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転生したので田舎で錬金工房を始めます ~地味な生活用品を作っていたら、なぜか王都で大騒ぎになりました~  作者: レモンティー


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■第二十六話 商会とギルドに仕事を分ける

軍からの注文が増え始めていた。

普及石鹸。

洗濯洗剤。

食器洗剤。

掃除用品。

そして足部衛生用品。

内田生活工房には、毎日のように注文書が届くようになっていた。

「……作っても作っても終わらない」

沙樹は机の上に積まれた注文書を見て、頭を抱えた。

トーマが苦笑する。

「売れるようになったのは良いことでは?」

「売れるのは嬉しいよ」

沙樹は答えた。

「でも、私たちだけで全部作っていたら、そのうち工房がパンクする」

工房の職人たちは頑張っている。

しかし。

人間の数には限界がある。

鍋にも限界がある。

倉庫にも限界がある。

そして。

時間にも限界がある。

沙樹はしばらく考えた。

そして。

一枚の紙を取り出した。

「分業しよう」

「分業?」

「うん」

沙樹は紙に書き始める。

石鹸。

洗濯洗剤。

食器洗剤。

消毒用の衛生用品。

それぞれに必要な原料。

製造工程。

品質確認。

包装。

運搬。

販売。

「全部をうちでやる必要はないんだよ」

トーマが紙を覗き込む。

「でも、他の商会に製法を教えて大丈夫なんですか?」

「全部を教えるわけじゃない」

沙樹は首を振った。

「必要な範囲だけ渡す」

たとえば

石鹸なら

原料を作る商会。

油脂を精製する工房。

アルカリ原料を扱う業者。

石鹸を成形する工房。

包装する商会。

それぞれに仕事を分ける。

そして最後に。

内田生活工房で品質を確認する。

「つまり、部品をそれぞれ別のところで作るみたいな感じ?」

「そう」

沙樹は頷いた。

「一つの工房ですべて作るより、大量生産しやすい」

さらに「商会だけじゃない」

沙樹は別の紙を取り出した。

そこには、各職人ギルドの名前が並んでいた。

石工ギルド。

木工ギルド。

金属加工ギルド。

薬種商ギルド。

運送業者。

そして新しく衛生用品を扱う業者も必要になる。

「設備まで自分たちで作る必要はないからね」

沙樹は笑った。

「足洗い場の排水設備なら石工ギルド」

「容器なら金属加工ギルド」

「木箱なら木工ギルド」

「運ぶのは運送商会」

トーマが感心したように言う。

「……内田生活工房が工場じゃなくて、司令塔になるわけですね」

「そういうこと」

沙樹は頷いた。

そして最初の会合が開かれた。

商会の代表。

各ギルドの職人。

衛生担当者。

軍の関係者。

十数人が工房の会議室に集まった。

机の上には、何枚もの資料が並べられている。

「本日はお集まりいただき、ありがとうございます」

沙樹が立ち上がる。

「これから生活衛生用品の生産を、複数の商会とギルドに分担してもらいたいと思っています」

商会主たちが顔を見合わせる。

「つまり、仕事を分けると?」

「はい」

沙樹は資料を配った。

そこには

製品ごとの原料。

必要な成分。

配合比率。

製造工程。

検査項目。

包装方法。

保管方法。

などが整理されていた。

ただし軍用衛生液については、さらに厳格だった。

「この製品については、製造を希望する業者すべてに同じ品質基準を守ってもらいます」

沙樹が説明する。

「勝手に濃度を変更することは禁止です」

「粗悪な原料への変更も禁止」

「容器も指定品を使用」

「製造記録を残す」

「出荷前に検査する」

軍関係者が頷く。

「軍が使用する以上、品質がばらばらでは困りますからな」

「その通りです」

沙樹は続けた。

「だから、成分表と一緒に検査基準も渡します」

一人の商会主が資料を見ながら尋ねた。

「成分表まで公開するのですか?」

「はい」

「それでは、他の商会が同じものを作れてしまうのでは?」

「作れます」

会場がざわついた。

沙樹はあっさり答えた。

「むしろ、それでいいんです」

「……いい?」

「需要が大きすぎますから」

軍だけでも大量に必要になる。

さらに。

都市の住民。

農村。

学校。

宿屋。

飲食店。

病院。

工房。

船。

商隊。

衛生用品を必要とする場所はいくらでもある。

内田生活工房だけで全部を供給するなど、最初から無理なのだ。

「私たち一社だけで独占するより」

沙樹は言った。

「複数の商会が作れるようにしたほうが、安くなります」

商会主たちが黙る。

「そして、売れる市場そのものが大きくなります」

その言葉に。

商会主たちの表情が変わった。

「つまり……」

「原料を売る商会も儲かる」

「製造する工房も儲かる」

「容器を作る職人も儲かる」

「運ぶ商会も儲かる」

「販売する店も儲かる」

沙樹は笑った。

「みんなで分ければいいんです」

一人の商会主が手を挙げた。

「では、内田生活工房は何をするのです?」

沙樹は少し考えた。

そして「新製品の開発」

「品質基準の作成」

「検査方法の研究」

「製造工程の改善」

「そして」

沙樹は資料の最後のページを指した。

「新しい商品の設計です」

工房内に沈黙が落ちた。

つまり。

内田生活工房は、巨大な製造工場になるのではない。

新しい製品を作り。

製法を標準化し。

他の商会やギルドに仕事を渡す。

そして。

また次の商品を開発する。

その仕組みだった。

「なるほど……」

ギルド長が呟いた。

「一つの商品を売るのではなく、製造そのものを広げるのですな」

「はい」

沙樹は頷いた。

「そうすれば、私たちだけではできなかったことができます」

その日。

最初の分業契約が結ばれた。

原料商会。

容器製造業者。

包装業者。

運送商会。

そして各製造ギルド。

それぞれが担当を決める。

内田生活工房は、その中心で全体を管理する。

数日後。

工房の前には、大量の荷車が並んでいた。

原料が入ってくる。

空の容器が届く。

木箱が積まれる。

完成品が運び出される。

以前とはまるで違う光景だった。

トーマが呆然と眺める。

「……工房が町みたいになってます」

「私もそう思う」

沙樹は笑った。

しかしここで問題が起きた。

「沙樹さん!」

職人の一人が走ってくる。

「どうしたの?」

「別の商会から納品された原料ですが、前回と品質が違います」

沙樹の表情が変わった。

「検査して」

「はい」

しばらくして。

検査結果が届いた。

確かに。

同じ名前の原料でも品質にばらつきがあった。

「……やっぱり」

沙樹は資料を見つめる。

大量生産には。

別の問題がある。

「同じ製品を作るなら、原料も同じ品質じゃないと駄目だ」

そこで。

沙樹は新しい制度を作ることにした。

『内田生活工房規格』

略して。

「内規格」

だった。

原料ごとに。

最低品質。

純度。

水分量。

保存方法。

検査方法。

を決める。

基準を満たした原料には。

『内田生活工房認定』

の印を付ける。

さらに。

完成品にも検査印を付ける。

「これなら」

トーマが言った。

「どの商会で作っても、一定の品質を保てますね」

「そう」

沙樹は頷いた。

「分業するなら、品質管理が一番大事だから」

その仕組みは。

瞬く間に広がった。

石鹸工房が増えた。

洗剤工房が増えた。

容器を作る職人が増えた。

運送商会も増えた。

そして

衛生用品を扱う専門店まで現れた。

市場には。

「普及石鹸」

「軍用洗濯洗剤」

「食器洗浄剤」

「掃除用洗浄剤」

「軍用足部衛生用品」

といった商品が並び始めた。

沙樹は市場を歩きながら、その光景を眺めていた。

以前は。

一つの商品を作るだけでも大変だった。

今では

一つの商品が、何十もの商会とギルドを動かしている。

「……面白い」

沙樹が呟く。

トーマが笑う。

「何がです?」

「商品って、売るだけじゃないんだね」

「はい?」

「商品を一つ作ると、その周りに仕事が生まれる」

原料。

製造。

包装。

運送。

販売。

修理。

設備。

検査。

教育。

そして次の新商品。

沙樹は遠くに見える工房の煙突を眺めた。

「一個の石鹸から、ここまで広がるとは思わなかった」

だがその日の夕方。

また新しい手紙が届いた。

差出人は。

軍だった。

『衛生用品の分業化について、大変興味深い報告を受けた』

そこまでは普通だった。

問題は。

その次の一文だった。

『軍だけではなく、王国全軍への供給体制を構築できないか』

沙樹は手紙を読み終えた。

「……」

トーマが恐る恐る聞く。

「今度は何です?」

沙樹はゆっくり手紙を差し出した。

「王国全軍だって」

「……」

トーマは沈黙した。

沙樹も沈黙する。

そして二人同時に

「仕事、増えすぎじゃない?」

そう呟いた。

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