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リヒトの謎

『王様の隠れ家亭』は、その名前と見た目通りの高級宿だった。アニメや漫画で観た冒険者の宿とは違い、中には喧騒とは程遠く落ち着いた雰囲気で、食堂ではなくレストランかカフェを思い浮かべるようなオシャレな空間になっている。


 中に入るとアーシェはフロントの男性に話しかける。俺とミーニャは落ち着かずキョロキョロと辺りを見ていた。


「少々お待ちください。女将を呼んできますので」


 フロントの男性がそう言うと、奥に引っ込んでいく。てっきり支配人かなにかだと思ったのだが、女将というところが宿っぽいなと感心する。


 男性が奥に引っ込んでから一分もしないうちに、奥からバタバタと足音が聞こえてくる。奥から現れたのは、ジブリ映画にでも出てきそうな豪華な衣装に身を包んだ中年の女性だ。


 女性は走ってくるなり、アーシェを抱き締めて……締め上げてないか?


「アシェル様!ようこそいらっしゃいました!しばらくお顔をみていないと思ったら、こんなにお痩せになって!ちゃんと食べているんですか!?」


「久しぶりね。メリッサ。ちゃんと食べてるわよ。それと降ろしてくれないかしら?」


「あらやだ。ごめんなさい。そちらの方々はご学友ではなさそうですね?」


 メリッサはアーシェを離すと、俺達のほうをみる。


「えぇ。この人達は冒険者になるためにメトにやってきました。私の護衛をしてもらっています。それで、メリッサ。お願いがあるんだけど、今日一晩だけ泊めてくれないかしら?もちろん代金も支払います」


「構いませんわ!それに、宿泊代なんて気になさらないでください!」


「それと、何か食べる物も用意してほしいのだけれど……」


「かしこまりました。すぐに用意させます」


 ちょっと待て。ひょっとしてアーシェはとんでもなくお嬢様なのか?言葉遣いまでお嬢様っぽくなってるぞ。


「お部屋は三部屋でよろしいですか?」


「いえ、この子と同じ部屋でいいので、二部屋お願いします」


 ミーニャの頭に手を置き話す。


「かしこまりました。それでは、お部屋までご案内させていただきますので、こちらへどうぞ」


 女将に案内され、俺達はそれぞれの部屋へと入る。食事の用意ができたら呼びにくるということなので、俺はそれまで部屋で休むことにする。時間がわからないのが不便だ。大体夜の九時頃だろうか?


『なんだか疲れましたね』


 リヒトが話しかけてくる。


「あぁ。そうだな……。昨日ムルステを出てまだ二日目なのにな。お前も疲れたりするのか?」


『あぁ。そうでした。僕は疲れてないですね』


「なんだよ。お前も疲れろよ」


 なんだかムカつくのでイヤミを言う。


「そういえば、お前は頭良さそうな喋り方するのに文字読めないのな」


 そうだ。リヒトの話し方には知性を感じるのに文字を読めないのは意外だった。


『あぁーー。正確には違うんです。この世界で広く使われてる文字の読み書きは勉強不足で、フォーリアで使ってる文字なら普通に読めますよ?』


「そうなのか?フォーリアだけ違うってことか?どんな文字なんだ?」


『口で説明するのが難しいですね。そこに紙とペンがありますね。書いてもらってもいいですか?』


 ベットの脇にテーブルがあり、紙とペンが用意されている。普通の紙ではなく羊皮紙というやつだろうか?


 ペンにインクをつけ日本語を書いてみる。


『読めませんね。これがミツハルの世界で使ってる文字ですか?』


「この文字は俺の住んでいる国だけだよ」


 今度は英語でBloodと書いてみると思わず反応があった。


『あ!近いです!この文字は!』


 今度は、ドイツ語でBludと書いてみる。


『読めます!血のことですね?』


「これはドイツ語っていって俺の世界にあるドイツって国の言葉だ。なんでこの世界で使われてるんだ!?」


『フォーリアでは四百年程前からこの文字が使われてます』


 そういえばそうだ。こいつの名前もドイツ語で光の意味だ。


「四百年前?闇の魔術師がどうたらって時代か?」


『その話……。誰から聞きました?』


 リヒトの声が急にトーンダウンする。


「ルグ教の司祭から聞いたが?」


『そうですか。なら、もう話すことはありません』


 理由を聞こうとしたところで、扉がノックされる。


「お食事の用意ができました」


 俺は部屋から出て、外で待っていたアーシェとミーニャと一緒に食堂に降りた。リヒトに聞くのはいつでもできる。





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