リヒト
放った魔法が影の前で霧散する。一体どういう仕掛けなのか……。二回目である。
剣を抜き高速で横薙ぎの一撃を振るう。剣術指南は受けた事はないが、剣のスピードと力には自信がある。愛用しているロングソードは業物ではないが魔力を付与してある。避けても受けてもタダでは済まないはずだ。
影は僕の剣を受けるでも避けるでもなく、ただ何もせずそこに立っているだけだ。
残酷だけれど、目の前の影は真っ二つになるはずだ。
「どうして!?」
影は消えていた。完全に捉えたスピードだったはずなのに目の前に影はない。
「本当、魅力的だよねぇ。君の身体ってさ」
耳元で男とも女とも取れない声で囁かれる。全身に鳥肌が立ち、背後に向けて剣を振る。
「惜しい惜しい。もう少しだった」
また影が消えている。これは何かの悪夢だろうか?今まで魔物だけを相手にしてきて対人戦はした事がないが、ここまで何もできないことがあるのだろうか?
「君は誰だ!?僕に何の用なんだ!?」
「ボクはねぇ……。君が欲しいんだよ。君の身体をもらうんだ。でも君は要らないからさぁ。身体だけおくれよ」
月明かりに照らされるフードを被った影は、笑いながらそんな事を言う。
「何をふざけた事を!僕の身体は僕のものだ!誰かに盗られたりなんてしない!」
僕は身体中の全魔力を右手に込める。自分の持っている闇以外の属性魔力を集める。
「あはは。流石です!単身でフォーリアの迷宮を攻略しただけはありますね!“闇”以外の全属性を感じます!そこまでの魔力を持ってる“人”は見た事がないです。そんなの受けたらボクどうなっちゃうんでしょう!?」
ほぼ全魔力を込めた右手を突き出す。これで僕の魔力はほとんどなくなってしまう。だけど、これを受けたら生きていられるはずがない。
直撃した。影が魔力の渦に呑まれる。影は消滅するはずだ。
「あっはっはー……。アハハハハハハ。凄いですよ!フフフ。可笑しくって、フフ、アハハハハハハ」
全魔力を使い果たした僕はその場に膝をつく。
「そん……な……」
影は無傷だった。何事もなかったようにそこに立っている。
「悔しがる事ないですよぉ。ボクには最初からあなたの攻撃なんて通用しないんです。ボクは闇そのものですからねぇ。あなたが闇属性も持っていたら別だったのに、残念でしたねぇ」
影は僕に近づき杖を取り出す。
「あぁ。消える前におしゃべりしましょうか?」
「ふざけるな……」
影は聞いてもいないのにペラペラと話し出す。
「これを見た事がありますか?ないですよねぇ?これは人から造った魔石の結晶なんですよ!そうですよねぇ。人から魔石を造るということは、魔石になっちゃった人は死んじゃいますもんねぇ。大きいでしょう?何人分だと思います?千人ですよ!凄いでしょう!これはありとあらゆる魔法を吸収しちゃうんです。あなたのような凄い人でも吸収できちゃうんですよぉ。ま、あなたを吸収するために造ったから当たり前ですけどねぇ。そのために千人も!なんて罪深い人なんですかリヒト君は!」
「何を勝手な事を……」
「ボクの名前はユリウス。まぁ、君の精神とは二度と会う事はないでしょうけど、あっちの世界でも思い出してね!アハハハハハハ」
影は僕の頭に杖をかざして……。僕は死んだ。




