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転生したので田舎で錬金工房を始めます ~地味な生活用品を作っていたら、なぜか王都で大騒ぎになりました~  作者: レモンティー


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■第四十話 今の人口だけ見てはいけない

「十年後の人口を調べる?」

王都の会議室で、役人が首を傾げた。

「そんなことが分かるのですか?」

「正確には分かりません」

沙樹は答えた。

「予測するんです」

「予測……」

「人口は突然増えたり減ったりするわけじゃない」

沙樹は黒板に数字を書いた。

「今、二十歳の人が十年後には三十歳になる」

「十歳の子供は二十歳になる」

「五十歳の人は六十歳になる」

「つまり、今いる人たちは、そのまま年齢を重ねていく」

役人が頷く。

「当然ですね」

「だから人口だけではなく、年齢構成を見る」

沙樹は新しい表を作った。

『十歳未満』

『十代』

『二十代』

『三十代』

『四十代』

『五十代』

『六十代』

『七十代以上』

「この町を見てください」

海沿いの町。

現在の人口は一万八千人。

人口は増えている。

港は活気づいている。

漁業も好調。

倉庫も増えている。

税収も増えている。

一見すれば、問題はない。

しかし「二十代と三十代が多い」

「はい」

「四十代以上が少ない」

「はい」

「そして十歳未満も少ない」

役人が資料を見直した。

「……本当だ」

沙樹は続けた。

「つまり、この町は働き盛りの若者を外から集めている」

「そういうことになります」

「でも、その人たちが家族を作って、この町に住み続ける仕組みが弱い」

「……」

「今は人口が増えている」

沙樹は言った。

「だから税収も増えている」

「しかし十年後は?」

誰も答えなかった。

沙樹は黒板に書いた。

現在の人口

その下に。

将来の人口構成

さらに定着率

「この三つを見る」

役人が尋ねる。

「定着率とは?」

「町に来た人が、何年後もその町に住んでいる割合」

「なるほど」

「一年だけ住んで出ていく人と、二十年住む人では意味が違う」

沙樹は港町の資料を指差した。

「この町では、若者が仕事を求めて来る」

「そして?」

「数年働く」

「その後?」

「王都や大都市へ移る人が多い」

「なぜでしょう?」

「住宅」

「住宅?」

「単身者向けの部屋はある」

「でも家族向け住宅が少ない」

役人が資料を確認した。

「……確かに」

「学校も少ない」

「保育施設も少ない」

「医療も大きな病院はない」

「そして住宅価格が上がっている」

「人口が増えているからですか?」

「それもある」

沙樹は答えた。

「人が増えたから住宅需要が増える」

「住宅が足りない」

「家賃が上がる」

「若い夫婦が住みにくくなる」

「子供が生まれても、広い家に移れない」

「すると?」

「別の町へ移る」

役人は黙った。

「人口を増やすために若者を呼んだのに」

沙樹は言った。

「若者が家族を持った瞬間、住みにくい町になる」

「……皮肉ですね」

「だから人口政策は、入口だけ作ってはいけない」

沙樹は資料をめくった。

「出口まで作る」

「出口?」

「働く」

「結婚する」

「子供が生まれる」

「家族で暮らす」

「子供が学校へ行く」

「大人が働き続ける」

「年を取っても住める」

「その全部です」

会議室が静かになった。

これまで国が人口を増やすために考えていたのは。

仕事。

移住。

住宅。

それぞれ別々だった。

沙樹はそれを一つにつないだ。

「町を一つの生活圏として考えます」

そして新しい調査が始まった。

『地域生活継続調査』

人口だけではない。

住宅。

家賃。

食料価格。

水。

燃料。

学校。

診療所。

保育施設。

交通。

仕事。

平均通勤時間。

空き家。

子供の数。

若者の転出。

高齢者の転出。

そして「町から出ていく理由」

ここが重要だった。

沙樹は調査員に念を押した。

「『仕事がないから』だけでまとめないでください」

「はい」

「家賃が高い」

「学校が遠い」

「医療が不安」

「親の介護」

「交通が不便」

「給料が低い」

「職種が少ない」

「商店が少ない」

「冬の生活が厳しい」

「それぞれ分ける」

調査員は頷いた。

「理由を一つに決めつけない」

「そう」

「一人の人間が町を出る理由は、一つとは限らないから」

調査結果が出るまでには時間がかかった。

そして三か月後。

沙樹の机には大量の資料が積み上がった。

「……すごい量ですね」

調査員が言った。

「人口調査より大変だった?」

「はい」

「それで?」

「かなり面白い結果が出ています」

「聞こう」

調査員が一枚の表を差し出した。

「町を出る理由です」

一番多かったのは。

『住宅』

次に。

『教育』

その次が。

『医療』

そして『仕事』

沙樹は少し驚いた。

「仕事より住宅が上?」

「はい」

「しかも若い世帯ほど、その傾向が強いです」

「……なるほど」

仕事がある。

給料も悪くない。

でも。

住む場所がない。

学校がない。

病院がない。

だから出ていく。

「これは面白いな」

「面白い?」

「政策の順番が変わる」

「順番?」

「仕事を作る」

「人が来る」

「そこで終わりじゃない」

沙樹は黒板に書いた。

仕事

その隣に。

住宅

さらに学校

医療

交通

商業

「人が来た後に必要になるものを、最初から用意しておく」

役人が尋ねた。

「では、人口が増える前に住宅を作る?」

「全部を先に作る必要はない」

「では?」

「増える速度を見ながら作る」

「……」

「人口が千人増える予定だから、住宅を千人分作る」

「でも実際には三百人しか来なかった」

「そうなれば空き家が大量に残る」

「逆に?」

「予定より多く来たら住宅不足になる」

沙樹は言った。

「だから人口予測と住宅建設を連動させる」

「学校も?」

「学校も」

「診療所も?」

「診療所も」

「道路も?」

「道路も」

役人が唸った。

「全部つながっている」

「最初からつながっているんです」

沙樹は答えた。

「私たちが別々に見ていただけ」

その頃。

全国各地で同じような分析が始まった。

ある農村では。

人口が減っている。

しかし農地は余っている。

空き家も多い。

問題は仕事だった。

そこで周辺の農産物加工所を誘致した。

すると農家。

加工業者。

運送業者。

包装業者。

商店。

修理工。

さまざまな仕事が生まれた。

別の町では。

仕事はある。

だが住宅がない。

そこで空き家を改修した。

新築だけに頼らず、使える住宅を再利用した。

また別の町では。

人口は多い。

しかし水道と下水が不足していた。

そこでは衛生インフラを先に整備した。

するとこれまで住みにくかった地域に、人が戻り始めた。

そして全国人口調査の地図は、どんどん複雑になっていった。

「沙樹さん」

調査員が言った。

「一つ、妙なことがあります」

「何?」

「人口が減っている町なのに、税収が増えている町があります」

「……それは面白い」

「普通は人口が減れば税収も減りますよね?」

「普通ならね」

「ところが増えている」

沙樹は資料を受け取った。

町の名前。

産業。

人口。

税収。

土地利用。

物流。

すべてを確認する。

「……ああ」

沙樹はすぐに気づいた。

「企業が増えている」

「はい」

「人は減っている」

「はい」

「でも、一人当たりの生産額が増えている」

「そうです」

その町では。

人口は減った。

しかし農業の機械化が進んだ。

加工工場が増えた。

物流倉庫も増えた。

少ない人数で、以前より多くの商品を作れるようになっていた。

「人口が減る=必ず町が貧しくなる」

沙樹は言った。

「これも思い込みだね」

「では、人口を増やさなくてもいい町もある?」

「そういう場合もある」

「……」

「大事なのは、その町が必要な機能を維持できているか」

人口一万人を必要とする町もある。

五千人で十分な町もある。

二千人でも成り立つ町もある。

問題は。

人口の数字そのものではない。

その地域が必要とする人数と、実際の人数が合っているか。

沙樹は新しい指標を作った。

『地域適正規模』

町の産業。

農地。

住宅。

学校。

医療。

水。

道路。

物流。

それぞれを考慮して。

「この町には、どれくらいの人口が必要なのか」

を考える。

「人口を増やすための人口政策から」

沙樹は言った。

「地域を維持するための人口政策へ変える」

役人は資料を見つめた。

「……人口を減らさないことが目的ではない」

「そう」

「その地域が無理なく続いていくことが目的」

「その通り」

しかしその夜。

沙樹のもとへ王都から緊急の報告が届いた。

「……何?」

王都近郊。

人口三万人。

ここ数年、急激に人口が増えている。

商業も好調。

住宅も建設されている。

税収も増えている。

ところが。

水道使用量が予測を大きく上回っていた。

さらに

ごみ。

下水。

学校。

道路。

すべてで限界が近づいている。

「人口が増えすぎている……」

沙樹は立ち上がった。

これまで。

人口減少への対策ばかり考えていた。

だが。

人口が増えれば増えたで。

別の問題が起きる。

「増やせばいい、でもない」

沙樹は地図を見つめた。

「減らさなければいい、でもない」

人口とは。

ただの数字ではない。

人が増えれば。

水が必要になる。

食料が必要になる。

家が必要になる。

学校が必要になる。

ごみも増える。

道路も混む。

そしてついに沙樹は気づいた。

これまで作ってきたすべての仕組み。

水。

衛生。

廃棄物。

農業。

物流。

住宅。

産業。

人口。

それらは全部。

一つの問題につながっていた。

「町は、どこまで大きくなれるのか」

沙樹は王都近郊の地図を机いっぱいに広げた。

そして新しい調査項目を書き始めた。

『都市の収容能力』

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