店へ運ぶ人。

「……人が増えた」

沙樹は工房を見ながら呟いた。

最初は自分一人だった。

今では十数人が働いている。

「これ、本当に私の工房なのかな」

トーマが笑う。

「お前が始めたんだから、お前の工房だろ」

「なんか不思議」

「最初は石鹸一個だったのにな」

「そうでしたね」

沙樹は笑った。

しかし。

問題が発生した。

「沙樹さん!」

女性スタッフが慌てて駆けてきた。

「どうしました?」

「石鹸の仕上がりが違います!」

「え?」

沙樹が作業場へ向かう。

そこには大量の石鹸が並んでいた。

「こっちは香りが弱いです」

「こっちは少し柔らかい」

「こっちは色が違います」

沙樹は石鹸を一つ手に取った。

確かに違う。

「……なるほど」

今まで沙樹が一人で作っていたときには起きなかった問題だ。

人が増えた。

作る量も増えた。

だから品質に差が出始めた。

「これは困った」

沙樹は考えた。

そして。

「作り方を全部、数値化しましょう」

「数値化?」

「はい」

原料。

重量。

水の量。

混ぜる時間。

温度。

乾燥時間。

全部を記録する。

「この通りに作れば、誰が作っても同じになるようにします」

沙樹は新しい帳面を作った。

『石鹸製造記録』

材料。

植物油、一〇〇。

薬草水、三〇。

その他の材料、規定量。

混合時間。

温度。

乾燥期間。

「これでいい」

一つ一つの工程を決める。

そして完成した商品は検品する。

香り。

硬さ。

泡立ち。

見た目。

全部確認する。

「……思ったより大変ですね」

トーマが言う。

「そうですね」

沙樹も苦笑する。

「でも、これをやらないと、買ってくれた人に申し訳ないですから」

その日の夕方。

最初に作った大量生産分の石鹸が完成した。

沙樹は一つ手に取った。

「うん」

泡立ちも問題ない。

香りも一定。

硬さも揃っている。

「合格」

スタッフたちから拍手が起きた。

「やった!」

「全部同じです!」

「これなら安心して売れます!」

沙樹は少し照れながら笑った。

「よかった」

そして。

工房の外を見る。

夕方の町。

あちこちの家から煙が上がっている。

その中には。

沙樹が作った風呂を使っている家もある。

「……不思議だな」

自分が作ったものが。

町の人たちの生活の中に入っていく。

そのことが、少し嬉しかった。

しかし。

その夜。

商人がやってきた。

「沙樹!」

「今度は何ですか?」

「大変なことになった」

「……嫌な予感がします」

商人は大きな袋を机の上に置いた。

「隣町の商人から注文が入った」

「隣町?」

「そうだ」

「どれくらいです?」

商人は紙を広げた。

そこには大量の数字が並んでいた。

石鹸。

五百個。

シャンプー。

三百本。

入浴剤。

八百袋。

沙樹は固まった。

「…………」

トーマも固まった。

ガルドも固まった。

「これ……」

沙樹が震える声で言う。

「一週間で作れって?」

商人が頷く。

「そうだ」

「無理です!」

即答だった。

しかし商人は笑った。

「だから、人を増やすんだ」

沙樹は頭を抱えた。

人を増やした。

工房を広くした。

製造方法も標準化した。

これで少しは楽になると思った。

ところが。

工房を大きくした瞬間。

注文まで大きくなった。

「……」

沙樹は静かに天井を見上げた。

「もしかして」

「どうした?」

「私、商売の才能があるんじゃなくて……」

沙樹は小さく呟く。

「仕事を増やす才能があるだけなんじゃ……」

工房中に笑い声が響いた。

そして翌日。

内田沙樹の工房には、新しい看板が取り付けられた。

そこには大きく、

『内田生活工房』

と書かれていた。

沙樹は看板を見上げる。

「……いつの間にか、ちゃんとした名前まで付いちゃった」

こうして。

一人の少女が「自分の家にお風呂が欲しい」と思ったことから始まった小さな工房は。

少しずつ町そのものを変え始めていた。


挿絵(By みてみん)

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