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朝帰り

 その後も順調に敵を倒しつつ進み、十層まで到達する。紋様のかすれ具合から地上では陽が落ちているだろう頃合いだ。


『帰らなくていいのか?そろそろ素材も持ちきれないだろ』


「そうですね。今日はこの辺で帰りましょうか」


 十層まで降りるのに半日かかったのに、同じ道を戻らないと行けないとなると帰れるのはいつになるんだ?


「転移の魔法で……。と言いたいところですが、残念ながら準備はしてないので、同じ道を通って帰ります。次回来る時に転移できるようにしておきましょうか。お二人共手を貸してください」


 リヒトに言われ二人はそれぞれ手を差し出す。というか完全にリヒトになってるんだが、疑問に思わないのだろうか?


 リヒトは魔石を一個取り出すと、ナイフの先で自分の指を刺し血を魔石に吸収させる。


「こうして魔石に自分の魔力を記憶させておく事で記憶させた魔石のある場所に転移できるようになります」


 二人共とても感心したようにリヒトの話を聞いている。


「私の知っている転移は、転移専用の魔石で移動する方法でしたので、驚きました」


「そうですね。その方法もあるのですが、地上に戻る事はできますが、迷宮戻る事ができないんです。お金もかかりますし僕は字の読み書きもできないので、紋様を刻む事ができないんです。ですから、この方法を編み出しました」


 リヒトの説明を聞き、二人も同じように魔石に血を吸収させる。血を吸収させた魔石は十層の壁の隙間に隠す。


「では、戻りましょうか。外は夜になっているはずですから」


「はい。ところであなたは誰でしょう?」


「はい?嫌だなぁ。ぼ、俺はミツハルだぜ」


 だぜってなんだよ。そんな喋り方だったっけ?


『ヒドイ真似だなおい』


「嘘ですね……。わかりました。とりあえずは戻りましょう」


 アーシェは完全に気付いているようだが、戻るほうを優先する。


 帰りは楽かと思いきや、階段が登りだったため降りる時より時間がかかった。


「もう少しです。頑張ってください」


 リヒトは全く疲れていないが、アーシェとミーニャからは明らかに疲労の影がうかがえる。


 迷宮入り口に到着した頃には、すでに夜が明けていた。ほとんど丸一日迷宮に潜っていた事になる。


『今日は宿に戻って休んで、迷宮探索は明日からにしよう』


 入り口は、出てきた俺達とは逆に早朝から迷宮に入ろうとする冒険者で賑わっている。俺(リヒト?)達はそんな冒険者達を尻目に宿に向かう。


 ブリジットのオススメ亭に着くと女将のマリーさんが食事を用意してくれていた。


「あんた達!次の日になるんならちゃんと言っておいてくれないと困るよ!小さい子も連れてるんだから……。どれだけ心配したか……。お風呂にも入れるからね!今日はゆっくり休むんだよ!」


 怒るマリーさんは、母親のように俺達を心配してくれていたようだ。


 俺達は風呂に入り、食事を摂ってからそれぞれの部屋で休む。リヒトが眠る前に摂ってきた素材の整理を行う。起きたらギルドに引き取ってもらいに行く予定だ。


「ミツハル。これはなんですか?」


 部屋置いてあったムルステ村のドワーフからもらった杖を手にリヒトが尋ねてくる。重くて持ち運びに邪魔なので部屋に置きっぱなしにしておいたのだ。


『あぁ。ムルステでドワーフが拾ったんだとさ。お前倒れてた近くにあったからお前のじゃないか?ってもらったんだ。知ってるか?』


 リヒトはじっくり杖を見る。


「いえ……。僕は見た事が……。しかしこれは……」


『お前のじゃないなら得したな!売れればいいんだがな。じゃぁ、寝ようぜ!俺も寝れるのか試してみる』


「そうですね。流石に疲れました。少し休みます」


 ベッドに入り、俺達は眠る。



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