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転生したので田舎で錬金工房を始めます ~地味な生活用品を作っていたら、なぜか王都で大騒ぎになりました~  作者: レモンティー


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■第十五話 隣国向けの商品を作ることになりました

「隣国向けの商品……?」

沙樹は、机の上に並べられた手紙を見ていた。

石鹸。

シャンプー。

入浴剤。

隣国の商人からの注文書が三枚。

「はい」

アルベルトが頷く。

「隣国の商人たちは、かなり興味を持っているようです」

「でも、今の商品をそのまま送ればいいんじゃないですか?」

「それが……」

アルベルトが少し困った顔をする。

「隣国では、香りの好みが少し違うようです」

「香り?」

「はい」

沙樹は首を傾げた。

「どんな香りが好きなんですか?」

「花の香りよりも、木や果実系の香りを好む人が多いそうです」

「なるほど」

沙樹は考えた。

「じゃあ、隣国向けに作ってみよう」

「すぐ作るのですか?」

「だって、せっかく材料を輸入してるんだし」

沙樹は隣国から届いた植物を取り出した。

乾燥した果実の皮。

香りの強い木の樹皮。

少し甘い香りのする葉。

「これを使ってみよう」

最初に作ったのは石鹸。

普及石鹸と同じ製法。

そこへ。

隣国産の香料を少量加える。

混ぜる。

成形する。

乾燥。

翌日。

完成した石鹸を手に取る。

「……いい香り」

トーマも匂いを嗅ぐ。

「今までの花の香りとは違いますね」

「うん」

爽やか。

少し甘い。

そして。

どこか落ち着く。

「これ、結構好きかも」

沙樹は笑った。

次はシャンプー。

こちらは少し難しかった。

「香りが強すぎる」

最初の試作品を使った沙樹は顔をしかめた。

「これは駄目」

「そんなに?」

「洗っているときはいいけど、髪に残りすぎる」

配合を減らす。

もう一度。

今度はちょうどいい。

「これなら大丈夫」

そして入浴剤。

こちらはさらに簡単だった。

隣国産の乾燥植物。

果実の皮。

香りのする葉。

粉末化して混ぜる。

小袋に詰める。

「三種類作ろう」

一つ目。

森の香り。

二つ目。

果実の香り。

三つ目。

温かい木の香り。

トーマが笑った。

「温かい木?」

「なんとなく」

「またなんとなくですか」

「商品名って難しいんだよ」

結局。

商品名はもっと普通になった。

森林

果実

樹木

三種類。

そして。

隣国の商人に試供品を送った。

三日後。

返事が届いた。

「どうだった?」

沙樹が聞く。

アルベルトが手紙を読む。

「かなり好評です」

「本当?」

「特に果実の香りが人気のようです」

「へえ」

「そして」

アルベルトが続ける。

「隣国の商人から、追加注文です」

「何個?」

「石鹸一万個」

「一万……」

「シャンプー五千個」

「五千……」

「入浴剤一万袋」

沙樹は机に手をついた。

「また増えた……」

トーマが笑う。

「売れてますね」

「売れてるけど……」

沙樹は帳簿を見る。

材料。

人件費。

包装。

輸送。

税。

倉庫。

設備。

数字がどんどん大きくなっている。

「これ、本当に儲かってる?」

トーマが固まる。

「え?」

「売上は増えてる」

沙樹は指で帳簿を叩く。

「でも、支出も増えてる」

「……」

「作る量が増えると、材料も増える。人も増える。倉庫も必要。輸送も必要」

「はい」

「売上だけ見てたら駄目だ」

沙樹は電卓代わりの計算板を取り出した。

一個あたりの原価。

材料費。

包装費。

人件費。

輸送費。

税金。

それぞれ計算する。

「……」

しばらくして。

沙樹が顔を上げた。

「ちゃんと利益は出てる」

「よかった」

「でも、商品によって違う」

「どういうことです?」

「普及石鹸は利益が薄い」

「はい」

「でも大量に売れる」

「はい」

「高級石鹸は利益が大きい」

「なるほど」

「シャンプーはさらに利益が大きい」

「ほう」

「入浴剤は材料費が安いから、結構いい」

沙樹は商品ごとの数字を並べた。

「……面白い」

「何がです?」

「商品によって役割が違うんだよ」

普及石鹸。

安くて、たくさん売れる。

高級石鹸。

数量は少ないが利益が大きい。

シャンプー。

継続的に買ってもらえる。

入浴剤。

消耗品なのでリピートが期待できる。

「一つの商品だけに頼らないほうがいい」

沙樹は言った。

「なるほど」

「普及石鹸でお客さんに知ってもらって」

「はい」

「シャンプーや入浴剤を買ってもらう」

「はい」

「高級品も欲しい人には、高級品を売る」

トーマが感心する。

「店全体で考えるわけですね」

「そう」

その日の夕方。

王都店からも報告が来た。

「普及石鹸を買ったお客さんが、シャンプーも買うようになっています」

リナからの報告だった。

さらに。

「入浴剤を一度買った人の中には、同じ香りを何度も買う人もいます」

沙樹は笑った。

「やっぱり」

「何がです?」

「消耗品って強いんだよ」

一度買ったら終わりではない。

使えばなくなる。

なくなれば、また買う。

そして。

気に入れば、同じものを買い続ける。

「これなら工房を安定させられるかもしれない」

沙樹はそう思った。

しかし。

翌日。

また問題が起きた。

「沙樹さん!」

従業員が走ってくる。

「隣国向けの入浴剤ですが」

「はい」

「香りが弱くなっています」

「え?」

沙樹が確認する。

確かに。

最初の試作品より香りが弱い。

「材料は同じ?」

「同じです」

「配合も?」

「同じです」

沙樹は袋を開ける。

「……保管だ」

「保管?」

「隣国から輸入した材料の香りが、時間が経つと弱くなってる」

「どうします?」

沙樹は考えた。

そして。

「保存方法を変える」

密閉容器。

遮光。

低温。

乾燥。

それぞれ条件を試す。

一週間。

二週間。

一か月。

どの条件なら香りが維持されるか確認する。

そして。

最も状態が良かった方法を標準化する。

「材料ごとに保管方法を決めよう」

「はい!」

こうして。

工房にはまた新しい表が増えた。

原材料保管基準

温度。

湿度。

光。

容器。

保存期間。

「なんか、研究所みたいになってきましたね」

トーマが言う。

沙樹は笑う。

「生活用品工房なんだけどね」

その夜。

沙樹は工房の二階から外を眺めていた。

道路には馬車が走っている。

その中には。

国内から集めた材料。

隣国から輸入した材料。

そして。

完成した商品を運ぶ馬車もある。

石鹸。

シャンプー。

入浴剤。

たった数か月前まで。

沙樹は自分の家に風呂を作っただけだった。

それが今では。

国内の農家から材料を買い。

隣国からも材料を輸入し。

商品を作り。

王都へ送り。

隣国へも送り出している。

「……大きくなったなあ」

沙樹は呟いた。

すると。

階段からトーマが顔を出した。

「沙樹さん」

「ん?」

「明日の予定ですが」

「何?」

「隣国の商人が来ます」

「また?」

「はい」

「今度は何の話?」

トーマは苦笑した。

「材料についてです」

「材料?」

「隣国側から、もっと大量に植物油を買ってほしいそうです」

「どのくらい?」

「今の十倍くらい」

「…………」

沙樹は黙った。

そして。

ゆっくり空を見上げた。

「十倍……」

少し考える。

「じゃあ」

沙樹は笑った。

「向こうにも大きな倉庫を作ってもらわないとね」

「買うんですか?」

「うん」

「そんなに?」

「材料があるなら、買えるうちに買っておいたほうがいい」

沙樹はそう言った。

この判断が後に内田生活工房をさらに大きく変えることになるとは。

このときの沙樹は、予想できなかった。


挿絵(By みてみん)

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