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転生したので田舎で錬金工房を始めます ~地味な生活用品を作っていたら、なぜか王都で大騒ぎになりました~  作者: レモンティー


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■第二十五話 軍から足のかゆみを何とかできないかと言われた

「兵士たちから、衛生用品について別の要望があります」

王国軍補給局の男が、一枚の書類を差し出した。

沙樹は受け取った。

そこには、いくつかの項目が書かれていた。

『兵士の間で足のかゆみを訴える者が多い』

『長時間靴を履くため、足が蒸れる』

『皮膚が赤くなったり、かゆみが続いたりする者もいる』

そして最後に。

『何か対策できないか』

沙樹は真剣な顔になった。

「……これは石鹸だけじゃ解決しないかもしれない」

トーマが首を傾げる。

「足を洗えばいいのでは?」

「清潔にするのは大事だけど、原因が一つとは限らないよ」

沙樹は書類を指でなぞった。

汗。

蒸れ。

靴による摩擦。

小さな傷。

皮膚炎。

そして感染症。

白癬菌、いわゆる水虫なども考えられる。

「まず原因を調べないと」

沙樹は軍に返事を書いた。

『症状のある兵士は、軍医による診察を受けてください』

そして。

『症状の種類、発生場所、経過などを確認してください』

しばらくして。

軍医から詳しい報告が届いた。

沙樹は報告書を読みながら、眉を寄せた。

「……かなり多い」

行軍が続いた部隊ほど多い。

靴を長時間履く兵士ほど多い。

汗をかきやすい季節に増える。

足の指の間に症状が出る者もいる。

「やっぱり、湿気と衛生環境が大きそう」

しかし、軍医からは別の報告もあった。

「皮膚の状態が違う人もいる……か」

沙樹は頷いた。

だからこそ。

「一つの薬で全部治す、って考えちゃ駄目だ」

まず必要なのは、基本的な衛生管理だった。

足を清潔にする。

洗った後は、しっかり乾かす。

靴下を交換する。

靴を乾燥させる。

共同生活なら、タオルなどを共有しない。

そして症状が続く場合は、軍医に診てもらう。

「薬を作る前に、まず生活環境を変えないと」

沙樹は軍医と相談しながら、兵士向けの衛生対策をまとめていった。

ところが数日後。

軍側から、もう一つ要望が届いた。

『大量の兵士が共同で使用できる、足を清潔に保つための洗浄・衛生用品が欲しい』

沙樹は考え込んだ。

「共同の足洗い場か……」

兵士が何百人もいる。

一人ずつ風呂に入るわけにはいかない。

ならば。

「足を洗うための設備を作ればいい」

沙樹は紙を広げた。

大きな足洗い場。

清潔な水。

排水溝。

足を拭くための布。

そして。

「洗った後に、ちゃんと乾かす場所も必要」

図面に線を書き込んでいく。

足洗い場。

排水。

乾燥場所。

靴を乾かす棚。

靴下を干す場所。

「これなら何百人でも順番に使える」

トーマが図面を覗き込んだ。

「風呂場とは違うんだな」

「うん。目的が違うからね」

「しかし、ここまで作るのか?」

「だって、洗った後に足が濡れたままだったら意味がないでしょ」

「なるほど」

トーマは納得した。

「洗うだけじゃなくて、乾かすところまでがセットか」

「そういうこと」

さらに。

軍医と相談しながら、衛生用の消毒・衛生用品についても研究することになった。

工房では、これまで扱ってきた洗浄成分とは別に、強い消毒作用を持つ成分について調べる。

その中には、「次亜塩素酸ナトリウム」もあった。

沙樹は試験結果を見て、顔をしかめた。

「これは強すぎる」

「そんなにですか?」

トーマが尋ねる。

「濃度を間違えたら皮膚を傷める可能性がある。だから、普通の石鹸みたいな感覚では扱えない」

沙樹はすぐに方針を決めた。

原液をそのまま使わせることは絶対にしない。

濃度は製造段階から厳密に管理する。

そして、軍医と衛生担当者の管理下で、用途を限定した衛生用品として扱う。

「試験するなら、決められた濃度まで調整したものだけ」

沙樹は説明した。

「しかも、これは治療薬じゃない。傷や炎症がある人には使わない」

軍医も頷いた。

「症状のある兵士は、まず診察を受ける」

「はい」

「衛生用品は、あくまで衛生管理の補助として扱う」

「その通りです」

こうして軍医の管理下で、専用容器に入れた衛生液の試験が始まった。

試験方法についても、軍医と衛生担当者が管理する。

次亜塩素酸ナトリウム溶液希釈(10倍)。

使用量。

使用時間。

対象者。

すべてを記録する。

また、異常を感じた場合は直ちに中止する。

傷や炎症がある者は対象から外す。

かゆみや赤みが続く者については、衛生液だけで済ませず、軍医の診察を受ける。

数日後。

軍医から結果が届いた。

『足を洗う習慣が定着した』

『足を乾燥させる兵士が増えた』

『靴下を交換する意識も高まった』

沙樹は報告書を読みながら頷いた。

「やっぱり、まずそこなんだ」

さらに。

衛生担当者からも報告が届いた。

『足洗い場を設置した部隊では、洗浄後に足を乾燥させる習慣が広がった』

『靴と靴下の乾燥を徹底した部隊ほど、足のトラブルが少ない傾向が見られた』

沙樹は静かに頷いた。

「消毒液だけじゃない」

石鹸だけでもない。

洗う。

乾かす。

交換する。

靴も乾かす。

そして、必要なら医師に診てもらう。

「全部を組み合わせるんだ」

それが軍隊の衛生管理だった。

後日、沙樹は軍医に衛生用品のサンプルを渡した。

「ただし、これは足の病気を治す薬ではありません」

「分かっています」

「症状がある兵士は、必ず軍医に診てもらってください」

「はい」

「製品に記載された濃度と使用方法を守ること。傷や炎症のある皮膚には使用しないこと。異常があれば直ちに使用を中止すること」

軍医は容器を確認した。

「かなり慎重ですね」

「だって、何千人も使うんですよ」

沙樹は苦笑した。

「一人の使い方を間違えただけでも、大きな問題になりますから」

こうして完成したのが、

『軍用足部衛生液』

だった。

ただし。

これは足の病気を治す薬ではない。

あくまで、軍隊の足部衛生環境を整えるための補助用品だ。

容器には大きく注意事項が書かれた。

『製品に記載された使用方法を厳守すること』

『軍医または衛生担当者の指示に従うこと』

『傷や炎症のある皮膚には使用しないこと』

『異常があれば直ちに使用を中止すること』

『症状が続く場合は医療機関または軍医の診察を受けること』

沙樹は完成した容器を眺めながら呟いた。

「薬って、効けばいいってものじゃないんだよね」

トーマが頷く。

「安全に使えることも大事、と」

「そう」

沙樹は頷いた。

「特に軍隊みたいに、何千人、何万人が使うならね」

数週間後。

軍から再び手紙が届いた。

『足部衛生管理について、症状が劇的に改善し非常に役立っている』

『足を洗う習慣が広がった』

『靴や靴下を乾燥させる意識も高まった』

沙樹はそこまで読んで、少し嬉しそうに笑った。

「よかった」

しかし。

その次の一文を読んだ瞬間。

笑顔が消えた。

『普及石鹸をさらに十万個注文したい』

「…………」

トーマが後ろから覗き込む。

「どうしました?」

沙樹は無言で注文書を差し出した。

トーマは目を丸くした。

「十万?」

「十万」

「三万個じゃなかった?」

「三万個は最初の注文」

「……増えたのか」

「増えた」

トーマが笑い始める。

「結局そこに戻るんですね」

「うん……」

沙樹も苦笑した。

足の衛生用品を作った。

足洗い場を整備した。

乾燥の重要性を伝えた。

そして結果として。

一番売れたのは、普及石鹸だった。

最初は一個一銅。

安くて。

誰でも買えて。

毎日使える。

それだけの商品だった。

それが今では。

軍隊にまで大量導入されている。

沙樹は新しい帳簿を開いた。

表紙には、

『軍向け生活衛生用品』

と書いた。

中に項目を書き込んでいく。

石鹸。

洗濯洗剤。

食器洗剤。

掃除用品。

足部衛生用品。

「……軍隊って、人数が多いから」

沙樹は呟いた。

「一つの商品が広がると、ものすごい量になるんだね」

トーマが苦笑する。

「十万個ですからね」

「工場、また増やさないと」

「やっぱりそうなるのか」

二人で顔を見合わせる。

そして。

その日の午後。

また軍から新しい書類が届いた。

沙樹は嫌な予感を覚えながら封を開けた。

『兵士用の洗濯用品について相談したい』

「……今度は何?」

トーマが覗き込む。

その下には、さらに具体的な要望が書かれていた。

『泥だらけになった軍服を、もっと簡単に洗える洗剤が欲しい』

沙樹は天井を見上げた。

「軍向け商品まで始まっちゃった……」

トーマが笑う。

「最初は石鹸一個だったのにな」

「そうなんだよね」

沙樹は机の上に置かれた十万個の注文書を見た。

「……でも」

少しだけ笑う。

「泥だらけの軍服を簡単に洗える洗剤なら、軍隊じゃなくても需要ありそう」

トーマが黙った。

「……また商品が増えるぞ」

「うん」

沙樹は新しい紙を取り出した。

そして、商品開発の欄に書き込んだ。

『軍用・強力洗濯洗剤』

その下に、小さく付け足す。

『一般向けへの応用も検討』

こうして。

内田生活工房には、また一つ新しい市場が生まれた。

そして沙樹はまだ知らなかった。

軍服を洗うために開発した洗剤が。

やがて、農民、工事現場、宿屋、旅人、商人たちにまで広がっていくことを。

「……静かに暮らしたい」

沙樹はぼそりと言った。

トーマが笑った。

「もう無理じゃないですか?」

「……私も、ちょっとそう思う」

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