メト中央区冒険者ギルド
門から十分程歩くと市場を抜け閑静な住宅街に入る。アーシェによると、この辺は一番治安が良くて、貴族や大商人、成功した冒険者などが住んでいるらしい。更に二十分程歩くと一般的なアパート建造の建物が並び、更に進むと怪しげな店や酒場、武器や防具など販売している店舗が多く見られる。
トータル一時間程歩いただろうか。急に視界が開け、直径二百メートルはあろうかという広場へと出た。広場の中心には神殿のような建物が建っている。
「これは神殿か?冒険者ギルドに向かってたんじゃないのかよ」
「ここが中央区の冒険者ギルドです。ルグ教の神殿でもあります。メトの迷宮への入り口も神殿の裏にあります」
『なるほど……。そういうことですか』
今までブツブツと独り言しかいってなかったリヒトが納得したように話す。
「へぇ。全部一緒になってるのか」
「まぁ、そうですね。一階が冒険者ギルドになっていて、二階より上がルグ教の神殿になっています。私も半年程ここで神官の勉強をしたんですよ」
冒険者ギルドや迷宮の入り口があるせいか、武装した人々が多い。俺達三人は建物の中に入った。
中に入ると城にあるような大きな階段があるが階段の前には兵士が立っていて、簡単には登っていける雰囲気ではない。
階段の両サイドには扉があり、その奥が冒険者ギルドになっているようだ。
扉を開け冒険者ギルドの中に入る。中は食堂と酒場も併設になっているのか、多くの冒険者達が酒をビールのようなものを飲んでいる。
「神殿の中で酒飲んでるのかよ」
「そうですね。おかしいですよね」
思った事を口にした。それにはアーシェも同意するが、近くの冒険者達に聞こえたのか“あぁん!?”といった感じで睨まれる。
びびったりすると相手の思うツボなので、チラッとみるだけで無視する。それでも睨んでくるが完全無視を決めて受付カウンターへと向かう。
カウンターは三つあるが、夜間のためか一つしか開いていないため、開いているカウンターへ並ぶ。受付に座っているのは三十代くらいの女性だ。
「お待たせしました。冒険者カードの提示をお願いします」
冒険者カード?身分証のようなものだろうか?
「いえ。私達はまだ冒険者登録をしていません」
アーシェが答える。
「あら?では、今日は冒険者登録を?それとも依頼でしょうか?」
「近いうちに冒険者登録はしますが、今日は別の報告がありやってきました」
冒険者でも依頼者でもない俺達を幾分胡散臭そうに見て、聞いてくる。
「どのような報告でしょう?」
アーシェは受付の女性に耳打ちのような形で商団が襲われて、冒険者達が亡くなった事を伝える。
すると受付の女性は口に手を当ていかにもビックリしてます。といった演技がかった仕草をする。
「まぁ、それは大変!上の者に話を通してきますので、少々お待ちください」
事を大きくしないために小声で話したのにもかかわらず、受付嬢の大袈裟な態度で台無しになった。数人の冒険者は何事かとこちらを観察している。
五分程待つと受付嬢が戻ってきて、奥へと通される。
応接室のような部屋に案内されると中では一人の中年男性が待っていた。五十歳位の太ったおっさんだ。名乗りもしないで勝手に話し始める。
「フー……報告は受けた。こちらの台帳では商団の護衛に北区のギルドから、フー……ゲイル・ビネガーとハンス・ドーゼンが同行してたとあるが、フー……全滅したのは間違いないのかね。フー……」
おっさんは息継ぎで話すのも大変そうだ。
「いえ。全滅ではなく獣人の子供が生き残りました。それと、ゲイルさんの死亡は確認しましたが、ハンスさんという方がどなただったのかはわかりません」
「フー……全く……とんでもない事をしてくれたもんだ……フー……全滅だったのだろう?その獣人の子供は本当にその場にいたのかね?フー……」
「ゴブリンを殺した後、生存者を捜した時に俺が見つけた」
あまりにやる気のない態度にイラつき、ついつい口を挟む。おっさんは俺をチラッと見てから興味なさそうに話し始める。
「フー……戦闘の時にはいなかったのだろう?フー……だったら後から紛れ込んだのかもしれぬ。フー……獣人の孤児にはそういった輩が多いからな。フー……詳しい調査はこちらで行う。君らは冒険者になるんだろう?フー……あまり事を荒立てない方がいいぞ?フー……報告ご苦労だった。行ってよし。出口はそっちだ。さぁ!」
俺達は追い出されるように応接室を出た。
『これが冒険者ギルドのやり方ですよ。依頼を失敗したとなるとギルドの評判が落ちますからね。生存者にも賠償金が支払われます。おそらくはもみ消して事件をなかった事にする気でしょう』
リヒトが憤慨している。俺は冒険者になる事自体が馬鹿馬鹿しくなってきた。アーシェはひどく落ち込んでいるし、ミーニャは今にも泣き出しそうだ。泣かないでよく耐えたな。俺はミーニャの頭を優しく撫でた。
「ご苦労様でした。こちらはギルド長からの御礼です。お受け取りください」
応接室の外では受付嬢が待っており、袋を渡してくる。中には金が入っているのだろう。要するに口止料だ。
叩きつけてやりたい衝動に駆られるが、黙って受け取る事にする。ここで問題を起こすより、死んだ冒険者の遺族かミーニャに渡したほうが得策だ。
ギルドの酒場へ戻ると俺達に視線が集まり、コソコソと何かを話している。大方、お喋りな受付嬢がベラベラと顚末を話したのだろう。
やはり、ここでも無視を決め込んでギルドから出ようとするが、出口に近づいたところで聞こえてくる。
「ヒャーヒャヒャッ。冒険者が迷宮から逃げて、護衛なんてガキでもできる仕事なんてやって、挙げ句の果てにおっちんじまったときたぁ。酒が美味くてしょーがねーな。おい」
無意識だった。左手でそいつの胸倉を掴み持ち上げる。かなりの大男だったが、簡単に持ち上げる事ができた。
「もういっぺん言ってみろ!酒飲んで笑ってる奴に逃げずに死ぬまで戦ったヤツの何がわかるんだ!おい!」
その場は一気に鎮まりかえり、首が締まった大男はすでに気を失っていた。俺は男を離すとギルドから出た。




