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転生したので田舎で錬金工房を始めます ~地味な生活用品を作っていたら、なぜか王都で大騒ぎになりました~  作者: レモンティー


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■第十六話 隣国に倉庫を借りることになりました

「植物油を十倍?」

沙樹は、隣国からやって来た商人を見つめた。

「はい」

商人は頷く。

「現在の取引量では、我々の生産者側にも余力があります」

「余力?」

「もっと作れます」

「どのくらい?」

「現在の十倍程度なら、問題ありません」

沙樹は腕を組んだ。

「そんなに作れるんだ……」

「我が国では、その植物油の原料となる作物を昔から大量に栽培しております」

「なるほど」

「ですが」

商人は少し困った顔をする。

「安定した買い手が少ない」

「だから、余っている?」

「その通りです」

沙樹は考え込んだ。

需要がある。

供給もある。

問題は。

「運ぶこと」

だった。

今までは。

必要になったら注文。

隣国から荷馬車で運ぶ。

工房で受け取る。

それで済んでいた。

しかし。

十倍になれば話が変わる。

「一度に全部運ぶのは難しいですよね」

「はい」

「じゃあ、隣国側で保管すればいい」

商人が目を丸くする。

「保管?」

「倉庫を借りるんです」

「こちら側に?」

「はい」

沙樹は紙を広げた。

「隣国の生産者さんから、いったん倉庫に集めてもらう」

「なるほど」

「一定量が集まったら、まとめてこちらへ運ぶ」

「それなら輸送効率も良くなります」

「ですよね」

さらに沙樹は考える。

「検品も、できれば隣国側で一度やりたい」

「品質確認を?」

「うん」

「それは可能です」

「じゃあ決まり」

話はあっという間に進んだ。

隣国の国境近く。

大きな街道沿い。

そこに古い倉庫があった。

以前は穀物を保管していたらしい。

今はほとんど使われていない。

「ここ、借りられます」

商人が言った。

沙樹は中を見る。

広い。

かなり広い。

「……これなら十分」

「家賃も安いです」

「じゃあ、ここにしよう」

こうして。

内田生活工房は。

初めて隣国に拠点を持つことになった。

看板を取り付ける。

内田生活工房 隣国原料倉庫

沙樹は看板を見上げた。

「……本当に作っちゃった」

トーマが笑う。

「隣国支店ですね」

「支店というほどじゃないよ」

「でも看板があります」

「倉庫だけだから」

「それでも立派な海外拠点です」

「海外……」

沙樹は少しだけ遠い目をした。

転生する前。

普通に生活していた頃には。

まさか異世界で。

国境を越えた商売をすることになるとは思ってもいなかった。

「まあ……」

沙樹は倉庫の中を見る。

「材料を買うためだけの場所だし」

そう考えることにした。

翌週。

最初の大量入荷が始まった。

農家から。

植物油の原料が運ばれてくる。

一台。

二台。

五台。

十台。

倉庫の前に荷馬車が並ぶ。

「すごい量……」

トーマが呟く。

「これ、全部買うんですか?」

「買います」

沙樹は即答した。

「契約した量だからね」

原料を受け取る。

品質を確認。

水分。

汚れ。

異物。

状態。

問題がなければ倉庫へ。

担当者が記録する。

農家名。

数量。

品質。

買い取り価格。

納入日。

「ちゃんと記録しておけば、後から何かあっても分かる」

沙樹は言った。

「この農家さんの原料は品質が良かった」

「こちらは少し水分が多かった」

「この人は納期が早かった」

「こういう情報を残しておく」

トーマが頷く。

「商売の成績表みたいですね」

「そんな感じ」

そして。

ある農家の原料を見たとき。

沙樹が止まった。

「これ、いい」

「良いですか?」

「うん」

粒が揃っている。

乾燥状態も良い。

異物もほとんどない。

沙樹は農家の名前を記録した。

「この人には、少し多めに注文してもいいかも」

「品質が良いから?」

「そう」

単純に。

一番安い材料を買う。

それだけではない。

安定して良い材料を作ってくれる人と長く取引する。

それも大切だ。

「商売って、結局人との付き合いなんだなあ」

沙樹は呟いた。

そして。

一か月後。

最初の大量輸送の日が来た。

隣国の倉庫から。

巨大な荷馬車の列が出発する。

植物油。

原料。

薬草。

香料。

全部まとめて。

国境を越える。

沙樹は工房側で待っていた。

遠くから。

馬車が見えてくる。

「来た!」

従業員が叫ぶ。

一台。

二台。

三台。

次々と入ってくる。

「多いな……」

沙樹は笑った。

荷物を降ろす。

倉庫が埋まっていく。

「これだけあれば、しばらく大丈夫」

トーマが尋ねる。

「どのくらい持ちます?」

沙樹は計算する。

「今の生産量なら二か月くらい」

「二か月」

「でも」

沙樹は苦笑する。

「注文が増えたら、もっと早くなくなる」

「ですよね」

その予想は。

翌日に当たった。

王都店から手紙が来た。

普及石鹸。

シャンプー。

入浴剤。

そして隣国向け高級石鹸。

すべて注文が増えている。

沙樹は数字を見る。

「……また増えた」

トーマが尋ねる。

「どれくらいです?」

「全部合わせると、今までの一・五倍くらい」

「……」

「二か月分が、一か月ちょっとでなくなる」

「……」

二人で黙る。

すると。

隣国の商人が笑った。

「では、次の仕入れを増やしましょう」

沙樹は苦笑した。

「そうですね」

そして。

もう一つ。

沙樹は思いついた。

「次は、材料を運ぶだけじゃなくて」

「はい?」

「完成した商品を運ぶ馬車も一緒に戻せばいい」

商人が目を丸くする。

「帰りの馬車を?」

「空で戻るの、もったいないでしょ?」

隣国から材料を運んでくる。

帰りの荷馬車に。

隣国向けの商品を積む。

石鹸。

シャンプー。

入浴剤。

そうすれば。

「往復で荷物を運べる」

アルベルトが頷いた。

「輸送費を抑えられます」

「だよね」

沙樹は笑った。

「行きも帰りも、荷物を積めばいい」

商人も頷いた。

「確かに、そのほうが合理的です」

こうして。

新しい輸送ルートが決まった。

隣国から原材料。

こちらから完成品。

国境を越えて。

互いの商品が行き来する。

最初は。

ただの石鹸だった。

それが。

いつの間にか。

農家。

倉庫。

輸送。

工房。

店舗。

全部がつながり始めていた。

そして。

その夜。

沙樹は新しい帳簿を開いた。

表紙には。

「原料輸入・商品輸出管理帳」

と書いた。

「……ここまでやるとは思わなかった」

トーマが笑う。

「でも、楽しそうですよ」

「そう見える?」

「はい」

沙樹は少し考えた。

「……まあ」

そして。

帳簿に数字を書き込みながら笑った。

「材料がちゃんと届いて、商品がちゃんと売れるなら」

「はい」

「結構楽しいかも」

その翌朝。

隣国から新しい手紙が届いた。

沙樹が開封する。

そこには。

『次回より、植物油だけでなく、石鹸用の香料、薬草、果実、さらに新しい素材も供給可能です』

と書かれていた。

沙樹は目を輝かせた。

「新しい素材?」

その瞬間。

今度は。

「何が作れるかな」

という考えが頭に浮かんだ。

石鹸。

シャンプー。

入浴剤。

それだけではない。

化粧水。

クリーム。

洗濯用洗剤。

食器洗い用の洗剤。

そして。

まだこの世界にない、いろいろな生活用品。

沙樹は新しい素材の一覧表を見つめた。

「……ちょっと楽しみになってきた」

静かに暮らす

その目標はもう、とっくに遠くなっていた。

けれど沙樹はまだ。

それを完全には諦めていなかった。

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