悪夢
「またステルベンだよ。家族にムンテラとかさぁ。本当に気が重くなるよなぁ」
お前が説明する訳じゃないだろう。説明するのはお前の指導医だろうが。
「ホントホント。急に死ぬとさ、しつこく聞いてくる家族とかいるじゃん。あれはマジ勘弁してほしい。どうせ、聞いたって分かんないだろうにさ」
なんで死んだか、気になるのは普通だろうが。
「だよな!俺らにまでどうしてですか先生?って聞いてきてさ。ポリクリにわかるわけないっつーの」
私立の医学部にはこんな感じのお坊ちゃんが多いんだよなぁ。苦労知らずっていう。あぁ、こいつの顔は知ってるぞ。大手美容整形チェーンのお坊ちゃんだ。
「全くだ!早いとこポリクリと研修医終わらせて実家で王様したいよな」
こいつもヒドイな。一生馬鹿な医者でもやってろ。
顔が見えない。誰だっけ?顔を見ようと美容整形の坊ちゃんから目を離し首を動かした。鏡を見るとそこに映っていたのは俺の顔だった。
あぁ。俺はこんな顔をしていたのか……。鏡に映る俺の顔はリヒトの顔とは全く違い、憎たらしい嫌な笑いを浮かべている。この顔じゃ、ギルドにいた冒険者と変わらないな。
自分の顔を見て吐気を感じる。起きなければ……。こんな悪夢は見たくもない。
「お前まだネットゲームとかやってるの?そろそろ卒業して、もっと楽しいことしようぜ!適当に海外に留学とかしてみねぇ?」
折角、覚醒しようとしているのにチャラいお坊ちゃんが話しかけてくる。
「それいいな!田舎の大学とか患者ってちょっと海外留学の経験付いてるだけで、エリート医者と勘違いするもんな。マジウケる」
やめろ。もういい……。やめてくれ。
「ホントホント。馬鹿すぎ」
「やめろぉ!」
自分の声で覚醒する。
アパートではなく、「王様の隠れ家亭」の一室だということに心底安堵する。
昨日の夜は皆と食事を摂り、女将に勧められるままにエールを何杯か飲んで、記憶がなくなった。日影光晴はそこそこ飲めたはずだが、リヒトの身体はアルコールに不慣れだったようだ。
元の世界の普段の夢がまるで悪夢のようだ。
「俺はあんな軽薄で傲慢な人間だったのか……」
『あれが元の世界のミツハルですか?何を言ってるのかわかりませんでしたが、あまり気分のいいものではなさそうでしたね』
リヒトに話しかけられ安堵する。こいつは俺の夢まで共有できるのか。
「昨日は話の途中だったのに、急にどうしたんだ?怒っているのか?」
『いえ、そういう訳ではないんです。少し考えていました』
「そうか……」
『聞かないんですか?』
「いや、今はいい。お前が話したくなったら話してくれ」
『そうですか。ではしばらく様子を見させてもらいますね。僕はそっちのミツハルのほうが好きですよ。さぁ!今日は冒険者ギルドに行って冒険者になるんですよ!顔を洗って準備をしましょう!』
あの夢でリヒトに幻滅されたのではないかと心配したが、リヒトは気を遣ったのか明るく話してくる。
「おう!お前の最強とやらを試してやるよ」




