シュール大作戦
そして、俺が次に思ったのはニヤけた顔で俺たちを見る芹澤さんと土方さんへの羞恥心だ。
「ちょっ!離れろって!」
「すごいよ!圭ちゃん、さすがはボクの幼馴染!」
聞く耳を持たない伊佐美をなんとか引き剥がす。さっきは防弾チョッキが邪魔だと思ったが、前言を撤回する。あってよかった。お陰で労せず伊佐美の体を押して、引き離すことができた。
「なんだ、もういいのか?」
そう言うと芹澤さんは、ニヤついた顔で俺たちを見る。
「うんうん、甘酸っぱい感じがしていいと思うぞ!」
腕を組んで頷いていた土方さんは満足そうに微笑んだ。駄目な大人たちが俺たちを茶化してくる。が、恥ずかしいのは俺だけで、抱きついてきた伊佐美にあっては、テントの下までスキップして行き、浅野さんに俺の思いつきを熱弁しているようだ。
「しかし、面白い事を思いついたね?圭介くん」
沖田さんが俺に歩み寄りながら話しかけてきた。唯一、俺を茶化さない常識的な大人の存在は、混乱した俺の心を落ち着かせる一助になってくれる。
「釣り堀に行った時の事を思い出したんで……」
「釣り堀……。なるほど、まき餌ということだね?おびき寄せる事が可能なら、安全に我々の武器が通用するのかを検証も出来る」
そう言って沖田さんは、その肩にぶら下がる小銃を見つめる。そして、小さくお手上げをし、苦笑する。
「これが果たしてあの怪物に効くのか、自信はないがね?」
「だったら、〇一でも何でも使えばいいだろう?」
土方さんも会話に混ざってくる。聞き慣れないまるひとと言う物がなんなのか、さっぱり分からない俺と芹澤さんの頭にはてなマークが浮かび上がる。
「そのまるひとってのは、なんなんで?」
芹澤さんがエリート自衛官に、お伺いを立てる。
「土方……。ここで対戦車ミサイル使う気か。天井崩れるぞ?」
呆れた顔で沖田さんが、まるひとが何なのか俺たちに教えてくれる。熱血と冷静のコンビで本当に良かったと俺は胸を撫で下ろす。
「あの渦の中なら問題あるまい?」
楽観的な土方さんが、相棒たる沖田さんにウインクをしながらおどける。
「短絡的すぎる。爆発で何が起きるのかも分からんのだぞ?」
沖田さんがヘルメットあるというのに、頭を掻いて呆れている。たしかに対戦車ミサイルは効きそうな気がするが、不確定要素が多すぎて俺の手に余る。
「圭ちゃ〜ん!オッケーでたよ〜」
伊佐美が両手を羽のように広げて走ってくる。白衣に防弾チョッキ姿でかけてくる様は、どこかのアニメキャラのようだ。
「おう、お疲れ!」
伊佐美が戻ってくると、いち早く声をかけたのは芹澤さんだった。芹澤さんの思惑は俺もわかる。対戦車ミサイルの話題に伊佐美を加えるべきではない。
「オッケーでたのは、わかったけど。どうやって匂いでおびき寄せるんだ?」
さすがにオタク戦士を餌におびき寄せるわけにもいかない。匂いの代案は何なのか。それは俺にも興味がある。
「シュールストレミングって知ってる?世界で一番臭い食べ物」
何年か前にネットの動画で見たことがある。配信者があまりの臭さに、嗚咽を漏らしながら食べていたが、付属のレシピを使ったら美味かったとかなんとか。
俺が二人の自衛官を、振り返ると今度は二人がテントの下に行っている。小銃以外の使用許可をもらっているだろう。今、土方さんがバズーカ砲を撃つジェスチャーをした気がする。
「何やっての。あれ?」
伊佐美が不思議そうに土方さんのジェスチャーを見て呟いた。結局、準備するのかと俺と芹澤さんは肩を落とす。これ以上隠していても仕方ないと、芹澤さんはため息を吐いて、自衛官二人の目的を端的に伝える。
「戦う準備だとよ?」
こうして官僚たちの話し合いが行われ、世界一臭い缶詰とごっつい銃器と、小型のバズーカが用意されていた。
「あれが最終手段……」
深緑色の小型のバズーカ砲に見えるものを軽々と肩に乗せて笑う土方さんは、心なしか楽しそうだ。たまに銃を撃つ為に自衛官になる人がいると聞くが、あの人もそういう類いなのだろうか?
沖田さんはアクリルみたいな透明なシールドを持ち、シュールストレミングの前にしゃがんでいる。フル装備の特殊作戦群VSシュールストレミングの戦いは何ともシュールだが、缶から仄かに香る臭気に開ける前だというのに、俺も服の袖で鼻を塞いでいる。
確実に安全な場所。テントの下からカウントダウンをする斎藤さんの声が響く。
「三、二、一!」
「開封!」
締まりのない宣言と共に、沖田さんが缶詰を開ける。途端、臭気が溢れ出しあの日に勝るとも劣らない匂いが充満する。
「目標、動きます!」
サイクロプスを追跡していたロボットを動かしていた佐野さんが叫ぶ。沖田さんは俺たちの隣に滑るように戻ってくると、戦争物の映画で見るような三脚で固定された重機関銃のグリップを握る。
渦の色が変わる。紫と赤の渦が回転を始める。あの日見たものと同じだ。俺は役に立てるかも分からないのに、竹刀袋から真剣を取り出す。カチカチと柄と鞘が鳴る。武者震いを悟られないように、抜刀の準備をするふりをして両手で刀を握る。
巨大な手が再び、新宿駅へと現れる。黒く長い爪、青いが浅黒い肌。誤算だったのは出力は上がったリニアコライダーの影響か、サイクロプスはその手だけではなく、その顔、その黄色く尖った牙、そして大きな一つ目をこちら側へとさらけ出した。そして、俺たちを見つけると、大きく口を開けて咆哮を上げる。
「ばあ゙ぁ゙ーーー!!!」
「撃てぇー!!!」




