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転生したので田舎で錬金工房を始めます ~地味な生活用品を作っていたら、なぜか王都で大騒ぎになりました~  作者: レモンティー


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■第三十七話 人が増えているのに貧しい村

「人口が増えているのに、税収が減っている?」

沙樹は報告書をもう一度読み返した。

数字だけを見ると、おかしい。

三年前。

人口二千八百人。

現在。

人口三千六百人。

約八百人も増えている。

ところが税収は減っている。

「この村、何が起きているんだろう」

沙樹は翌朝、村へ向かった。


村に到着すると、すぐに違和感があった。

人が多い。

以前の農村なら、昼間は畑に人がいる。

ところが、この村では若い人間が町の中に集まっていた。

荷物を抱えた人。

商店で働く人。

建物を建てている職人。

新しくできた食堂。

そして、

「宿屋が増えてる……」

三年前にはなかった宿屋が五軒もある。

「人が増えた理由は、仕事ですか?」

村長に聞く。

「はい」

「何の仕事が?」

「物流です」

村長は答えた。

「ここは王都と北部を結ぶ街道の中継地点になりました」

なるほど。

倉庫ができた。

運送業者が集まった。

商人が滞在する。

その結果、働く人が移住してきた。

人口が増えた理由は分かった。

だが、

「では、なぜ税収が減ったんです?」

村長は苦い顔をした。

「それが分からないのです」


沙樹は村の帳簿を見せてもらった。

税収。

人口。

商店数。

農地。

倉庫。

宿屋。

運送業者。

一つずつ確認する。

すると、ある数字が目に入った。

『農地面積』

三年前。

千二百ヘクタール。

現在。

八百ヘクタール。

「農地が減っています」

「はい」

「なぜ?」

「人が増えたからです」

村長は答えた。

「住宅を建てました」

「倉庫も建てました」

「街道沿いに商店も増えました」

沙樹は地図を見る。

「農地を潰して町を広げた?」

「……はい」

人口は増えた。

商売も増えた。

しかし農地が減った。

さらに調べると、

「食料を外から買う量が増えている」

ことが分かった。

「なるほど……」

沙樹は理解した。

人口が増えたことで、

食料需要が増える。

だが農地が減っている。

その結果、外部から食料を大量に買う。

物流は増える。

商店も増える。

人も増える。

ところが村の内部で生産される食料は減る。

「だから税収が思ったほど増えない」

村長が驚く。

「そんなことが……」

「あります」


さらに調査すると、もう一つ問題が見つかった。

住宅だ。

「この家、何人住んでいます?」

「四人です」

「こちらは?」

「二人」

「これは?」

「一人です」

沙樹は首を傾げた。

人口が増えているのに、

『空き部屋』

が大量にある。

原因は家賃だった。

新しく移住してきた人向けに建てた住宅が、

「商人向けの高級住宅」

になっていた。

普通の労働者には高すぎる。

そのため、

「人口は増えたのに、住民の生活費が上がっている」

村長は頭を抱えた。

「人口が増えれば豊かになると思っていました」

沙樹は答えた。

「人口だけ見てはいけません」

『人口』

だけではなく、

『住宅』

『食料』

『仕事』

『水』

『道路』

『ごみ』

『学校』

『医療』

『物価』

を一緒に見なければならない。


沙樹は村長に提案した。

「まず、村の土地利用を整理しましょう」

「土地利用?」

「住宅を建ててはいけない場所を決めます」

「農地」

「水源」

「洪水の危険がある場所」

「道路予定地」

「倉庫や工場を置く場所」

それぞれを分ける。

「全部を自由に建てればいい、というわけではありません」

「土地には役割があります」

そして、

「農地を守る」

だけでもない。

農業を続けられるだけの収益を確保する必要がある。

そこで、

農地。

倉庫。

市場。

住宅。

工房。

宿屋。

それぞれの場所を整理する。


次に住宅問題。

沙樹は商人たちを集めた。

「労働者向け住宅を作りませんか?」

「利益は?」

「家賃を低くしても、入居率が高ければ安定した収入になります」

「……」

「空室だらけの高級住宅より、常に人が住んでいる住宅のほうがいい」

不動産商人は考え込んだ。

「確かに」

そこで、

『労働者住宅』

『商人住宅』

『家族向け住宅』

と種類を分けることになった。

さらに水道。

共同洗濯場。

ごみ収集。

共同浴場。

最低限の生活基盤を住宅地に整備する。

すると、若い労働者が村に定着し始めた。


そして最大の問題。

食料。

農地が減った以上、以前と同じ量を村だけで生産することはできない。

だから沙樹は、

「村だけで全部作る必要はありません」

と言った。

周辺の農村と契約する。

この村は、

物流と加工を担当する。

周辺農村は、

穀物や野菜を生産する。

別の地域は、

家畜を育てる。

そして村の倉庫が、

それらを集める。

加工する。

保存する。

販売する。

「一つの村が全部をやる必要はない」

これも分業だった。

村長は地図を見ながら呟いた。

「農村そのものを、巨大な市場の一部にする……」

「そうです」


一年後。

村は大きく変わった。

人口。

三千六百人。

これはほぼ変わらない。

だが、

農地の減少は止まった。

新しい住宅は計画的に建てられた。

倉庫は増えた。

物流業者も増えた。

加工工房も増えた。

農家との契約も増えた。

そして、

「村の税収が戻りました」

村長が報告した。

「人口が増えたからではありません」

沙樹は言った。

「人口に合わせて、仕事と生活基盤を作ったからです」

村長は頷いた。

「人口という数字だけでは、町の状態は分からない」

「その通りです」


この事例は王都にも送られた。

そして、全国人口調査の項目が一気に増えた。

人口。

世帯数。

住宅数。

空き家。

農地。

商店。

工房。

倉庫。

学校。

医療施設。

水源。

道路。

物流量。

食料消費。

さらに、

『人口増減の理由』

まで記録する。

出生。

死亡。

移住。

転出。

仕事。

災害。

開拓。

「人が増えた」

だけでは不十分。

「なぜ増えたのか」

を調べる。

「そして、増えた結果、何が足りなくなったのかを見る」

沙樹はそう説明した。


全国から数字が集まり始める。

すると、また奇妙な現象が見つかった。

人口が増えている町。

人口が減っている町。

その両方で、

『空き家』

が増えていた。

「人口が増えているのに空き家が増える?」

王都の役人が驚く。

沙樹は資料を見た。

「若い人は新しい住宅へ移っています」

「古い住宅には?」

「住まなくなる」

「でも壊されない」

「なぜ?」

「持ち主が遠くに住んでいる」

「修理費がない」

「売りたくても買い手がいない」

沙樹は考えた。

これは、

『住宅の在庫』

だった。

物資には在庫管理がある。

食料にもある。

倉庫にもある。

ならば、

「家にも寿命と在庫の問題がある」

沙樹は新しい調査表を作った。

『住宅状態調査』

建物の年齢。

居住状況。

修理状態。

空き家期間。

所有者。

水道。

排水。

道路。

そして、

『再利用可能か』

「……家を管理するのですか?」

役人が尋ねた。

沙樹は頷いた。

「人が住む場所ですから」

そしてまた一つ、

内田生活工房の仕事が増える。

『住宅と地域インフラ』

だ。

しかし、その調査を始めた直後。

北部のある町から緊急報告が届いた。

『人口減少により学校の児童数が激減』

『商店の閉店が相次ぐ』

『空き家増加』

『水道維持費の負担増』

沙樹は報告書を読み終えると、

「……今度は逆ですね」

人口が増えすぎた町。

人口が減りすぎた町。

どちらも問題になる。

沙樹は王国地図を広げた。

「人が多い場所だけ整備しても駄目」

「人が減っている場所も考えないと」

そして地図上に、

人口増加地域。

人口減少地域。

と印をつけていった。

そこで沙樹は、あることに気づいた。

人口が減っている町には、

『仕事がない』

だけではなく、

『仕事はあるのに、人が来ない』

町も存在していた。

沙樹はその町の名前を指差した。

「……ここ、何があるんだろう?」

調査員が答える。

「昔から続く、巨大な鉱山があります」

沙樹は顔を上げた。

「鉱山?」

「はい」

「それなのに、人が減っている?」

「はい」

沙樹は地図を見つめた。

次の問題は、

『仕事があるのに人が集まらない町』

だった。


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