夢のエネルギー
「だからねぇ~」
ねっとりと囁くように話す伊佐美はご機嫌で、かつ危険だ。椅子から立ち上がると歩き廻り始めて、独演会を開始した。
「普通地球にあるものは大なり小なり放射能……。放射線を浴びてるんだ」
欠伸をする芹澤巡査部長がウンウンと頷いている。もしかしたら、子守唄が何かに聞こえているのかもしれない。
「でもボクはさっき言ったよね?ガイガーカウンターの針が動かなかったって……」
確かにそんな事を言っていた。俺と婦警さんは視線を交わすと記憶を反芻し、確信して頷きあった。
「じゃあなんでこの石は、ほんのりと自分で光っているんだろうね?放射線も浴びてないのに……」
百物語でも話しているのかというテンションの伊佐美は勝手に部屋の電気を消した。すると小石から緑の光があふれて、わずかに伊佐美を照らしている。下から緑の光に照らされて自慢げに笑う伊佐美の顔は……まあまあホラーに見える。昔は可愛かった気がするのに……。
伊佐美は部屋の電気を再びつける。そして、石ころを握ると、煌々と照らす蛍光灯を指さして叫んだ。
「そもそも光とは、エネルギーの放出だ!こうやって電力というエネルギーが供給され、蛍光灯はそのエネルギーを光に変換するんだ」
「じゃあ、その石ころのエネルギー源はなんだよ?」
伊佐美が俺をビシッと指さした。フルフルと震えるその指は、如何に伊佐美が興奮しているのかを俺に教えてくれる。
「……そう!いい質問だねぇ〜。この石は自らエネルギーを放出し、発光しているんだ!!」
伊佐美が叫ぶように締めくくる。ここはなんだってぇ〜!と叫ぶところなのだろうか?芹澤さんに婦警さん、駅員さんも理解が追いつかないようだし、伊佐美の言うことがわからないのが、俺一人だけではないと言う事実。それがこんなに安心感を得られるものなのか……。新鮮だ。
俺たちのリアクションが薄いので、伊佐美は肩を落として諦めたようにトボトボと歩き、またパイプ椅子に座ると少しだけ、ギィと椅子が軋む。
「で、世紀の発見だっけ?」
ようやく自分の肩、デスクにフケがついていたことに気が付いた芹澤さんが、フケをはらい落としながら伊佐美に問いかける。
「そうだよ……」
口を尖らせて拗ねる伊佐美に、婦警さんが優しく微笑んでいる。あまり甘やかしてほしくないのだが、初対面の人に伊佐美の面倒くささは分かるまい。
「ごめんね?伊佐美ちゃん。私、理系じゃなかったから……」
「いや、いいんだよ婦警さん……。いつの時代も天才の発想、世紀の大発見は否定されるんだ」
伊佐美も先ほどの芹澤さんと同じようにデスクに突っ伏して、光る石をコロコロと転がしている。そう、こうやって拗ねているくらいの方が可愛げがあると言うものだと俺が思っていると、伊佐美の目に光が宿る。
「婦警さん!電気消して!」
伊佐美が叫んだ。俺も婦警さんも意味が分からず、キョトンとした顔で伊佐美を見ていた。
「え?」
「いいから!消して!」
伊佐美の剣幕に驚いた婦警さんが、慌てて部屋の電気を消す。また暗闇に包まれた部屋で、伊佐美の手にある石ころの緑色だけが光源だ。
「一体なんだってんだよ?」
眠くてこらえ性がなくなったのか芹澤さんが直ぐ様、伊佐美の真意を探る。その顔が疲れ切っていてなんとも申し訳ないのだが……。ん?待て。なんで芹澤さんの顔がよく見えるんだ?
「見てごらん!」
伊佐美が俺の肩を叩く。そして、石を転がすと石ころの緑の光が強くなる。やめると、また暗くなり、伊佐美が激しく転がすと、ゲーミングルームを彷彿とさせるくらいの緑の光が溢れる。
「この石は回転で、エネルギーをより激しく放出するんだ!」
「だからなんだよ?」
芹澤さんが立ち上がり、眠気を振り払うように背伸びをしたのに、また欠伸をしながら電気をつける。明るくなった部屋で伊佐美は、石ころを見つめてハァハァと肩で息をしている。変態だ。
「わかんない?わかんないの?これはエネルギー源なんだよ!これがいっぱい有ったら世界を変えるクリーンエネルギーになるんだって!」
みんなキョトンとしている。俺にだってクリーンエネルギーの重要性は分かる。俺たちは珍しく伊佐美の話が理解出来てなお、キョトンとしていた。
「世紀の大発見じゃないか……」
俺がそう呟くと、伊佐美は満足そうに頷いて満面の笑顔を見せた。




