↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したので田舎で錬金工房を始めます ~地味な生活用品を作っていたら、なぜか王都で大騒ぎになりました~  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/54

■第十七話 石鹸を作っていたら、洗濯洗剤まで作ることになりました

「新しい素材……」

沙樹は、隣国から届いた素材一覧を眺めていた。

植物油。

乾燥果実。

香りのする木の皮。

薬草。

花。

樹液。

そして。

「これ、何?」

沙樹が指差した。

「洗浄用の植物?」

隣国の商人が頷く。

「はい」

「洗浄用?」

「昔から衣服を洗うときに使われている植物です」

沙樹は袋を開けた。

乾燥した小さな実が入っている。

「これを水に入れると?」

「泡が出ます」

「……」

沙樹は目を輝かせた。

「それ、ちょっと見せて」

すぐに実を水へ入れる。

揉む。

すると。

水面に細かな泡が立った。

「本当に泡が出る!」

トーマが驚く。

「石鹸みたいですね」

「うん」

沙樹は泡を手に取る。

「これ、洗濯に使えるかも」

商人が尋ねる。

「洗濯ですか?」

「衣服を洗うの」

「もちろん、そのために使っています」

「なるほど」

沙樹は考えた。

この世界では。

衣服は基本的に水で洗う。

汚れがひどい場合は灰や砂などを使う。

もちろん洗浄用の植物を使う地域もある。

しかし。

地域によって方法が違う。

品質も安定しない。

「だったら」

沙樹は言った。

「商品にしよう」

「またですか?」

トーマが苦笑する。

「だって便利じゃない?」

沙樹はさっそく試作を始めた。

乾燥させる。

細かく砕く。

粉末にする。

そして。

使いやすいように袋へ詰める。

最初の試作品。

水に溶かす。

泡立つ。

布を入れる。

揉む。

「……」

沙樹は汚れた布を確認した。

「落ちてる」

トーマも確認する。

「本当ですね」

もう一度。

今度は油汚れ。

少し落ちにくい。

そこで。

植物油から作った石鹸成分を少し加える。

もう一度洗う。

「落ちた!」

ガルドが驚く。

「これは便利ですね」

沙樹は笑った。

「よし」

新商品が決まった。

洗濯用洗浄粉

ただ。

名前が少し地味だった。

「……もっと分かりやすい名前にしよう」

「例えば?」

「洗濯粉」

「そのままですね」

「じゃあ洗濯石鹸粉」

「もっと分かりにくいです」

沙樹は少し考える。

「……洗濯洗剤」

トーマが首を傾げる。

「洗剤?」

「うん」

「どういう意味です?」

「洗うための剤」

「なるほど」

商品名は。

洗濯洗剤

になった。

価格は。

一袋五銅貨。

普及石鹸より少し高い。

だが。

一袋で十回以上洗濯できる。

「これなら安い」

沙樹はそう判断した。

試作品を王都店へ送る。

翌週。

リナから手紙が来た。

『洗濯洗剤、完売しました』

沙樹は驚いた。

「もう?」

「はい」

「何袋?」

「最初に送った三百袋です」

「三百袋全部?」

「はい」

「理由は?」

リナから詳しい報告が届いていた。

一番多かった感想。

「洗濯が楽になった」

二番目。

「手で揉む時間が短くなった」

三番目。

「衣服の汚れが落ちやすい」

そして。

四番目。

「香りが良い」

沙樹は笑った。

「やっぱり」

トーマが聞く。

「何がです?」

「石鹸と同じ」

「?」

「便利になると、一度使った人が戻らない」

トーマが頷いた。

「確かに」

さらに。

「お母さんが喜んでいる」

「子供の服が洗いやすい」

「作業着の汚れが落ちる」

そんな感想が集まった。

そして。

注文数。

三百。

五百。

千。

二千。

「……」

沙樹は注文表を見た。

「洗濯洗剤だけで二千袋」

トーマが笑う。

「新商品、大成功ですね」

「うん」

しかし。

沙樹はすぐに真顔になった。

「問題がある」

「何です?」

「材料」

「……」

「また材料だよ」

洗濯洗剤の原料も。

隣国から輸入している。

石鹸用の植物油も。

シャンプー用の素材も。

入浴剤用の素材も。

どんどん増えている。

「隣国から材料を輸入する量が、かなり増えています」

アルベルトが帳簿を確認する。

「はい」

「だったら」

沙樹は言った。

「もっとまとめて運びたい」

「輸送効率を上げるのですね」

「うん」

そこで。

新しい計画が始まった。

隣国の倉庫を拡張。

さらに。

大きな荷馬車を導入。

荷物を種類ごとにまとめる。

植物油。

乾燥素材。

香料。

薬草。

洗濯洗剤用素材。

それぞれ専用の保管場所を作る。

「これなら管理しやすい」

沙樹は倉庫を見渡した。

しかし。

まだ足りない。

「輸送量も増やしたい」

アルベルトが尋ねる。

「馬車を増やしますか?」

「それもだけど」

沙樹は考える。

「一度にもっと運べないかな?」

トーマが首を傾げる。

「荷馬車より大きなもの?」

「そう」

沙樹は街道を見る。

現在の輸送は。

小さな荷馬車が何台も連なって走っている。

「もっと大きな荷車があれば」

「でも、道が狭い場所があります」

「じゃあ、道を整備する?」

トーマが苦笑する。

「そこまでしますか?」

「……」

沙樹は黙った。

「しない」

「ですよね」

「でも、国境までの道がもう少し広ければ、輸送が楽になるんだけど」

アルベルトが口を開く。

「実は」

「はい?」

「隣国側も、街道整備を考えているそうです」

「本当?」

「交易量が増えていますから」

沙樹は驚いた。

自分の工房が材料を買う。

隣国の農家が作物を増やす。

商人が運ぶ。

交易量が増える。

その結果。

街道を使う人も増える。

「……私たちだけの問題じゃなくなってきた」

沙樹は呟いた。

ただの石鹸工房。

そう思っていた。

けれど。

一つの商品が売れる。

その裏側では。

原材料を作る人。

加工する人。

運ぶ人。

売る人。

そして。

道を使う人。

いろんな人が関わっている。

「商売って面白いね」

沙樹が言った。

トーマが笑う。

「やっと気づきましたか?」

「でも」

沙樹は少しだけ不満そうな顔をした。

「忙しい」

「それは変わりませんね」

「うん」

その日の夕方。

工房に一人の女性が訪ねてきた。

王都店の客だという。

「沙樹さんにお願いがあります」

「私に?」

女性は小さな袋を差し出した。

「これ、洗濯洗剤ですよね?」

「はい」

「とても便利でした」

「ありがとうございます」

「でも」

女性は少し困った顔をした。

「もっと香りのないものは作れませんか?」

「香りなし?」

「はい」

沙樹は頷いた。

「できます」

「本当ですか?」

「むしろ簡単です」

「それなら助かります」

女性は笑った。

「夫が香りの強いものを嫌がるので」

「なるほど」

女性が帰ったあと。

沙樹はメモを取った。

無香料洗濯洗剤

そして。

その横に。

敏感な人向け

と書いた。

「商品って、いろんな人に合わせていくものなんだな」

一つ作ったら終わり。

ではない。

使う人の声を聞く。

少し変える。

また作る。

そして。

より使いやすくする。

沙樹は新しい試作品を作り始めた。

香りなし。

泡立ち控えめ。

洗浄力は維持。

すすぎやすい。

翌日。

完成した試作品を見て。

沙樹は満足そうに頷いた。

「これならいける」

トーマが聞く。

「商品名は?」

沙樹は少し考えた。

「普通に……」

そして。

「無香料洗濯洗剤」

「やっぱり、そのままですね」

「分かりやすいほうがいいの」

こうして。

内田生活工房の商品棚には。

石鹸。

シャンプー。

入浴剤。

洗濯洗剤。

無香料洗濯洗剤。

また一つ。

新しい商品が増えた。

そしてその夜。

隣国の商人から届いた手紙には

また新しい素材の名前が書かれていた。

「食器洗浄に使用できる植物」

沙樹は手紙を読んだ。

しばらく黙ったあと

小さく笑った。

「……次は食器か」

トーマが言う。

「作ります?」

沙樹は少し考える。

そして「作ってみよう」

こうして内田生活工房は

身体を洗うものから服を洗うものへ。

そして

食器を洗うものへ。

生活の中の「洗う」を

少しずつ変えていくことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。