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転生したので田舎で錬金工房を始めます ~地味な生活用品を作っていたら、なぜか王都で大騒ぎになりました~  作者: レモンティー


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■第十八話 食器洗剤を作ったら、料理店から大量注文が来た

「……これ、食器にも使えるんじゃない?」

隣国から届いた原料を眺めながら、沙樹は呟いた。

工房の倉庫には、最近になって見慣れない原料が増えている。

植物油。

乾燥させた洗浄植物。

香りの強い果実。

薬草。

樹皮。

そして、隣国では昔から洗濯に使われているという泡立つ植物。

洗濯洗剤を作るために調べていた沙樹だったが、ふと思った。

「洗濯に使えるなら……油汚れにも強いはず」

食器洗い。

この世界では、基本的に水と布や植物繊維を使って皿をこすっている。

軽い汚れなら、それで十分。

しかし。

「油料理は……大変そうだよね」

沙樹は工房の隅に置かれていた皿を手に取った。

昨日の夕食で使ったものだ。

焼いた肉。

炒めた野菜。

油を使った料理。

皿の表面には、薄く油が残っている。

布で拭く。

水で流す。

もう一度こする。

「……やっぱり落ちにくい」

沙樹は腕を組んだ。

「これを簡単に落とせたら、かなり便利じゃない?」

思いついたら試す。

それが沙樹だった。

「トーマ」

「はい?」

「洗濯洗剤の試作品、少し持ってきて」

「食器に使うんですか?」

「そう」

トーマは少し不安そうな顔をした。

「……大丈夫なんですか?」

「たぶん」

「たぶん……」

「だから試すの」

沙樹は笑った。

「失敗するかもしれないけど」

「それなら、まあ……」

トーマは試作品を持ってきた。

沙樹は少量を水に溶かす。

そして布につける。

油のついた皿をこする。

「……お?」

油が、少しずつ浮いてきた。

さらに水を加える。

こする。

「落ちる」

トーマも皿を覗き込んだ。

「本当ですね」

「もう一回」

別の皿に肉の脂を塗る。

今度は、もっとひどい油汚れだ。

洗剤を少量。

水を少し。

布でこする。

「……かなり落ちる」

沙樹は満足そうに頷いた。

「これは使える」

しかし。

「問題は手だね」

洗剤を手につけてみる。

しばらくして、沙樹は手を洗った。

「少し乾燥する」

「やっぱり強すぎますか?」

「洗浄力は強いけど、毎日使うものだから、もう少し調整したい」

そこで沙樹は配合を変えた。

洗浄植物の量を減らす。

石鹸由来の成分を少し加える。

植物油から作った成分を加える。

さらに水で薄めても洗浄力が落ちすぎないように調整する。

何度も試した。

一回目。

泡は多い。

しかし手が少し荒れる。

二回目。

手には優しい。

だが油が残る。

三回目。

油は落ちる。

泡も十分。

手への刺激もかなり減った。

「……これならいける」

沙樹は試作品を見つめた。

商品名を考える。

そして。

「食器洗剤」

あまりにも普通だった。

トーマが苦笑する。

「また、そのままですか?」

「分かりやすいほうがいいでしょ」

「まあ……」

「洗濯洗剤もそうだったし」

「確かに」

沙樹は容器を用意した。

透明な瓶。

そこに商品名を書く。

『食器洗剤』

使用方法も書いた。

「水で薄めて使う」

「少量で十分」

「使用後は水でよく洗い流す」

そして。

「手荒れが気になる人は布や手袋を使う」

ここまで書いて、沙樹は頷いた。

「よし」

まずは工房の人間で試す。

昼食後。

全員の食器を集めた。

「今日はこれを使って洗ってみて」

リナが王都店から戻ってきていた。

「新商品ですか?」

「そう。食器洗剤」

「食器まで洗えるんですか?」

「そう」

リナは半信半疑で皿を洗った。

「……あ」

「どう?」

「油がすぐ落ちます」

「本当に?」

「はい」

リナは別の皿を洗う。

鍋も洗う。

フライパンも洗う。

そして。

「これ、料理店ならものすごく便利ですよ」

沙樹の手が止まった。

「料理店?」

「はい」

リナは当然のように言った。

「料理店って、毎日大量の皿を洗いますから」

「……」

沙樹は黙った。

「家庭向けだけじゃなくて、業務用にも売れる」

「はい」

「……なるほど」

まただ。

沙樹は天井を見上げた。

「私はただ、皿を楽に洗いたかっただけなのに」

トーマが笑った。

「いつものことですね」

「そうなんだけど……」

翌日。

王都店に試作品を置いた。

販売価格は家庭用で一袋5銅。

10回から15回ほど使える量にした。

すると。

最初に買ったのは、意外な客だった。

「これ、本当に油が落ちるのか?」

料理店を営む男だった。

リナが説明する。

「はい。試作品がありますので、よかったら試してください」

男は厨房から持ってきた皿に油を塗った。

「これでどうだ?」

洗剤を少量。

水を加える。

布でこする。

「……」

男が黙った。

もう一度こする。

「……落ちてるな」

さらに鍋を持ってきた。

「これも」

洗う。

「おお……」

男の顔が変わった。

「これ、いくらだ?」

「5銅です」

「一袋?」

「はい」

「全部くれ」

「え?」

「店で使う」

リナは驚いた。

「全部と言っても、まだ20袋しかありませんが……」

「じゃあ20袋」

その日のうちに売り切れた。

翌日。

別の料理店が来た。

「昨日の食器洗剤をくれ」

「何袋ですか?」

「50」

「50……」

リナが注文票を見る。

その翌日には。

「100袋欲しい」

「100……」

さらに別の店。

「うちは200袋」

沙樹は王都店から届いた注文書を見て、固まった。

「……家庭用に作ったんだけど」

リナが言った。

「料理店のほうが大量に使いますね」

「そりゃそうか」

一日に何十枚、何百枚もの皿を洗う。

鍋もある。

調理器具もある。

家庭とは使用量が違う。

沙樹はすぐに計算を始めた。

「家庭用と業務用を分けよう」

「業務用ですか?」

「うん」

業務用は容器を簡素にする。

香りも控えめ。

大容量。

価格も一回あたり安くなるようにする。

「一袋じゃ足りない」

「では?」

「大きな容器に入れる」

沙樹は試作品を作った。

五リットル相当。

さらに十リットル相当。

「料理店なら、こっちのほうがいい」

業務用食器洗剤。

一度に大量に使える。

そして「詰め替えも作ろう」

トーマが頭を抱えた。

「また詰め替えですか」

「詰め替えのほうが安いから」

「確かに……」

数日後。

王都店には、新商品が並んだ。

家庭用食器洗剤。

業務用食器洗剤。

そして詰め替え用。

すると料理店だけではなかった。

宿屋。

食堂。

酒場。

菓子店。

パン屋。

次々に注文が入った。

「皿を洗うのが楽になった」

「油鍋が洗いやすい」

「水の使用量が減った」

「洗い場の時間が短くなった」

店主たちから、そんな声が届く。

沙樹は注文数を見ながら呟いた。

「……洗濯洗剤より、こっちのほうが伸びるかもしれない」

理由は単純だった。

衣類は毎日全部洗うわけではない。

しかし。

料理をする店では、食器は毎日必ず汚れる。

つまり。

「毎日使う消耗品」

沙樹はそこに気づいた。

石鹸。

シャンプー。

洗濯洗剤。

食器洗剤。

どれも一度買ったら終わりではない。

使えばなくなる。

なくなれば、また買う。

「……なるほど」

沙樹は帳簿を眺めた。

「生活用品って、そういうことなんだ」

一つの商品で大儲けするのではない。

毎日の生活の中で、少しずつ使われる。

そしてなくなったら、また買ってもらえる。

「これなら工房を安定させられる」

沙樹は少しだけ嬉しくなった。

しかしその日の夕方。

隣国原料倉庫から新しい報告が届いた。

『洗浄植物の追加供給が可能』

さらに『新しい植物性原料を発見』

その一文を読んだ沙樹は。

「……また?」

思わず頭を抱えた。

新しい原料。

新しい商品。

新しい注文。

そして新しい仕事。

沙樹の静かな生活は、今日も少しずつ遠ざかっていた。

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