王様の隠れ家
外へ出るとアーシェがため息混じりに話す。
「はぁ……。どうなることかと思いましたよ。あんな事して、後で仕返しとかされたらどうするんですか」
『ホントですよ!仕返しされるのは僕の身体なんですよ!』
「いやぁ。わるい。つい……な」
笑って答えるが、怒られても仕方ない。今は三人で行動しているのだ。俺だけでなくアーシェやミーニャまで被害を受けるかもしれないのだ。リヒトはどうでもいいけど。
『聞こえましたよ。心の声が!』
「でも、なんだかスッキリしました!みんなの変わりに怒ってくれてありがとうございます」
「うん。お兄ちゃんかっこよかったよ!」
『そうですね。かっこよかったですよ』
アーシェが初めて、営業スマイルではない笑顔を見せてくれた。忘れていたが、アーシェはかなりの美少女だ。この笑顔を見せられたら意識してしまう。
「こ、これからどうするんだ?宿でも探すのか?」
すでに辺りは暗くなり、腹も減っている。因みに金もない。
「少し歩きますが、知り合いの宿があります。今日はそこに泊めてもらいましょう。料理も美味しいですよ」
「美味しいの??」
ミーニャが「美味しい」というフレーズに目を輝かせる。ヨダレでてる。ヨダレ……。
アーシェの知り合いの宿は北区方面にあるということなので、俺達は広場を反対側に回り北区を目指す。アーシェが言っていた通り、神殿の後ろにはもう一つ建物があり、メトの迷宮入り口になっているようだ。入り口付近には数人の兵士と冒険者がいる。かなり大きな入り口で奥には下に降りる階段も見える。
迷宮の入り口は見るだけにして、アーシェのついて宿を目指す。さっき通ってきた南区のように冒険者向けの店舗が並び、そこを過ぎると一般的な住宅街に出て更には高級住宅街まで進んだところでやっとアーシェが止まった。
「ここです」
見るといくつかは星がついてそうな高級ホテルの佇まいだ。看板が掲げてあるが……。読めない……。盲点だった。言葉は理解できたのに文字は読めないということに今更になって気付く。
『おい、なんて書いてあるんだ?』
心の声でリヒトに尋ねる。
『分かりません。僕は鍛練に夢中で勉学のほうはまったく……』
この身体に合わせた能力しかないってことか?
『なんだよ。脳筋かよ……』
『ノウキンが何かわかりませんが、馬鹿にしました?』
『いや?俺の国の言葉では頭まで筋肉でできている英雄の意味だ』
「『王様の隠れ家亭』って書いてあるね!」
ミーニャが看板を読んでくれた。
「!?」
『!?』
『おい……。リヒト……』
『言わないでください。わかってます……』
「ミーニャすごいね!大人でも文字を読めない人がいるのに、もう読めるんだ?」
アーシェがミーニャを褒める。
「お母さんが教えてくれたの。もう十一歳だからいっぱい勉強したほうがいいって」
「そうなんだ。いいお母さんだったんだね」
「うん。とっても優しいお母さんだったんだよ」
母親を思い出したのか、ミーニャの目がウルウルしている。
「いい匂いがする……」
あぁ。そっちですか……。
「ちょっと待て。王様の隠れ家亭って、メチャクチャ高そうな感じがするんだが?大丈夫なのか?」
名前がやばい。絶対、貴族とかしか使わない宿だろ。
「え?うん……。まぁ、大丈夫ですよ」
ちょっと濁した!




