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転生したので田舎で錬金工房を始めます ~地味な生活用品を作っていたら、なぜか王都で大騒ぎになりました~  作者: レモンティー


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■第四十七話 王国が豊かになりすぎた

「……また増えた」

沙樹は工房の倉庫を見ていた。

石鹸。

洗濯洗剤。

食器用洗剤。

清掃用洗剤。

業務用洗浄剤。

軍用衛生用品。

以前とは比べものにならない量だ。

「生産量、増やしますか?」

従業員が尋ねる。

「増やしましょう」

「どれくらい?」

「今の一・五倍」

「一・五倍ですか?」

「はい」

沙樹は注文書を見た。

王都。

東部。

西部。

南部。

北部。

さらに隣国。

どこからも注文が来ている。

「……売れてるなぁ」

「王国全体が豊かになっていますから」

「そうですね」

沙樹は笑った。

以前は。

石鹸を買うことすら贅沢だった地域がある。

今では。

家庭で普通に使われている。

学校にもある。

病院にもある。

軍にもある。

宿にもある。

飲食店にもある。

市場にもある。

工房にもある。

「生活用品って、地味だけど強いですね」

従業員が言った。

「地味?」

「はい」

「毎日使うからですよ」

沙樹は石鹸を一個手に取った。

「一個売って大儲けする商品じゃない」

「でも」

「毎日使う」

「なくなったら買う」

「家族が増えたら、もっと使う」

「店が増えれば、店でも使う」

「学校が増えれば、学校でも使う」

「病院が増えれば、病院でも使う」

沙樹は笑った。

「生活が豊かになるほど、必要になるんです」


同じ頃。

王宮では、別の報告が上がっていた。

「今年の王国総生産は、前年を大きく上回りました」

財務担当者が報告する。

「農業生産量は増加」

「加工産業も増加」

「商取引も増加」

「物流量も増加」

「人口も増加」

「税収も増加」

国王は資料を眺めていた。

「……これほどまでに変わるものなのか」

財務担当者が答える。

「一つ一つは小さな変化でした」

「だが」

「積み重なると、大きな変化になります」

農業が改善した。

食料が増えた。

保存できるようになった。

物流が改善した。

食料が安定した。

人々の健康状態が改善した。

働ける日が増えた。

商売が増えた。

税収が増えた。

税収が増えたから。

道路や水道を整備できる。

道路が良くなれば。

さらに物流が増える。

物流が増えれば。

さらに商売が増える。

商売が増えれば。

さらに税収が増える。

「まるで循環ですね」

「はい」

経済担当者が頷いた。

「以前は、何か一つが不足すると、国全体が止まっていました」

「今は?」

「不足した地域へ、別の地域から補えるようになりました」

「つまり」

「国全体が、一つの大きな市場として動き始めています」

国王は窓の外を見た。

王都の通りを。

荷車が走っている。

商人が歩いている。

職人が店を開いている。

子供たちが学校へ向かっている。

市場には食料が並んでいる。

「王国が……変わったな」


さらに数か月後。

隣国から使者がやってきた。

「我が国でも、衛生状態が大きく改善しました」

外交担当者が報告する。

「飲料水の管理」

「排水処理」

「ごみ収集」

「食品保存」

「学校衛生」

「医療施設の衛生」

「すべて改善が進んでいます」

「病気も?」

「減っています」

「どのくらい?」

「地域によって差がありますが、集団発生は明らかに減少しています」

使者は続けた。

「その結果、医療施設の負担も軽くなっています」

「働ける人も増えました」

「学校の欠席も減りました」

「商業活動も増えています」

「食料需要も増えています」

沙樹がいない場所でも。

仕組みは動いていた。

それが。

沙樹にとって一番嬉しいことだった。

「私がいなくても、できるんですね」

使者が頷く。

「はい」

「それなら良かった」

「沙樹様」

「はい?」

「隣国政府から、正式な感謝状を預かっています」

「いりません」

即答だった。

「え?」

「本当に?」

「はい」

沙樹は笑った。

「私がやったわけじゃないですから」

「しかし、最初の仕組みを作ったのは――」

「最初だけです」

沙樹は首を振る。

「そこから先は、皆さんがやった」

「だから」

「皆さんの国の成果ですよ」

使者は少し黙った。

そして深く頭を下げた。

「……分かりました」


数年が経った。

王国は。

かつてとは別の国になっていた。

食料不足はほとんどなくなった。

農業生産は安定した。

保存食が普及した。

物流網が広がった。

道路が整備された。

水道が拡張された。

排水処理施設が増えた。

ごみ収集が普及した。

衛生状態が改善した。

病気の発生は減少した。

学校が増えた。

病院も増えた。

住宅も増えた。

工場も増えた。

商店も増えた。

人口も増えた。

そして王国の税収は。

以前の何倍にもなっていた。

だが。

沙樹は。

「石鹸が足りない!」

工房で叫んでいた。

「注文が多すぎます!」

「隣国から追加注文です!」

「軍からもです!」

「学校からも!」

「病院からも!」

「ホテルからも!」

沙樹は頭を抱えた。

「……国は発展したのに、私の仕事だけ増えてない?」

従業員たちが笑った。

「それだけ必要とされているということですよ」

「嬉しいけど……」

沙樹は作業台を見る。

「今日は何を作る?」

「新しい洗濯洗剤です」

「よし」

沙樹は腕まくりをした。

「やりましょう」

国王が何を考えているか。

役人がどんな政策を作っているか。

隣国がどんな制度を導入したか。

そんなことは。

今の沙樹には、あまり関係なかった。

国は。

もう自分たちで動いている。

だから沙樹は。

自分の仕事に戻れる。

「もっと少ない量で汚れが落ちるようにする」

「もっと安くする」

「もっと使いやすくする」

「もっと安全にする」

そして「もっと楽に洗えるようにする」

沙樹は新しい試作品を混ぜ始めた。

王国では今日も。

新しい道路が作られ。

新しい学校が建てられ。

新しい倉庫が建ち。

新しい工場が稼働している。

農家は収穫を増やし。

商人は商品を運び。

職人は物を作り。

役人は政策を考えている。

王国はもう誰か一人が動かさなくても。

勝手に前へ進んでいた。

そしてその片隅で。

沙樹は今日も石鹸を作っていた。

「……これ、いいな」

試作品を眺めて。

沙樹は笑った。

国が豊かになっても。

やることは変わらない。

「さて」

沙樹は次の試作品を手に取った。

「もっと洗いやすくしよう」

王国の発展と。

沙樹の洗い物へのこだわり。

その二つは。

不思議なほど長く続いていった。

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